設計思想
1. パンデミックの春に静かに登場した姉妹機
WAY201T.BA0927は2020年に発表された。本来は3月のバーゼルワールド2020で他の新作とともに披露される予定であったが、フェア自体が新型コロナウイルスの感染拡大で中止に追い込まれ、タグ・ホイヤーはオンライン経由で新作群を公開する形を取った。本機は派手な広報展開を伴わず、先行していた姉妹機WAY201Fの「ペプシ」配色(青×赤)に対する第二の選択肢として、2020年4月ごろから専門メディアで紹介された。
1980年代の2000シリーズに端を発するアクアレーサーは長らく潜水具としての性格が強く、GMTは比較的新しい仲間だった。本機はそのGMTに、配色違いの選択肢を加えた追加派生という位置にある。
2. 「バットマン」という選択
黒と青の二色ベゼルは、ロレックスGMT-Master IIの黒×青ベゼルに由来する「バットマン」の通称で広く呼ばれている。本機もこの配色を採用し、昼を青、夜を黒で示す。第2時間帯の針は現地時刻と独立して設定でき、回転ベゼルを使えば理屈の上では第3の時間帯も追える。
姉妹機WAY201Fのペプシ配色が運動色の強い意匠であるのに対し、本機の黒×青は日常の装着場面を広く取れる中立性を備える。GMT機能を必要とする出張者層へのアプローチとして、配色の追加は理に適った選択と読める。
3. 旧世代設計を締めくくる一本
本機の系譜上の意味は、それが「次世代刷新の直前」に位置するという点に集約される。タグ・ホイヤーは2021年にアクアレーサー・プロフェッショナル300として大規模な刷新を行い、続く2022年8月にはGMT専用の後継機Ref. WBP2010を発表した。後継機はベゼル素材をセラミックに置き換え、配色も青白基調へ刷新、デイト位置を6時へ移すなど、本機との視覚的連続性を意図的に断った設計である。
逆に言えば、本機はリューズガードの解釈や3時デイト構成、爪を備えた12角形ベゼルといった旧世代アクアレーサーの設計言語を、GMT仕様で受け継いだ最終世代と位置づけられる。シリーズ史で見れば、新旧の間に置かれた橋渡しの一本である。
意匠分析
WAY201T.BA0927の意匠は、アクアレーサー300mとして培われた12角形ベゼルの言語を継承しつつ、ペプシ配色の姉妹機WAY201Fと並ぶGMT仕様として再構築されている。ケース径は43mmで、サテン仕上げとポリッシュ仕上げをラグ、ケースサイド、リューズガードで切り分けることで、ツールウォッチでありながら凹凸の少ない一体感を作っている。
ベゼルは黒と青のインサートを採用し、いわゆる「バットマン」と呼ばれる二色配色を成す。インサートの素材は、アルミニウムとする資料とセラミックとする資料がある。GMT機能と連動した24時間スケールが刻まれており、青と黒で日中と夜間を視覚的に分離する。ベゼル外周には当時のアクアレーサーに共通する爪が配され、グリップ性と意匠的なアクセントを両立させている。
文字盤は青のサンレイ仕上げの上に水平方向の細い溝模様を持ち、光の入射角でブルーの濃淡が大きく変化する。インデックスは植字のスティック型で、針はソード型に夜光が充填される。GMT針は青のラッカー仕上げで、矢印型の先端にも夜光が施される。日付は3時位置でサイクロップス越しに表示される。後継のWBP2010世代がデイト位置を6時へ移したのに対し、本機は伝統的な3時位置を保つ点で、刷新前の構成を残す世代であると確認できる。
ブレスレットは3連の鏡面・サテン混在仕上げで、エンドリンクから先端へ向けて緩やかにテーパーする。クラスプはダブルプッシュボタン付きの折りたたみ式で、不意の解除を防ぐ意図が組み込まれている。ラグ幅は21mmとされる。
ムーブメントには自社呼称キャリバー7 (Calibre 7) を搭載する。ベースはETA 2893-2系の二地点時刻機構とされ、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは46時間。ローターおよびケースバックは閉じられた仕様で、ムーブメント装飾は表に出さず、実用工具としての側面が優先されている。
系譜と歴史
WAY201T.BA0927は2020年に発表された。本来は2020年3月のバーゼルワールド2020で披露される予定であったが、新型コロナウイルスの影響で同フェアが中止となり、発表は各社個別の発信に切り替わった。タグ・ホイヤーはデジタル経由で本機を公開し、専門メディアによる紹介は同年4月ごろに出揃った。
本機の系譜上の位置は明確である。アクアレーサーGMTには「ペプシ」配色のWAY201Fが先行しており、WAY201T.BA0927はその姉妹機としてベゼル配色を黒×青の「バットマン」配色に変更した派生として投入された。これによりキャリバー7 GMTの選択肢が2色に広がった。
2021年、タグ・ホイヤーはアクアレーサー・プロフェッショナル300として大規模なコレクション刷新を実施。リューズガード周辺や12角ベゼルの解釈、文字盤デザインが一新された。本機はこの刷新世代と並走する形でしばらくカタログに残ったが、2022年8月にはGMT専用の後継機Ref. WBP2010が発表され、世代交代の流れが完成する。後継機ではセラミック製の青白ベゼル、デイト位置の6時への移動、リューズガードの再設計など、本機との連続性よりも刷新性が前面に押し出された。
本機はタグ・ホイヤー公式オンラインストアでは生産終了として案内されている。生産期間中に文字盤やムーブメント世代の大幅な変更は確認されていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア ETA Caliber 2893-2
- 02 専門メディア TAG Heuer Aquaracer Professional 300 GMT 2022 - Hand-On, Price
- 03 専門メディア Introducing: The TAG Heuer Aquaracer GMT
- 04 専門メディア TAG Heuer WAY201T.BA0927 : Aquaracer 300M Calibre 7 GMT Stainless Steel / Blue / Bracelet
- 05 ブログ TAG Heuer - Aquaracer Calibre 7 GMT Ref. WAY201T | Time and Watches | The watch blog