設計思想
50周年に投入された「動かないモデル」の動かし方
2021年4月7日、デジタル形式で開催されたWatches and Wonders Genevaで、ロレックスはExplorer IIの新世代Ref.226570を発表した。1971年に初代1655が登場してから、ちょうど半世紀の節目だった。
業界の事前予想は派手だった。セラミック製ベゼルの導入、文字盤の刷新、ケースサイズの変更、新色の追加。それらの予測に対して、ロレックスが提示した答えは、外観上ほとんど変化のないモデルチェンジだった。発表直後、ファンや評論家の最初の反応は戸惑いに近いものだった。
しかしロレックスにとって、これは保守的な判断ではない。Explorer IIはステンレススチール一択で展開されるシリーズで、貴金属版や限定版を抱えていない。スポーツモデル群の中でも、商業的な派手さよりも道具性で支持されてきたモデルである。50周年だからといって、その性格を変える方向には進まなかった。
216570からの「見えない世代交代」
前任の216570は2011年に登場し、ケースサイズを40mmから42mmへ拡大、オレンジのGMT針を初代1655以来約四半世紀ぶりに復活させた世代だった。226570は、その216570と外径42mmを共有しながら、内部のCal.3187を新世代Cal.3285へと置き換えている。
Cal.3285はGMT-Master IIの126710系で先行投入されていたムーブメント世代で、クロナジー・エスケープメントを採用し、パワーリザーブは約70時間。前任Cal.3187の48時間から大幅に延長された。日差-2/+2秒という精度基準は変わらないが、効率、耐磁性、保磁時間が底上げされている。
黒文字盤が背負うシリーズ史
226570-0002の黒文字盤は、シリーズ史で言えば初代1655の系譜を直接受け継ぐカラーである。1655は1971年から1985年まで生産された全てが黒文字盤で、白文字盤(Polar)が登場するのは1985年の16550世代を待つことになる。
その意味で-0002は、Explorer IIの原型的なカラーリングを現代のケースとムーブメントで再構築したRefとも読める。白文字盤の-0001が持つ視覚的な象徴性とは別に、より道具に近い、原点に近い佇まいがこのバリエーションの性格を決めている。
意匠分析
ケースとブレスレットのプロポーション再設計
226570-0002は外径42mmのOystersteel製ケースを採用する。前任216570と同じ径だが、ラグは厚みが薄く再設計され、ブレスレット側はラグ幅が216570の21mmから22mmへと1mm広げられた。数字の上の差は小さいが、ラグからブレスレットへと視線が抜けるバランスは明確に変わっている。ケース全体としては、より幅広いブレスレットを細身のラグが支える構図になり、装着時の落ち着き方が前任と異なる。
黒文字盤の再定義
226570-0002の文字盤は黒。前任216570の黒文字盤には、針とインデックスの基部に黒い塗装を施し、夜光部分のみが浮き上がって見える「フローティング・ハンド」と呼ばれる意匠が採用されていた。226570ではこの処理が廃止され、針もインデックスもスチールトーンで仕上げられている。視認性と統一感を優先した結果と推察されるが、個性的だった前任の意匠を惜しむ声もある。
夜光にはChromalightが用いられる。青色に発光し、Super-LumiNovaと比較して長時間の持続を特徴とする独自材で、216570世代から継続採用されている技術である。細部では6時位置に小さなロレックスクラウンマークが追加され、サイクロップレンズの内側にも反射防止コーティングが施された。文字盤上の情報量は前任と大きく変わらないが、視覚的な落ち着きは一段増している。
Cal.3285搭載と機能の継承
ムーブメントは新世代Cal.3285。クロナジー・エスケープメント、青色パラクロム・ヒゲゼンマイ、パラフレックス耐衝撃装置を備える。振動数は毎時28,800振動(4Hz)、パワーリザーブは約70時間。Superlative Chronometer認定により日差-2/+2秒の精度が保証される。
GMT針は時針独立調整に対応し、固定式24時間ベゼルと組み合わせて、昼夜の判別とセカンドタイムゾーン表示の双方に使える、というExplorer II本来の機能構成は変わっていない。ブレスレットはOyster、3列構造、完全サテン仕上げ。Oysterlock安全クラスプにEasylink快適延長リンク(約5mm)が組み込まれる。
系譜と歴史
226570-0002は2021年4月7日、デジタル形式で開催されたWatches and Wonders Geneva 2021でロレックスから発表された。同時に白文字盤(Polar)の-0001も発表され、カラーバリエーションとしての黒・白の二色展開は前任216570を踏襲する形となった。
発表に先立つ前週、ロレックスは公式チャネルでティーザー映像を公開している。洞窟内の暗闇に青いChromalight夜光が浮かぶ短尺の映像で、モデル名は伏せられていたものの、Explorer IIを示唆する内容として広く受け止められた。
正式発表後、黒文字盤の-0002と白文字盤の-0001はほぼ同時期に流通へと載った。発表時点の米国希望小売価格は8,550米ドルとされる。当初から世界的に供給は限定的で、正規販売店での待機リストはすぐに長期化した。
生産期間中の仕様変更について、公式のアナウンスを伴うマイナーチェンジは現時点で特に確認されていない。Cal.3285は2018年にGMT-Master IIの126710系で先行投入されたムーブメント世代であり、2026年時点でも継続使用されている。
派生Refとしては、同時発表の-0001以外に色違い・素材違いは設定されていない。Explorer II史を通じても、本シリーズはステンレススチール一択での展開を維持しており、貴金属版や限定版は存在しない。
2026年4月開催のWatches and Wonders Geneva 2026では、Explorer IIに新作は発表されず、226570は引き続き現行カタログに掲載されている。発表から5年目を迎え、現行世代として定着した位置にある。