設計思想
小売店が作る特別仕様という文脈
128258Sを理解するには、まずブヘラー・ブルーという企画を押さえる必要がある。ブヘラーはスイス・ルツェルンに本拠を置く時計・宝飾の小売大手で、自社のコーポレートカラーである青を主題に、取引先ブランドと組んだ専用エディションを2016年から展開してきた。製造はブランドが担い、企画と販売はブヘラーが握る。通常の正規ラインとは別に、その小売店でしか手に入らない一本を仕立てる試みである。
ジャガー・ルクルトもこの企画に名を連ねたブランドの一つで、提供したのは同社の現代的なドレスウォッチ、マスター・ウルトラスリム・デイトだった。青を主題とする企画に対し、JLCが選んだのは複雑機構の誇示ではなく、シリーズの素性をそのまま生かした青文字盤仕様という抑えた回答だった。
ステンレススティールからレッドゴールドへ
ブヘラー・ブルーのマスター・ウルトラスリム・デイトは、まずステンレススティールケースの128848Sとして用意された。128258Sは、その青文字盤を18Kレッドゴールドのケースへ移した姉妹仕様にあたる。
両者は文字盤・ムーブメント・基本設計を共有し、分かつのはケース素材とストラップの色である。ステンレススティール版が日常的な装いに寄るのに対し、レッドゴールド版は素材の格を一段上げ、青の文字盤とストラップで全体を統一する。同じ企画の中で、より装飾性に振った選択肢として置かれた一本といえる。
通常カタログにない組み合わせ
レッドゴールドにブルー文字盤という取り合わせは、当時のジャガー・ルクルトの通常カタログには見られないものだった。正規ラインのレッドゴールド・デイトはエッグシェルやシルバーの文字盤を基本とし、青系の文字盤はおおむねステンレススティール側の役割だったからである。
128258Sの意味は、この正規ラインにない組み合わせを、小売店経由でのみ届けた点にある。新機構でも新サイズでもなく、既存の要素の組み替えで固有性を作る。ブヘラー・ブルーらしい、控えめだが明快な差異の付け方である。
意匠分析
128258Sの個性は、レッドゴールドのケースにブルーのサンレイ文字盤を収めた配色の対比に集約される。暖色の金と寒色の青が同居し、ポリッシュ仕上げのケースが光を受けるたび、文字盤の濃淡と響き合う。
ケースは40mm径、厚さ7.5mm。現行の39mmケース世代より一回り大きい、旧来のプロポーションに属する。ベゼルとケースサイドはポリッシュで仕上げられ、長く緩やかに伸びるラグがマスター・ウルトラスリムらしい清潔な線を描く。
文字盤はブルーのサンレイ仕上げで、光の角度によって濃淡が移る。インデックスはアプライドのバー、外周には小さなドットのミニッツトラックを備え、針はファセットを切ったドーフィンハンドである。日付窓は6時位置に置かれ、左右対称のレイアウトを崩さない。針とインデックスはレッドゴールドのケースに合わせた色調でまとめられる。
ストラップはケース色に呼応するブルーのアリゲーターで、レッドゴールド製のピンバックルが組み合わされる。黒のストラップを合わせたステンレススティール版に対し、青で統一した点が本機の見え方を分ける。
機構は自動巻のCal.899A/1。薄型ながら中央ローターを備える自社製ムーブメントで、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは38時間である。サファイアの裏蓋からは、コート・ド・ジュネーブ、面取り、ブルースクリューといった仕上げが見える。長く使われてきたCal.899系を載せる、世代的にも穏やかな一本である。
系譜と歴史
ブヘラー・ブルーは、スイスの時計・宝飾小売大手ブヘラー (1888年創業、ルツェルン) が2016年に立ち上げた専用エディションの企画である。自社のコーポレートカラーである青を主題に、複数のブランドが青文字盤の特別仕様を持ち寄る形で始まり、2018年のブヘラー創業130年に向けて拡大した。参加ブランドにはジャガー・ルクルトのほか、オーデマ ピゲ、IWC、パネライ、ピアジェ、チューダーなどが名を連ねた。
ジャガー・ルクルトはこの企画に、マスター・ウルトラスリム・デイトをベースとする青文字盤仕様で加わった。まずステンレススティールケースの128848Sが用意され、後年、同じ青文字盤をレッドゴールドケースへ移した128258Sが続く。WatchBaseは128258Sの生産を2022年頃と記録しており、ステンレススティール仕様より後発の追加とみられる。
128258Sは数量を明示した限定生産ではなく、ブヘラーの店舗およびオンラインショップを通じてのみ販売される流通限定として扱われた。現在はジャガー・ルクルトの定番カタログには現れず、ブヘラー経由で供給された一本として記録される。発表月や正確な生産期間を特定できる一次情報は確認できなかった。