899A/1
1980年代のCal.889を源流とする、ジャガー・ルクルト自社製の薄型自動巻Cal.899系
Cal.899A/1は、ジャガー・ルクルトが自社で設計・製造する薄型自動巻キャリバーである。28,800vph (4Hz)で時・分・秒・日付を駆動し、32石、38時間のパワーリザーブを備える。1980年代のCal.889を源流とし、テンプ外周の調整ネジによるフリースプラング・テンプ、セラミックボールベアリング上で回る一方向巻き上げローターなど、機構を刷新した世代に属する。ヒゲゼンマイをレーザー溶接で固定し、緩急針を持たない精度調整を採る点が特徴である。ポラリス・オートマティックやマスター・ウルトラ・シン・デイトなど、同社の主要コレクションに広く搭載されてきた。
| Maker | Jaeger-LeCoultre |
|---|---|
| Reference | 899A/1 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 32 石 |
| Power reserve | 38 h |
| Movement ⌀ | 26 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date |
系譜と歴史
1. Cal.889から受け継いだ薄型自動巻の系譜
ジャガー・ルクルトは、自社製品の組み立てに先立ち、ムーブメントの供給者として歴史を築いてきたマニュファクチュール(自社一貫製造業者)である。1967年に発表されたCal.920は、わずか2.45mmという全回転ローター自動巻として、オーデマ・ピゲのロイヤル オークやパテック フィリップのノーチラス、ヴァシュロン・コンスタンタンのRef.222を支えた。一方、日付付きの薄型自動巻として1980年代に登場したのがCal.889であり、これがCal.899A/1の直接の源流となる。889もまたオーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、IWCなど他ブランドへ広く供給され、薄型時計の基幹機として用いられた。
2. 889から899への機構刷新
899系は、889を土台としつつ複数の要点を見直した世代である。889が緩急針による調整と、揺動レバーを介した双方向巻き上げを採っていたのに対し、899系はテンプ外周の錘で緩急を司るフリースプラング・テンプへ移行した。巻き上げ機構は、セラミックボールベアリング上を回るローターによる一方向式へと簡素化されている。あわせて香箱を拡大し、輪列の歯形を見直すことで巻き上げと駆動の効率を高めた。石数は889の36石から32石へ整理され、構成部品は219点とされる。
3. 派生と後継世代
899系からは、日付を持たない3針のCal.898や、ムーンフェイズを備えるCal.925/926など複数の派生が生まれている。Cal.899A/1は、時・分・秒・日付を備え38時間のパワーリザーブを持つ世代に位置づけられ、2018年に刷新されたポラリス・コレクションのオートマティックや、マスター・ウルトラ・シン・デイトに搭載された。2020年には香箱設計と潤滑、脱進機部品を見直し、パワーリザーブを70時間へ拡大したCal.899ACが登場する。現在の同社はこの新世代を含めて「Cal.899」の呼称で展開しており、/1やA/1、ACといった枝番表記は資料によって揺れがある。
技術解説
Cal.899A/1は、厚さ3.3mmに収めた中央ローター式の薄型自動巻である。28,800vph (4Hz)、すなわち1秒あたり8振動でテンプ(調速を担う振り子に相当する部品)が往復し、時・分・秒・日付を駆動する。
テンプとヒゲゼンマイ
本機の調速系は、緩急針を持たないフリースプラング・テンプである。テンプ外周に配した4本の調整ネジを回して慣性モーメントを変化させ、歩度を整える方式を採る。緩急針を用いる方式に比べ、調整の基準が外力で動きにくく、姿勢差や衝撃に対する安定性に優れるとされる。ヒゲゼンマイ(テンプに復元力を与える渦巻き状のぜんまい)はレーザー溶接で固定され、有効長の基準が保たれやすい構造である。
脱進機と振動数
脱進機(ぜんまいのエネルギーを一定間隔で逃がし、針の歩みを刻む機構)にはスイスレバー式を用いる。ガンギ車とアンクルが噛み合い、テンプの往復に同期して動力を小刻みに解放する、機械式時計の基本構成である。28,800vphという比較的高い振動数は、外乱に対してテンプが姿勢を保ちやすく、日差の安定に寄与する。なお、脱進機にシリコン部品を採るのは2020年以降の後継Cal.899ACであり、本機は金属部品による構成である。
自動巻機構
巻き上げは、セラミックボールベアリング上を回る中央ローターによる一方向式である。源流のCal.889が揺動レバーを介した双方向巻き上げを採っていたのに対し、本機は機構を簡素化し、金属軸受に比べ摩擦と注油への依存を抑える狙いを持つ。ローターの回転は減速輪列を経て香箱のぜんまいを巻き上げ、手巻きと併用できる。
香箱とパワーリザーブ
動力は単一の香箱(ぜんまいを収める部品)に蓄えられ、満巻きで38時間を確保する。889からの刷新にあたって香箱が拡大され、輪列の歯形見直しとあわせて駆動の効率が高められた。
仕上げと1000時間コントロール
ブリッジには面取りとコート・ド・ジュネーブ(平行な擦り目による装飾)、地板にはサーキュラーグレイン(円形の擦り目)が施され、ローターは肉抜き加工、ネジには焼き入れによるブルースクリューが用いられる。完成状態のムーブメントは、ジャガー・ルクルトが1992年に導入した自社検査「1000時間コントロール」を経る。約1000時間(およそ6週間)をかけ、温度変化や6姿勢での歩度、耐衝撃、防水、パワーリザーブなどを確認する内容で、第三者機関によるクロノメーター認定(COSC)とは別の、自社基準による品質保証である。