777Q
2006年、ブレゲ初のシリコン製脱進機を備えて登場した、同社の自社製自動巻ベースキャリバー
Cal. 777Qは、2006年のバーゼルワールドで発表された自動巻のベースキャリバーである。スイス・ヴァレ・ド・ジューのブレゲ製造拠点で開発された自社製ムーブメントで、クラシック5177に初搭載された。28,800vph (4Hz)、26石、パワーリザーブ55時間という穏当な構成だが、脱進機のアンクルとガンギ車、そして平ヒゲのヒゲゼンマイにシリコンを採用した点が際立つ。これは同年のCal. 591Aと並ぶブレゲ初のシリコン搭載機であり、スウォッチグループとして最初期の応用例にあたる。テンプは4個の調整錘をもつフリースプラング式で、6姿勢で調整される。姉妹機Cal. 777Aはマリーン5517に載る。
| Maker | Breguet |
|---|---|
| Reference | 777Q |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 26 石 |
| Power reserve | 55 h |
| Movement ⌀ | 27.1 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date |
系譜と歴史
1. スウォッチグループ下で生まれた自社製ベース
Cal. 777Qは、2006年のバーゼルワールドで初めて公開された、ブレゲの自社製自動巻ベースキャリバーである。初搭載モデルはクラシック5177で、時・分・中央秒と日付という穏当な構成をもつ。ムーブメントの開発と製造は、スイス・ジュラ地方のヴァレ・ド・ジューにあるブレゲの製造拠点が担う。
1999年にスウォッチグループの傘下に入ったブレゲは、ムーブメント供給の自立を進めた。同グループは老舗のムーブメント製造会社ヌーベル・レマニアも擁しており、その技術蓄積を基盤に、ブレゲ専用のベースキャリバーとして設計されたのがCal. 777Qであるとされる。汎用エボーシュ(半製品ムーブメント)の転用ではなく新規開発された点は、後年の評価で繰り返し指摘されてきた。
2. シリコンという選択
Cal. 777Qを語るうえで欠かせないのが、脱進機とヒゲゼンマイに採用されたシリコン部品である。アンクル(テンプとガンギ車の間でエネルギーを仲介する部品)とガンギ車、そして平ヒゲのヒゲゼンマイがシリコンで作られている。Cal. 777Qは、同年に発表された手巻のCal. 591Aとともにブレゲ初のシリコン搭載キャリバーであり、スウォッチグループとして最初期のシリコン応用例にあたる。
時計用シリコン部品の系譜をたどると、量産時計への最初の本格導入は2001年のユリス・ナルダン「フリーク」の脱進機である。その後、ロレックス、スウォッチグループ、パテック フィリップ、ユリス・ナルダンらがスイス・エレクトロニクス・マイクロテクノロジーセンター (CSEM) と組み、シリコンヒゲゼンマイの開発を進めた。パテック フィリップは2005年に研究部門でシリコン製ガンギ車を、2006年にシリコンヒゲ「スピロマックス」を実用化している。Cal. 777Qと591Aは、このシリコン普及の流れのなかに置かれる。
シリコンは比重が小さく非磁性で、潤滑油を必要としない。これらの性質は、脱進機の摩擦やエネルギー損失、磁気の影響、油の経年劣化といった、機械式時計が長く抱えてきた課題への一つの回答であった。各社がそれぞれの思想でシリコンを採り入れるなか、ブレゲは古典的な意匠を保ったまま、機構の中核に新素材を組み込む道を選んだ。
3. 派生と展開
Cal. 777Qには、意匠を変えた姉妹キャリバーが存在する。マリーンコレクションのマリーン5517に搭載されるCal. 777Aである。技術的な中身は777Qと共通しながら、ローターや受けの仕上げが異なる。777Qが18金無垢のローターにギヨシェ彫りを施すのに対し、777Aは舵輪を思わせる肉抜きローターをもち、コート・ド・ジュネーブの筋目も海を想わせる意匠へと変えられている。クラシックの系譜が古典美を志向するのに対し、マリーンの系譜は実用的な雰囲気をまとう。
Cal. 777Q自体は、クラシック5177を中心に、5277や5178といった派生モデルへ展開してきた。2024年以降、ブレゲは新たな経営体制のもとで意匠面の刷新を進めているが、Cal. 777Qは現行クラシックの自動巻を支える基幹キャリバーとして位置づけられている。
技術解説
Cal. 777Qは、28,800vph (4Hz)で駆動する自動巻キャリバーである。石数は26石、香箱は1個、パワーリザーブは55時間、構成部品は243個とされる。直径はおよそ12リーニュ(約27mm)で、時・分・中央秒と3時位置の日付を表示する。以下、主要な構成要素を順にみていく。
脱進機とシリコン部品
心臓部の脱進機は、スイス・レバー式(直線形のアンクルをもつ標準的な脱進機)である。Cal. 777Qでは、このアンクルとガンギ車がシリコンで作られている。シリコンは硬く軽い素材で、金属同士のように潤滑油を介さなくとも摩擦が小さい。これにより脱進機内のエネルギー損失が抑えられ、油の劣化に起因する精度変化の要因も減る。素材そのものが非磁性であるため、外部磁界の影響も受けにくい。
テンプとヒゲゼンマイ
調速機構には、4個の調整錘(チラネジ)を備えたフリースプラング式のテンプが用いられる。フリースプラングとは、緩急針でヒゲの有効長を変えるのではなく、テンプ側の錘で慣性モーメントを調整して歩度を整える方式で、緩急針式に比べ外乱に強いとされる。ヒゲゼンマイは平ヒゲで、これもシリコン製である。シリコンヒゲは温度変化や磁気への耐性に優れ、形状を精密に成形できる。28,800vph (4Hz)は1秒あたり8回の振動に相当し、外乱への復元力と消費エネルギーの均衡をとった、現代の実用キャリバーで広く用いられる振動数である。歩度の調整は6姿勢で行われる。
自動巻と香箱
自動巻ローターは両方向巻き上げに対応し、装着後およそ3時間で香箱が満たされるとされる。香箱は1個で、ここから55時間のパワーリザーブが得られる。クラシックに載る777Qのローターは18金無垢で、ローズエンジン(ギヨシェ装飾用の旋盤)による手彫りの装飾が施される。
ハック機構と仕上げ
Cal. 777Qは秒停止(ハック)機構を備える。竜頭を引くと秒針が止まり、秒単位の時刻合わせができる。この停止機構は6点の機械加工部品で構成され、テンプを止める部位は「ゴルフクラブのヘッド」と形容される形状をもつ。裏蓋を閉めれば見えなくなる部位にまで加工の手が入っている点は、本キャリバーの仕上げ姿勢を象徴する。
受けにはコート・ド・ジュネーブ、地板にはペルラージュが施され、ネジは鏡面研磨、受けの刻印は金色に仕上げられる。受けの稜線には面取り(アングラージュ)が施され、初期のものには手作業でしか出せない入り隅(受けの輪郭が内側へ切れ込む鋭角)も見られたと伝わる。これらの仕上げは、穏当なスペックのベースキャリバーでありながら、装飾の面では上位機に通じる水準にあることを示している。