978
2009年の精度競技を制した、Jaeger-LeCoultreの薄型自動巻きトゥールビヨン
Cal. 978は、Jaeger-LeCoultreが2009年に発表した自社製の自動巻きトゥールビヨンである。直径30mm・厚さ7.1mmと薄型ながら、毎分1回転するトゥールビヨンを備える。振動数は毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約45時間、石数は33石。チタン製を含む77部品のトゥールビヨンかごは0.5g未満に抑えられている。発表年の精度競技で首位を獲得し、以後は同社の基幹トゥールビヨンとして定着した。マスター・トゥールビヨンや、2026年のマスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・ジャンピングデートに搭載される。
| Maker | Jaeger-LeCoultre |
|---|---|
| Reference | 978 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 33 石 |
| Power reserve | 38 h |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Additional | Tourbillon Escapement |
系譜と歴史
トゥールビヨンを腕時計の日常へ
Jaeger-LeCoultreは、自社のトゥールビヨン開発を長い時間をかけて積み重ねてきた。1946年、精度研究の一環として懐中時計用のトゥールビヨン、Cal. 170を製作している。腕時計への展開は1993年で、矩形のCal. 828を積んだレベルソが同社初のトゥールビヨン腕時計となった。2004年には2軸の球状トゥールビヨンを備えたマスター・ジャイロトゥールビヨン1を発表し、機構の探求を続けた。
こうした流れのなかで2009年に登場したのがCal. 978である。複雑機構の誇示にとどまらず、薄型の自動巻きという日常的な器に高精度のトゥールビヨンを収めた点に、このキャリバーの位置づけがある。
2009年の精度競技
Cal. 978の評価を決定づけたのは、2009年にスイス・ル・ロックルの時計博物館が主催した「コンクール・アンテルナショナル・ド・クロノメトリー2009」である。1972年にヌーシャテル天文台の観測競技が終了して以降、初めて開催された本格的な精度競技であった。
試験は、標準的なCOSC検定が1回15日であるのに対し、15日間の検定を3回(計45日間)課す厳しい構成で、ムーブメント単体ではなくケースに収めた状態で行われた。耐衝撃、耐磁、温度変化への耐性も評価対象に含まれる。出品された16本のうち、Cal. 978を積んだマスター・トゥールビヨンが1,000点満点中909点で首位を獲得したと伝わる。精度調整師(régleur)の技を現代に呼び戻した競技であり、トゥールビヨンが日常使用の腕時計においても有効であることを示す結果となった。
基幹キャリバーとしての展開
受賞以降、Cal. 978は同社の基幹トゥールビヨンとして定着する。2011年にはマスター・デイト・トゥールビヨン39やマスター・グランド・トラディション・ア・トゥールビヨンへ展開された。2019年には機構と仕上げを全面的に見直す大規模な改良を受けている。
派生も広がった。デュアルタイム仕様のCal. 978B、小秒針仕様のCal. 978G(271部品)などのバリエーションに加え、2020年にはCal. 978を土台にムーンフェイズとジャンピングデートを加えたCal. 983が、マスター・ウルトラスィン・トゥールビヨン・ムーン向けに開発された。
再構築という選択
2026年のウォッチズ&ワンダーズでは、Cal. 978がマスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・ジャンピングデートとして再登場した。約305部品へと再構成され、開口部の多い文字盤からトゥールビヨンと日付機構を露出させる構成となっている。設計を置き換えるのではなく再構築して継続させる選択は、このキャリバーへの同社の評価をうかがわせる。
技術解説
Cal. 978は、直径30mm・厚さ7.1mmという薄型の自動巻きトゥールビヨンである。トゥールビヨンとは、脱進機(エネルギーを一定間隔で解き放つ機構)とテンプを小さなキャリッジ(回転かご)に収め、毎分1回転させることで姿勢差による精度のばらつきを平均化する仕組みを指す。重力の影響を一方向に固定させない発想で、本来は懐中時計のために考案された。Cal. 978はこれを腕時計用の薄型自動巻きへ統合した点に特徴がある。
トゥールビヨンのかごは、チタン製を含む77個の部品で構成され、その重量は0.5g未満に抑えられている。かごが軽いほど駆動に要するエネルギーは小さく、香箱から脱進機へ伝わる力の効率が高まる。チタンの採用は、この軽量化を支える素材選択である。テンプとトゥールビヨンは、2点で固定された切り欠き状の単一ブリッジで保持され、視認性と剛性を両立させている。
調速の核となるヒゲゼンマイ(テンプの振動を一定に保つ渦巻き状のばね)には、平面型の二層構造が採用される。取り付け部に特定の曲線を与えることで伸縮時の重心の偏りを抑え、振動の等時性を高める設計である。振動数は毎時28,800振動 (4Hz)で、1秒あたり8回の振動を刻む。4Hzは、日常使用での外乱への強さと精度の両立を狙った現代的な設定といえる。
自動巻き機構は、金製のローター(回転錘)が両方向の腕の動きを巻き上げへ変換する。ローターには筋目仕上げが施され、裏蓋のサファイアガラス越しに観察できる。香箱が蓄えるエネルギーにより、パワーリザーブは約45時間とされる(WatchBaseは一部仕様で48時間と記載)。石数は33石が標準で、小秒針仕様のCal. 978Gでは271部品・28石へと簡素化されている。
仕上げは、ブリッジ面取り(アングラージュ)、筋目(ストレートグレイン)、引き目(ドローンフランク)、コートドジュネーブ、ペルラージュ(円形装飾)など、手作業による高級仕上げが重ねられる。ブリッジ素材はモデルにより赤金(ピンクゴールド)や白金(ホワイトゴールド)が用いられる。
デュアルタイム仕様やマスター・グランド・トラディション系では、トゥールビヨンの開口部を日付指針が遮らないよう、毎月15日から16日にかけて指針が約90度を一気に跳ぶジャンピングデート機構が組み込まれる。文字盤周縁に配した日付目盛りと、中央のトゥールビヨンの視認性を両立させるための解法である。