03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 新たに設計された自動巻
Cal. 777Qは、2006年にブレゲがクラシック5177とともに発表した自動巻キャリバーである。5177は時・分・中央秒と日付という穏当な構成のドレスウォッチで、当初は白いエナメル文字盤や、バスケット織りや釘頭模様のギヨシェ文字盤で展開された。SJXによれば、5177はその後も発売当初と同じ777Qを積み続けている。2019年には青いグラン・フー・エナメル文字盤の版が加わり、ケースは直径38mm、厚さ8.8mmとほぼ薄型の寸法に収まる。
同じ2006年、ブレゲはクラシック5197に手巻のCal. 591Aを載せている。ただし両者の素性は異なる。591Aは、1977年のロンジン990を基にした数十年来のレマニア8810から派生した機械で、パワーリザーブは38時間にとどまる。これに対し777Qは新たに開発された機械であり、SJXは、そのことがより手の込んだ構造と55時間という長いパワーリザーブに表れていると指摘する。
2. シリコンという選択
Cal. 777Qを語るうえで欠かせないのが、脱進機とヒゲゼンマイに採用されたシリコン部品である。ガンギ車とアンクル、そしてヒゲゼンマイがシリコンで作られている。ただしSJXは、アンクルの爪石は伝統的なルビーのままだと書いている。777Qと591Aは、ブレゲで初めてシリコン部品を採り入れたムーブメントとして知られる。
シリコンは比重が小さく非磁性で、潤滑油を必要としない。これらの性質は、脱進機の摩擦やエネルギー損失、磁気の影響、油の経年劣化といった、機械式時計が長く抱えてきた課題への一つの回答であった。SJXは、軽さと摩擦の小ささによる効率の向上を認めつつ、伝統的な造りのほかの部分と比べると、シリコン部品はやや先進的すぎる印象を与えるとも述べている。ブレゲは古典的な意匠を保ったまま、機構の中核に新素材を組み込む道を選んだ。
3. 派生と展開
Cal. 777Qには、意匠を変えた姉妹キャリバーが存在する。2018年に登場したマリーン5517に搭載されるCal. 777Aである。SJXは777Aを、777Qの技術的な工夫をすべて保ったまま装飾を簡素にした版と説明する。777Qが手彫りのギヨシェを施した金無垢のローターと凝った輪郭の受けをもつのに対し、777Aは船の舵輪を思わせる透かしのローターと、甲板の板張りを思わせる太い筋目の受けをもつ。クラシックの系譜が古典美を志向するのに対し、マリーンの系譜は実用的な雰囲気をまとう。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
Cal. 777Qは、28,800vph (4Hz)で駆動する自動巻キャリバーである。石数は26石、香箱は1個、パワーリザーブは55時間。時・分・中央秒と日付を表示する。以下、主要な構成要素を順にみていく。
脱進機とシリコン部品
心臓部の脱進機は、スイス・レバー式(直線形のアンクルをもつ標準的な脱進機)である。Cal. 777Qでは、このアンクルとガンギ車がシリコンで作られている。シリコンは硬く軽い素材で、金属同士のように潤滑油を介さなくとも摩擦が小さい。これにより脱進機内のエネルギー損失が抑えられ、油の劣化に起因する精度変化の要因も減る。素材そのものが非磁性であるため、外部磁界の影響も受けにくい。ただし、アンクルの爪には従来どおりのルビーが使われている。
テンプとヒゲゼンマイ
調速機構には、4個の調整錘を備えたフリースプラング式のテンプが用いられる。フリースプラングとは、緩急針でヒゲの有効長を変えるのではなく、テンプ側の錘で慣性モーメントを調整して歩度を整える方式で、緩急針式に比べ衝撃に強いとされる。ヒゲゼンマイもシリコン製である。シリコンのヒゲは温度変化や磁気への耐性に優れ、形状を精密に成形できる。28,800vph (4Hz)は1秒あたり8回の振動に相当し、外乱への復元力と消費エネルギーの均衡をとった、現代の実用キャリバーで広く用いられる振動数である。
自動巻と香箱
巻き上げは、ムーブメント全体を覆う中央ローターで行う。SJXは5177の記事でローターを22金製と書く一方、5517の記事では777Qのローターを18金のイエローゴールドとしており、記載が分かれる。ローターには手作業のギヨシェが施され、青いエナメル文字盤のホワイトゴールドの5177では、ケースに合わせてローターもホワイトゴールドとなる。香箱は1個で、ここから55時間のパワーリザーブが得られる。巻き上げ機構には細長いばねが2本あり、一方は香箱の角穴車の戻り止めのばね、もう一方はリューズの巻き上げの車に掛かるばねである。
Cal. 777Qは秒停止(ハック)機構を備える。リューズを引くと秒針が止まり、秒単位の時刻合わせができる。
受けにはコート・ド・ジュネーブ、地板には円形の筋目が施され、受けの刻印は金色に仕上げられる。受けの輪郭は面取りが映えるよう形づくられている。SJXがとりわけ魅力的な細部として挙げるのは、テンプのすぐ脇にある輪列の受けの2か所の入り隅(受けの輪郭が内側へ切れ込む角)で、手作業による仕上げの程度を示すという。比較的簡素な自動巻でありながら、構造と仕上げの両面で同じ部類の機械のなかでも優れたものの一つと評されている。