AP 4401
2019年、Code 11.59 と共に登場した、オーデマピゲ初の自社一体型フライバック・クロノグラフ
Cal. 4401 は、オーデマピゲが 2019 年にCode 11.59 コレクションと共に発表した、同社初の自社開発・一体型自動巻フライバック・クロノグラフである。直径 32mm、厚さ 6.8mm、40石、367部品で構成され、28,800vph (4Hz) で駆動、70時間のパワーリザーブを備える。コラムホイールと垂直クラッチを組み合わせた一体構造、6つの慣性ウェイトを持つフリースプラング・テンプ、22Kゴールドの両方向ローターを擁する。Code 11.59 クロノグラフのほか、2021年以降はロイヤル オーク クロノグラフ 41 (Ref. 26239/26240)、ロイヤル オーク オフショア 43 へと搭載先を拡大した。
| Maker | Audemars Piguet |
|---|---|
| Reference | AP 4401 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 40 石 |
| Power reserve | 70 h |
| Hands | Hours, Minutes |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel, Flyback |
系譜と歴史
1. 自社一体型クロノへの長き道のり
Cal. 4401 以前、オーデマピゲのクロノグラフはほぼ全てがエボーシュ(半完成ムーブメント)調達か、自社ベースキャリバーへのモジュール組み込みであった。1998年初登場のロイヤル オーク クロノグラフ Ref. 25860 が搭載した Cal. 2385 は、ヴァレ・ド・ジューに本拠を置くフレデリック・ピゲ社製 Cal. 1185 を母体とするムーブメントで、長年にわたり同社クロノグラフを支えた基盤である。ロイヤル オーク オフショアでは、自社ベース Cal. 3120 に Dubois-Dépraz 社のクロノモジュールを組み合わせた Cal. 3126/3840 が広く用いられた。「マニュファクチュール」を標榜する同社にとって、クロノグラフだけは外部供給に依存する構造が長く続いていたといえる。
2. ベナミアスの号令と五年の開発
転機は 2013 年に訪れる。前年に CEO に就いた François-Henry Bennahmias が、製品・生産チームを会議室に集め「クロノグラフ・ムーブメント開発の方針が決まるまで部屋から出てはならない」と檄を飛ばした、と伝わる。以後 5年余を費やして実を結んだ成果が、Cal. 4400 系列であった。基幹となる時分秒・カレンダー版 Cal. 4302 と、一体型クロノグラフ版 Cal. 4401 が、2019年 SIHH の Code 11.59 コレクション発表と共に世に出る。両者は香箱・調速機構・キーレスワークを共有する設計兄弟であり、ベースの大径化(直径 32mm、14リーニュ)とパワーリザーブ 70時間という現代的指標は、ここに揃って据えられた。
3. ロイヤル オークへの波及と派生世代
2021年、Cal. 4401 は Code 11.59 を離れ、ロイヤル オーク クロノグラフ 41 (Ref. 26239、ピンクゴールド)、続いてロイヤル オーク オフショア 43 へと搭載先を拡げた。これによりロイヤル オーク クロノグラフは、登場から 23 年を経てついに自社一体型クロノを得たことになる。2022年の 50周年記念ではスティール版 Ref. 26240 へも展開された。家族は現在も拡張中で、サブダイヤルを縦配置とした派生 Cal. 4404 (ロイヤル オーク オフショア 42 Evolution 用、433部品)、ブレゲひげと一体型自動巻スプリットセコンド機構を備える Cal. 4407 (ロイヤル オーク コンセプト用、73石・638部品) が同系列に連なる。Code 11.59 Universelle のメガコンプリケーション Cal. 1000 もまた、この基盤を発展させたものである。
技術解説
一体型クロノグラフという思想
Cal. 4401 は直径 32mm (14リーニュ)、厚さ 6.8mm、40石、367部品で構成される自動巻ムーブメントである。クロノグラフ機構をベースムーブメントへの「モジュール後付け」ではなく、設計段階から地板に統合する一体型 (integrated) 構成を採る。前世代 Cal. 3126/3840 がベース Cal. 3120 と Dubois-Dépraz 3840 モジュールの結合体であったのと対照的で、文字盤側からの操作伝達経路が短く、操作感の質と厚み管理に有利な構造である。直径 32mm は同社が伝統的に用いてきた約 30mm 前後より大きく、41mm ケースの文字盤レイアウト改善(サブダイヤルの均等配置)とも符合する選択である。
コラムホイールと垂直クラッチ
クロノグラフの起動・停止・帰零は、伝統的なコラムホイール(柱車)が司る。柱車はレバーや爪バネをカム状の突起で順序立てて制御するため、安価なカム式と比べて操作タッチが明らかに上質となる。クロノグラフ車のかみ合いは垂直クラッチ方式で、起動時に秒針が一瞬ジャンプする現象がなく、長時間作動させても歯車の摩耗が極めて少ない。さらにフライバック機能を備え、計測中にリセットボタンを押すと、停止 → 帰零 → 再起動が一動作で連続する。航空計時や連続計測の用途で重宝された機構であり、本機はクロノグラフ秒・分・時の三カウンター(6時位置スモールセコンドは独立)構成と組み合わせて実装している。
個別リセットハンマー
Cal. 4401 で特筆すべきは、帰零ハンマー(ハートカムを叩いて針を 0 位置へ戻す部品)を、秒・分・時の各クロノグラフカウンターそれぞれに独立して持つ点である。一般的なクロノグラフは一つのハンマーで複数のハートカムを叩く構成だが、本機は各ハンマーに専用のテンションバネを与え、ハートカムへの接触を最適化している。この設計は針の即座な復帰と帰零位置の安定に寄与する。日付表示は 4時 30分位置でジャンピング切替を行う瞬間送り式で、深夜の表示送りの曖昧さを排している。
調速系・自動巻・仕上げ
調速機構は緩急針を持たないフリースプラング・テンプを採用し、6つの慣性ウェイト(イナーシャ・ブロック)で精度調整を行う。ヒゲゼンマイは平ヒゲ(オーバーコイルなし)で、テンプ受けは両端支持の横断ブリッジ構造を採り、姿勢差耐性と等時性の安定に寄与する。なおスプリットセコンド版 Cal. 4407 ではブレゲひげに発展している。香箱は容量に余裕があり、両方向巻上の 22K ゴールド・ローター(セラミック・ボールベアリング軸受、無潤滑)が 70時間のパワーリザーブを確保する。仕上げはコートドジュネーブ、ペルラージュ、ダイヤモンドポリッシュの面取り、地板の機械的サテン仕上げなど、見える側と隠れる側を問わず施され、サファイアシースルーバックを通じて鑑賞できる。