AP 3126 / 3840
自社製3120を基盤に、デュボア・デプラ製クロノモジュールを組み合わせた、ロイヤルオーク・オフショアの基幹自動巻クロノキャリバー
Cal. 3126/3840は、2007年にロイヤルオーク・オフショア44mm(Ref. 26400系)へ初搭載された、オーデマ ピゲのモジュラー式自動巻クロノグラフである。基幹部の3126はAP自社製キャリバー3120を派生させた時刻・カレンダー機構を担い、文字盤側に被さる3840はデュボア・デプラ社製のカム式クロノグラフ・モジュールという、いわゆるピギーバック構造をとる。振動数3Hz(21,600vph)、59石、最低パワーリザーブ約50時間。両方向自動巻の22Kゴールド製ローターと可変慣性テンプを備え、コートドジュネーブの仕上げを纏う。
| Maker | Audemars Piguet |
|---|---|
| Reference | AP 3126 / 3840 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 59 石 |
| Power reserve | 50 h |
| Movement ⌀ | 29.92 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph |
系譜と歴史
1. 「マニュファクチュール」化への助走
オーデマ ピゲが現代的な意味で「自社製ムーブメント」を語れるようになったのは、2003年に基幹自動巻キャリバー3120を発表してからのことである。それ以前のロイヤルオークは、ジャガー・ルクルト製の薄型キャリバー2120/2121を基盤とした自社改修品で長く成立しており、1993年に登場したロイヤルオーク・オフショア・クロノグラフも、ジャガー・ルクルトのCal. 888/889系を基盤に、デュボア・デプラ社のクロノグラフ・モジュールを載せたCal. 2126/2840や派生のCal. 2326/2840で動いていた。基幹部分そのものは他社の設計であり、APにとってクロノグラフ用ベースの内製化は積年の課題として残されていたといえる。
3120は、社内開発プロジェクトの結実として、ロイヤルオーク39mm(Ref. 15300)を皮切りに、現代のロイヤルオークの中核を担っていく。直径26.60mm、厚さ4.26mm、振動数3Hz(21,600vph)、約60時間のパワーリザーブ、22Kゴールドのオシレーティングウェイト――現代APの「文法」の多くは、この3120で確立された。
2. 3126/3840の誕生
2007年、ロイヤルオーク・オフショア・クロノグラフ44mm(Ref. 26400系)に搭載される形で登場したのが、3120系の派生型である基幹キャリバー3126に、デュボア・デプラ社製のクロノグラフ・モジュール3840を結合したCal. 3126/3840である。3126は3120をクロノグラフ・モジュールとの結合を前提に再設計した基幹部、3840は文字盤側に組み付けられる、「ピギーバック式」モジュラー構造をとる。
これにより、長く42mmオフショアに使われていたジャガー・ルクルト系ベースのCal. 2326/2840は、44mm系を皮切りに3126/3840へと置き換えられていく。42mmケースの新世代Ref. 26470が3126/3840を採用するのは2014年のSIHHで、ここに至ってロイヤルオーク・オフショア・クロノグラフ全体が、基幹部に自社設計のベースキャリバーを持つ構成へと統一されることとなった。
3. モジュール専業デュボア・デプラの存在
3840モジュールを供給するデュボア・デプラ社は、1901年創業のヴァレ・ド・ジューに拠点を置く、複雑機構モジュール専業のマニュファクチュールである。ブライトリング、オメガ、ジャガー・ルクルト、リシャール・ミルなど多くの一流ブランドにクロノグラフやカレンダー・モジュールを供給してきた、業界の「縁の下」を支える存在として知られる。1969年に発表された世界初の自動巻クロノグラフの一つ、キャリバー11(ホイヤー/ブライトリング/ビューレン/デュボア・デプラの共同開発)に深く関与した歴史を持つ、モジュラー設計の老舗である。
APにとって、デュボア・デプラ製モジュールの採用は古くからの慣行であり、3126/3840はその伝統の到達点に位置づけられる。一方でAPは、2019年発表のCODE 11.59 セルフワインディング・クロノグラフでCal. 4401として完全自社設計の一体型フライバック・クロノグラフを実現し、2021年にはこれをロイヤルオーク・オフショア43mm(Ref. 26420)へ展開した。3126/3840はその後も44mmのRef. 26405系や、25周年記念モデルRef. 26237などに継続採用されており、機構の熟成が進んだ「枯れた」基幹キャリバーとして、現役で稼働している。
技術解説
ピギーバック型モジュラー設計
Cal. 3126/3840の最大の特徴は、その物理的な二層構造にある。3126は時針・分針・秒針・日付という時刻表示の基幹部を担う自動巻ムーブメントであり、その文字盤側にCal. 3840クロノグラフ・モジュールが「載る」形で結合される。全体としての直径は29.92mm、厚さは7.16mm。総部品数は365、石数は59石。基幹キャリバー3120の280部品から大幅に増えているのは、ほぼ全てがクロノグラフ・モジュール側の付加要素によるものである。
このピギーバック構造には、構造上やむを得ない帰結がある。日付ディスクは基幹部の3126側にあるため、文字盤面から見ると深い位置に沈んだ印象となる。ロイヤルオーク・オフショア・クロノグラフでサファイア・クリスタル上に日付用のサイクロップス(拡大レンズ)が付くのはこのためである。リューズと2つのプッシャーが垂直に整列しないのも、リューズが3126側、プッシャーが3840側に属するという機構面の事情を反映している。
クロノグラフ機構:カム式のキャラクター
3840モジュールが採用するのは、コラムホイール式ではなくカム式(レバー・カム機構)のクロノグラフ制御である。カム式はコラムホイールに比べてプッシャーの押下感がやや硬めとされる一方、量産性と保守性に優れる構造として、業界で広く採用されてきた手法である。クロノグラフ表示は12時位置にスモールセコンド、9時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計を備える縦並びの3カウンター・レイアウトをとる。日付窓は4時半位置、中央のクロノグラフ秒針は最大12時間まで連続計測する。
テンプとヒゲゼンマイ:自由振動式の調速系
調速機構はAPらしさが最も鮮明に現れる部位の一つである。テンプは8個の可変慣性ブロック(イナーシャ・ブロック)を備えた自由振動式(フリースプラング)で、緩急針を用いず、テンプ側のブロックを動かすことで等時性を調整する。ヒゲゼンマイは平ヒゲ(フラット・バランススプリング)、振動数は21,600vph(3Hz)。3Hzはクロノグラフ機構の負荷との両立を意識した、伝統的なクロノグラフ振動数の選択である。耐衝撃装置はキフ(Kif)製。時刻合わせ時にはテンプを停止させるストップセコンド機構を備える。
自動巻機構と仕上げ
自動巻はモノブロック式の22Kゴールド・オシレーティングウェイトによる両方向巻き上げで、ローターはセラミック製ボールベアリングに支持される。ローター中央にはオーデマ家とピゲ家の家紋がエングレービングされ、サファイア・ケースバック越しに鑑賞対象となる(一部の限定品では、ブラック仕上げのスケルトン・ローターに置き換えられる)。
仕上げの規範は、APが3120系全般に適用する基準に沿う。ブリッジは斜面(アングラージュ)がダイヤモンド工具で面取りされ、上面にはコートドジュネーブが施される。輪列のピニオンは研磨、ピボットはバニッシング(磨き出し)処理、輪列の機能面以外には金メッキの円形パーリング装飾が施されるなど、見えにくい部分にも仕上げの手が入る。基幹部のテンプ受けは、3120系に共通する特徴的なアングルを持つバランス・ブリッジ構成が採られる。
パワーリザーブと精度管理
香箱は単巻型(モノバレル)で、公称最低パワーリザーブはおよそ50時間。クロノメーターのような独立第三者機関による精度認定は取得していないが、社内基準に基づき調整位置数を含めた精度管理が行われる。一日着用したのち外し、翌朝までに時間的余裕が残っているという、日常運用の感覚と整合した設定である。