381
2010年、デュアルウィング機構で時刻精度と複雑機構を両立させた、ジャガー・ルクルトの自社製手巻
Cal. 381は、ジャガー・ルクルトが2010年にデュオメトル・カンティエーム・リュネールへ初搭載した自社製の手巻きキャリバーである。2007年に登場したデュアルウィング機構を継承し、2つの香箱と2系統の輪列を1つの調速機構が制御する。一方の輪列が時刻表示と脱進機を、もう一方が日付と月齢という複雑機構を担い、複雑機構の動作が時刻精度へ及ぼす影響を抑える。毎時21,600振動 (3Hz)、パワーリザーブは各香箱50時間。374個の部品と40石で構成され、1秒を6分割するセコンド・フードロワイヤントを備える。
| Maker | Jaeger-LeCoultre |
|---|---|
| Reference | 381 |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 40 石 |
| Power reserve | 50 h |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds, Foudroyante Seconds |
| Date | Date |
| Astronomical | Moonphase |
系譜と歴史
1. デュアルウィングの着想
複雑機構を備えた時計には、古くから一つの矛盾がつきまとう。クロノグラフやカレンダーが動くと、香箱から取り出される力が変動し、調速機構である脱進機とテンプへ届くエネルギーが乱れる。これがテンプの振り角を変化させ、時刻精度を損なう。ジャガー・ルクルトがこの課題へ与えた回答が、2007年に発表したデュアルウィング機構である。時刻表示と複雑機構に、それぞれ独立した香箱と輪列を割り当て、両者が唯一の調速機構を共有する。複雑機構が消費する力は時刻側の輪列へ伝わらず、脱進機へは常に安定した力が供給される。開発は2005年頃に始まったと伝わり、最初の成果はデュオメトル・クロノグラフ用のCal. 380として結実した。
2. Cal. 381とカンティエーム・リュネール
Cal. 381は、このデュアルウィングをカレンダー時計へ応用したキャリバーである。2010年、デュオメトル・カンティエーム・リュネールへ初めて搭載された。一方の輪列が時刻表示と脱進機を受け持ち、もう一方が日付と月齢表示を駆動する。カレンダー機構の負荷が時刻精度へ波及しない構成は、Cal. 380の思想をそのまま受け継ぐ。文字盤中央では、セコンド・フードロワイヤントが休みなく回り続ける。これは1秒を6分割し、1/6秒単位で時を示す稲妻のような秒針で、本機の象徴となっている。日付と月齢はプッシュボタンで調整し、リューズを引くと中央秒針とフードロワイヤントがゼロへ戻る。
3. デュオメトルの系譜と2024年の刷新
デュアルウィングはデュオメトルという専用コレクションを得て、多様な複雑機構へ展開した。2009年にはグランドソヌリ、2012年にはスフェロトゥールビヨンが続き、いずれも独立した二系統の動力という同じ原理に立つ。2024年のウォッチ&ワンダーズで、デュオメトルは大幅な刷新を受けた。新型ケースは同社の19世紀のサヴォネット型懐中時計に着想を得た、丸みのある形状をとる。クロノグラフは月齢と昼夜表示を加えたCal. 391へ、トゥールビヨンは三軸機構のCal. 388へと発展した。Cal. 381も意匠を改め、初めてステンレススチール・ケースの構成が加わった。地板やブリッジの素材は、従来の洋銀から黄味を抑えた真鍮へと変更されている。
技術解説
Cal. 381の核心は、2つの香箱と2系統の輪列を1つの調速機構で制御するデュアルウィング機構にある。一般的な2香箱構造が、2本のゼンマイの力を直列または並列に合算して1つの輪列へ送るのに対し、本機は香箱ごとに用途を分ける点に特徴がある。
第一の香箱と輪列は、時刻表示と脱進機の駆動だけを担う。複雑機構へ力を取られないため、テンプ(調速のために往復回転する車)へ届くトルクが安定し、振り角の変動が小さく抑えられる。第二の香箱と輪列は、日付と月齢という複雑機構を受け持つ。両系統は唯一の調速機構を共有し、それぞれの香箱が約50時間のパワーリザーブを蓄える。文字盤上に並ぶ2つのパワーリザーブ表示は、この2系統それぞれの残量を別々に示している。
調速を司るのは、テンプとヒゲゼンマイ、そして伝統的なレバー脱進機からなる組み合わせである。振動数は毎時21,600振動 (3Hz)で、これはテンプが1秒間に6回の半振動を行うことを意味する。近年の高振動キャリバーと比べれば控えめな数値だが、3Hzは古典的な高級時計が好んだ周期であり、安定した力を供給するデュアルウィングと組み合わさることで、振り角の乱れを抑える設計思想に沿っている。
この6回という拍動が、セコンド・フードロワイヤントの分解能を直接決めている。フードロワイヤントの針は1秒で文字盤を1周し、6分割された目盛りを1/6秒ごとに刻んで進む。テンプの拍動に同期して間欠的に運針するため、滑らかに回るのではなく階段状に駆け抜ける動きとなる。カンティエーム・リュネールでは、この針が常時回り続ける点が意匠上の見どころとなっている。加えて、リューズを引くと中央秒針とフードロワイヤントが瞬時にゼロへ戻るゼロリセット機構を備え、基準信号に合わせた正確な時刻合わせを可能にしている。
ムーブメントは374個の部品と40石で構成され、厚さは7.25mmに収まるとされる。地板とブリッジには、伝統的に洋銀(メイラショール)が用いられてきた。銅・ニッケル・亜鉛の合金である洋銀はメッキを施さずに使われ、経年でやわらかな色合いへと変化する。切削加工が難しい素材だが、その質感を仕上げの見せ場とする高級時計が採用してきた。なお2024年に刷新された世代では、黄味を抑えた真鍮へと素材が改められている。
仕上げは、放射状に広がるサンレイ模様のコート・ド・ジュネーブをブリッジに施す点が目を引く。各部品は組み立て前に個別に面取りと装飾を加えられ、組み上がった状態で寸分の狂いなく噛み合うことが求められる。完成したキャリバーは、同社が全機種へ独自に課す「1000時間コントロール」と呼ばれる検査を経て出荷される。