系譜と歴史
トゥールビヨンを腕時計の日常へ
Jaeger-LeCoultreは、自社のトゥールビヨン開発を長い時間をかけて積み重ねてきた。1946年、精度研究の一環として懐中時計用のトゥールビヨン、Cal. 170を製作している。腕時計への展開は1993年で、矩形のCal. 828を積んだレベルソが同社初のトゥールビヨン腕時計となった。2004年には2軸の球状トゥールビヨンを備えたマスター・ジャイロトゥールビヨン1を発表し、機構の探求を続けた。
こうした流れのなかで2009年に登場したのがCal. 978である。複雑機構の誇示にとどまらず、薄型の自動巻きという日常的な器に高精度のトゥールビヨンを収めた点に、このキャリバーの位置づけがある。
2009年の精度競技
Cal. 978の評価を決定づけたのは、2009年にスイス・ル・ロックルの時計博物館が主催した「コンクール・アンテルナショナル・ド・クロノメトリー2009」である。1972年にヌーシャテル天文台の観測競技が終了して以降、初めて開催された本格的な精度競技であった。
試験は、標準的なCOSC検定が1回15日であるのに対し、15日間の検定を3回(計45日間)課す厳しい構成で、ムーブメント単体ではなくケースに収めた状態で行われた。耐衝撃、耐磁、温度変化への耐性も評価対象に含まれる。出品された16本のうち、Cal. 978を積んだマスター・トゥールビヨンが1,000点満点中909点で首位を獲得したと伝わる。精度調整師(régleur)の技を現代に呼び戻した競技であり、トゥールビヨンが日常使用の腕時計においても有効であることを示す結果となった。
基幹キャリバーとしての展開
受賞以降、Cal. 978は同社の基幹トゥールビヨンとして定着する。2011年にはマスター・デイト・トゥールビヨン39やマスター・グランド・トラディション・ア・トゥールビヨンへ展開された。2019年には機構と仕上げを全面的に見直す大規模な改良を受けている。
派生も広がった。デュアルタイム仕様のCal. 978B、小秒針仕様のCal. 978G(271部品)などのバリエーションに加え、2020年にはCal. 978を土台にムーンフェイズとジャンピングデートを加えたCal. 983が、マスター・ウルトラスィン・トゥールビヨン・ムーン向けに開発された。
再構築という選択
2026年のウォッチズ&ワンダーズでは、Cal. 978がマスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・ジャンピングデートとして再登場した。約305部品へと再構成され、開口部の多い文字盤からトゥールビヨンと日付機構を露出させる構成となっている。設計を置き換えるのではなく再構築して継続させる選択は、このキャリバーへの同社の評価をうかがわせる。