03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
ETA を生んだブランドの自社回帰
エテルナは1856年、スイスのグレンヘンで創業した時計メーカーである。1896年には自社のエボーシュ部門として ETA を設立し、後に多くのブランドへ供給される汎用ムーブメントの源流となった。1948年には、ローター(回転錘)をボールベアリングで支持する「エテルナマチック」を発表する。巻き上げの摩擦を減らすこの機構は自動巻の効率を大きく高め、文字盤を飾る5つの球はそのままブランドの象徴となった。
20世紀後半の業界再編を経て、エテルナの多くのムーブメントは外部供給に依存する時期が続いた。Cal. 3030 は、こうした歴史を背景に自社製造へ回帰しようとする試みのひとつである。原型となったのは、1960年代に高い販売実績を残したヴィンテージの自動巻 Cal. 1504。これを若い技術者と設計者が全面的に見直し、現代の製造技術で再構成した。
薄型ビッグデイトという挑戦
Cal. 3030 の核心は、ビッグデイト(大型日付)を備えながら薄さを追求した点にある。一般的なビッグデイトは2枚の円盤を上下に重ねるため、その分だけ厚みが増す。エテルナはこれを並列配置に改め、レンズ状に湾曲した二枚の同心リングを左右に並べた。結果として、ビッグデイトを備える自動巻として同クラス最薄とされる厚さ4.63mm を実現したと謳う。
日付ディスクの位置決め車をボールベアリングで支持する構造も採用された。1948年のローター、2009年のスフェロドライブ(香箱をボールベアリングで支持する機構)に続き、ボールベアリングをビッグデイトへ応用した格好で、エテルナの一貫した工学言語を示す。
自社製ハローとしての位置
Cal. 3030 は2006年に発表され、翌年以降のヴォーン・ビッグデイトに搭載された。2016年には創業160周年記念のグランジュ1856にも採用されている。一方、近年のエテルナのラインは外部供給のムーブメントが中心であり、Cal. 3030 は数少ない自社製の象徴という位置づけにある。汎用ムーブメントの源流を生んだブランドが、自らの手で薄型機構を磨くという循環を体現するキャリバーである。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
Cal. 3030 は、中央ローター式の自動巻キャリバーである。直径30.0mm に対して厚さは4.63mm と薄く、振動数28,800vph (4Hz)、石数24石、パワーリザーブ48時間を備える。28,800vph (4Hz) は、テンプ(調速器)が1秒間に8回振れる速さを意味し、外乱に対して比較的安定した精度を保ちやすい。48時間のパワーリザーブは、薄型機構の制約の中で日常的な実用域を確保した値といえる。ローターには「ETERNA-MATIC」の刻印が入る。
レンズ状のビッグデイト機構
最大の特徴は、薄型化を支える日付表示の構造にある。ビッグデイトは、一の位と十の位を別々のディスクに分けて大きな数字を見せる方式である。多くの設計では、この2枚を上下に重ねて配置するため、その分だけ機構に厚みが生じる。
Cal. 3030 は、2枚のディスクを上下ではなく左右の同心リングとして並べた。さらに各リングはレンズ状に湾曲し、ドーム状の文字盤の曲面に沿うよう輪郭づけられている。これにより、文字盤から日付窓への移行が滑らかになり、機構全体の厚みも抑えられている。ムーブメント自体も両面が凸状に膨らむレンズ形状をとる。
ディスクの一方の位置決め車は、ボールベアリングで支持される。1948年に発表されたエテルナマチックの回転錘以来、ボールベアリングはこのブランドの技術的な核であり、ビッグデイトへの応用もその延長線上にある。日付送りは速進式で、深夜に1秒未満で切り替わる。時刻と日付はいつでも前後どちらにも調整でき、操作による損傷の懸念が小さい設計とされる。リューズを1回転させると日付が2日進む。
製造と仕上げ
主要部品の一部は、フォトリソグラフィ(写真製版に近い微細加工)で製造される。硬度の高いニッケルまたはニッケル・リン合金で複雑な微小形状を高精度に成形でき、摩耗に強い部品が得られる。これが機構の長寿命に寄与するとされる。ムーブメントは完全に分解でき、各部品を個別に交換できる構造で、保守性にも配慮されている。ボールベアリングの採用も、潤滑に頼らず摩擦と摩耗を抑え、長期の安定動作を狙ったエテルナらしい選択である。
仕上げの面では、ローターにコートドジュネーブ(ジュネーブストライプ)、ブリッジにはロジウム加工を施したうえでペルラージュ(真珠状の円形研磨)とスネイリング(渦巻き状の研磨)が加えられる。装飾と機能性を併せ持つ自社製ムーブメントとして構成されている。