エル・プリメロという前提
Chronomaster Sportを語るには、まず1969年に立ち返る必要がある。この年、複数のメーカーが自動巻クロノグラフの実用化を競った。Zenithが「El Primero(スペイン語で『最初の』)」と名付けたCal. 3019 PHCは、そのひとつである。Seikoの6139、複数社の共同開発によるCal. 11も同年に登場しており、どれが真に最初かは今も議論が残る。
ただしエル・プリメロには固有の特徴があった。一体型の自動巻でありながら、毎時36,000振動 (5Hz) という高振動を実現し、1/10秒単位の計測を可能にした点である。三色のサブダイヤルを備えたRef. A386は、後年のChronomaster Sportの意匠の源流とされる。
1970年代、クォーツの台頭を受けて親会社はムーブメント製造の停止を決め、エル・プリメロの工具や設計図は処分の対象となった。これに抗ったのが時計師シャルル・ヴェルモである。彼は工具やカム、設計図を密かに屋根裏へ保管したと伝わる。1980年代に機械式時計が復権するとこの遺産が生き、Zenithはエル・プリメロの生産を再開した。1988年から2000年まで、Rolexがデイトナの自動巻に改良版のエル・プリメロを採用していた時期があったことも、後年の系譜を語るうえで欠かせない。