設計思想
1. パンデミックの春に静かに登場した姉妹機
WAY201T.BA0927は2020年に発表された。本来は3月のバーゼルワールド2020で他の新作とともに披露される予定であったが、フェア自体が新型コロナウイルスの感染拡大で中止に追い込まれ、タグ・ホイヤーはオンライン経由で新作群を公開する形を取った。本機は派手な広報展開を伴わず、姉妹機WAY201Fの「ペプシ」配色に対する第二の選択肢として、専門メディアの実機掲載を通じて静かに認知されていった。
アクアレーサーGMTというカテゴリ自体、2017年のWAY201F登場までは存在しなかった。1980年代の2000シリーズに端を発するアクアレーサーは長らく潜水具としての性格に専念しており、二地点時刻表示は意図的に避けられてきた経緯がある。本機はその新参カテゴリに、配色違いの選択肢を加えた追加派生という位置にある。
2. 「バットマン」という選択
黒と青の二色ベゼルは、ロレックスGMT-Master IIの126710BLNRに由来する「バットマン」の通称で広く呼ばれている。本機もこの配色を採用するが、タグ・ホイヤー側は本機を「バットマン」と公式呼称することは避け、あくまでブルーダイヤルとブルー&ブラック・ベゼルの組み合わせとして紹介している。
姉妹機WAY201Fのペプシ配色が運動色の強い意匠であるのに対し、本機の黒×青は日常の装着場面を広く取れる中立性を備える。GMT機能を必要とする出張者層へのアプローチとして、配色の追加は理に適った選択と読める。
3. 旧世代設計を締めくくる一本
本機の系譜上の意味は、それが「次世代刷新の直前」に位置するという点に集約される。タグ・ホイヤーは2021年にアクアレーサー・プロフェッショナル300として大規模な刷新を行い、続く2022年8月にはGMT専用の後継機Ref. WBP2010を発表した。後継機はベゼル素材をセラミックに置き換え、配色も青白基調へ刷新、デイト位置を6時へ移すなど、本機との視覚的連続性を意図的に断った設計である。
逆に言えば、本機はリューズガードの解釈や3時デイト構成、12角アルミ製ベゼル、6つのライダータブといった旧世代アクアレーサーの設計言語をGMT仕様で完成させた最終世代と位置づけられる。シリーズ史で見れば、新旧の間に置かれた橋渡しの一本である。
意匠分析
WAY201T.BA0927の意匠は、アクアレーサー300mとして培われた12角形ベゼルの言語を継承しつつ、ペプシ配色の姉妹機WAY201Fと並ぶGMT仕様として再構築されている。ケース径は43mm、厚みは12.8mmで、サテン仕上げとポリッシュ仕上げをラグ、ケースサイド、リューズガードで切り分けることで、ツールウォッチでありながら凹凸の少ない一体感を作っている。
ベゼルは黒と青のアルミニウム製インサートを採用し、いわゆる「バットマン」と呼ばれる二色配色を成す。GMT機能と連動した24時間スケールが刻まれており、内側半分が青、外側半分が黒で日中と夜間を視覚的に分離する。ベゼル外周にはタグ・ホイヤーのダイバーズに共通する6つのライダータブが配され、グリップ性と意匠的なアクセントを両立させている。
文字盤は青のサンレイ仕上げの上に水平方向の細い溝模様を持ち、光の入射角でブルーの濃淡が大きく変化する。インデックスは植字のスティック型で、針はソード型に夜光が充填される。GMT針は青のラッカー仕上げで、矢印型の先端にも夜光が施される。日付は3時位置でサイクロップス越しに表示される。後継のWBP2010世代がデイト位置を6時へ移したのに対し、本機は伝統的な3時位置を保つ点で、刷新前の構成を残す世代であると確認できる。
ブレスレットは3連の鏡面・サテン混在仕上げで、エンドリンクから先端へ向けて緩やかにテーパーする。クラスプはダブルプッシュボタン付きの折りたたみ式で、不意の解除を防ぐ意図が組み込まれている。ラグ幅は21mmで、革製・ラバー製ストラップへの換装は公式アクセサリの範囲内で想定されている。
ムーブメントには自社呼称キャリバー7 (Calibre 7) を搭載する。ベースはETA 2893-2の二地点時刻機構で、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは46時間。ローターおよびケースバックは閉じられた仕様で、ムーブメント装飾は表に出さず、実用工具としての側面が優先されている。
系譜と歴史
WAY201T.BA0927は2020年に発表された。本来は2020年3月のバーゼルワールド2020で披露される予定であったが、新型コロナウイルスの影響で同フェアが中止となり、発表は各社個別の発信に切り替わった。タグ・ホイヤーは2020年初頭にデジタル経由で本機を公開し、専門メディアによる実機掲載は同年4月以降に出揃った。実際の市場流通は同年8月頃から始まったと伝わる。
発表当時の参考価格はスイス国内で3,000スイスフラン、米国市場で3,050米ドルであった。
本機の系譜上の位置は明確である。アクアレーサーGMTシリーズは2017年に「ペプシ」配色のWAY201Fで初登場しており、WAY201T.BA0927はその姉妹機としてベゼル配色を黒×青の「バットマン」配色に変更した派生として投入された。これによりキャリバー7 GMTの選択肢が2色に広がった。
2021年、タグ・ホイヤーはアクアレーサー・プロフェッショナル300として大規模なコレクション刷新を実施。リューズガード周辺や12角ベゼルの解釈、文字盤デザインが一新された。本機はこの刷新世代と並走する形でしばらくカタログに残ったが、2022年8月にはGMT専用の後継機Ref. WBP2010が発表され、世代交代の流れが完成する。後継機ではセラミック製の青白ベゼル、デイト位置の6時への移動、リューズガードの再設計など、本機との連続性よりも刷新性が前面に押し出された。
本機はタグ・ホイヤー公式オンラインストアでは生産終了として案内されている。生産期間中に文字盤やムーブメント世代の大幅な変更は確認されていない。