設計思想
1. 四つの初期仕様のうちの一本
2023年3月、ロレックスはパーペチュアル コレクションを立ち上げ、その第一作1908をゴールド2素材とダイアル2色の4仕様で世に出した。52508-0002は、このうちイエローゴールドとブラックダイアルの組み合わせにあたる。
ロレックスの型番では、末尾の8がイエローゴールドを示す。この素材にはRef固有の意味がある。2014年に刷新されたチェリーニ タイムは、ホワイトゴールドのRef. 50509とエバーローズゴールドのRef. 50505で構成されていた。イエローゴールドは用意されていなかったとされる。52508は、オイスターケースを持たないロレックスのドレスウォッチに、イエローゴールドを呼び戻したRefでもある。
2. 前任を持たないRef
52508-0002には、番号の上で直接つながる前任Refが存在しない。役割の上で近いのは、1908の登場と入れ替わるようにカタログから退いたチェリーニ タイムである。39mm径、ドームとフルーテッドの二段ベゼル、50m防水、アリゲーターストラップという骨格は両者に共通する。ホワイトゴールドのRef. 50509にはローマ数字を配したブラックダイアルの仕様もあり、39mmの金のケースに黒い盤面を合わせる発想そのものは新しくない。
変わったのは、その内側と盤面の文法である。チェリーニ タイムはキャリバー3132でセンターセコンドを表示し、パワーリザーブは約48時間だった。本機は新開発のキャリバー7140で6時位置にスモールセコンドを置き、約66時間を確保する。文字盤もバーインデックスやローマ数字から、3・9・12のアラビア数字とファセット入りのインデックスへ移った。金の色をホワイトからイエローへ、盤面の参照先を1930年代のロレックスへ切り替えたことで、同じ「39mmの金と黒」でも印象は大きく異なる。チェリーニ タイムの黒い盤面が現代的な簡潔さに寄っていたのに対し、本機の黒は古典的な文字盤構成を引き立てる背景として働く。
3. ブレスレット仕様と、コレクションの広がり
2025年、1908のために設計されたゴールドブレスレット「Settimo」が登場した。本機と同じブラックダイアルを載せた仕様は、Ref. 52508-0007として別に登録されている。Settimoは発表時点でイエローゴールドにのみ用意された。これにより黒い盤面のイエローゴールドは、ストラップで端正に装う本機と、金の連なりで装飾性を強めた-0007に分かれた。どちらを基準と見るかで1908の印象は変わるが、発表当初の姿を伝えるのは本機の側である。
2026年9月に加わったパーペチュアル パデローネは、年次カレンダーを備えるコレクションの新モデルである。39mm径のケース、デュアルクラスプ付きのアリゲーターストラップ、Settimoブレスレットという構成は、1908が3年をかけて整えてきた要素である。本機が示したストラップ仕様の型は、コレクションの基本形として引き継がれつつある。
意匠分析
本機の設計を決めているのは、金と黒の配分である。ケース、ベゼル、リューズ、植字、針、クラスプを18ctイエローゴールドが担い、残る面積をダイアルとストラップの黒が占める。ブラウンのストラップで暖色にまとめた-0006に対し、本機は色数を二つに絞り、金の部品の輪郭がいっそう強く浮かぶ組み合わせになっている。
インテンスブラックと名付けられたダイアルは、ゴールドケースの仕様に共通する細かなサテン仕上げで、艶を抑えた質感を持つ。光の角度によってはダークグレーに近く見えるとの指摘が、SJX WatchesやFratelloのレビューにある。黒地に金の植字という配色はヴィンテージのギルトダイアルを連想させるが、ロレックスは光沢仕上げを選ばなかった。盤面の反射を抑えた結果、光を拾うのは主にファセット入りのインデックスとアラビア数字、そして針になる。
針は、先端の手前に円環を持つブレゲスタイルの時針と、両刃の剣を模した分針の組み合わせである。黒地の上では、この形の違いがそのまま時針と分針を読み分ける手がかりになる。公式仕様に夜光の記載はなく、暗所での視認性より昼光の下での端正さを優先した設計といえる。スモールセコンドは一段低く据えられ、その上に弧を描いて「Superlative Chronometer」の文字が入る。SJX Watchesは、この配置に1950年代の薄型モデル「ベリフラット」を想起すると記している。
ストラップはマットブラックのアリゲーターで、裏地にグリーンのカーフスキンを用い、ステッチはレザーと同系色でまとめる。ストラップの表に見えるのは黒だけで、ブランドカラーの緑は手首に触れる面にのみ現れる。クラスプはケースと同じ18ctイエローゴールドのデュアルクラスプである。左右対称に折り畳まれる2枚のブレードを持ち、常に手首の中心に位置するよう形状が設計されている。
ケースはポリッシュ仕上げで、ラグの上端にだけ控えめな面取りを施し、曲線の輪郭を際立たせる。反射防止コーティングを施したドーム型のトランスパレントケースバックからは、自社製キャリバー7140と透かしの入ったゴールドのローターが見える。シロキシ・ヘアスプリングとパラフレックス ショック・アブソーバを備え、ケーシング後の精度基準は日差-2〜+2秒である。
系譜と歴史
52508-0002は2023年3月、Watches and Wonders Geneva 2023の開幕日に発表された。パーペチュアル コレクションの第一作、1908の一仕様である。同時に披露されたのは4本で、18ctイエローゴールドのRef. 52508と18ctホワイトゴールドのRef. 52509に、それぞれ白と黒のダイアルが用意された。発表資料はストラップをブラウンとブラックの2色としており、本機にはマットブラックのアリゲーターが充てられた。同じ金のホワイトダイアルである-0006には、マットブラウンのストラップが充てられている。
2024年4月のWatches and Wonders Geneva 2024では、950プラチナのRef. 52506がコレクションに加わった。ゴールドの4仕様はそのまま継続し、本機の構成にも変更は告知されていない。
2025年4月のWatches and Wonders Geneva 2025では、1908専用の18ctイエローゴールド製ブレスレット「Settimo」が発表された。これを装着した仕様は別Refとして扱われた。本機と同じブラックダイアルのものがRef. 52508-0007、ホワイトダイアルのものがRef. 52508-0008である。本機のストラップ仕様はこれと並行して継続した。
2026年4月、ロレックスはSuperlative Chronometer認定に、耐磁性、信頼性、耐久性の3基準を加えると発表した。2015年に定めた精度、防水性、自動巻き、パワーリザーブの4基準を補うもので、設計と製造の段階で運用されるとしている。同年9月15日には、年次カレンダーとムーンフェイズを備えたパーペチュアル パデローネ(Ref. 53505/53506)が発表された。1908に続く、パーペチュアル コレクションのモデルである。
2026年9月現在、本機は公式サイトに掲載される現行モデルであり、ダイアル、針、ストラップの仕様変更は公表されていない。
出典
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