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PATEK PHILIPPE · SERIES

Aquanaut

アクアノート

1997年、ノーチラスに次ぐ第二のスポーツライン。ゴム製ストラップと格子文字盤が示す、新たな日常着の形

40 mm – 42.2 mm
01 — 概要 / SUMMARY

「アクアノート」は、パテック フィリップが1997年に発表した第二のスポーツウォッチ・ラインである。1976年生まれのノーチラスから20年、より若い世代へ向けたカジュアル路線として登場した。丸みを帯びた8角形のベゼル、文字盤からストラップへ連続する格子状のエンボス、そして高級時計界では異例の複合素材ラバーストラップ。これらが結びつき「カジュアル・ラグジュアリー」という新領域を拓いた。現行コレクションは、定番のRef. 5167、42.2mmジャンボのRef. 5168G、トラベルタイムのRef. 5164、クロノグラフのRef. 5968、アニュアルカレンダーのRef. 5261へと枝分かれしている。

02 — STORY · 物語

Aquanaut(アクアノート)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1997年、若い世代への問いかけ

1990年代後半、高級時計の市場は世代交代の只中にあった。ジェラルド・ジェンタが設計した1976年のノーチラスや1972年のロイヤル オークが象徴する「ラグジュアリースポーツ」は、すでに四半世紀の歴史を持ち始めていた。しかしノーチラスはパテック フィリップ唯一のスポーツモデルであり、ケース構造は複雑で、ブレスレットは重く、若い世代がデイリーに身につけるには硬質に過ぎた。ティエリー・スターンが率いる新しい開発陣は、より軽やかでよりカジュアルなスポーツウォッチを必要としていた。それは「もう一つのノーチラス」ではなく、ノーチラスの隣に並ぶ別の選択肢でなければならない。

02

Ref. 5060の登場 — 「グレネード」と呼ばれた文字盤

アクアノート誕生の物語の核には、ある特別な顧客の存在があるとされる。ティエリー・スターン自身がパテック フィリップ・マガジン誌に語ったところによれば、それは某国の軍上層部への贈答品として依頼されたもので、「夜会用ではなく、行動のための時計」が求められたという。顧客の正体は公にされていない。

1996年に登場したRef. 5060/Sは、ラグを備えレザーストラップを纏ったノーチラスのバリエーションとして、当時のカタログではノーチラス・コレクションに分類されていた。これはのちにアクアノートへ統合される過渡的存在である。1997年、ステンレス製のRef. 5060Aがアクアノートの名のもとに発表された。

ケース径35.6mm、自動巻のCal. 330 SC、120m防水のスクリューダウン式リューズ。文字盤に施された格子状のエンボスは、その規則的な凹凸からのちに「グレネード模様」とも呼ばれる。手榴弾の表面を思わせるこの意匠は軍への贈答という原案に由来するとも伝わるが、断定的な記録は残っていない。文字盤と呼応するパターンを刻んだ「トロピカル」コンポジット素材のストラップは、パテック フィリップ初の本格的なゴム製ベルトであった。Cal. 330 SCの供給量から、初期生産はおよそ1,000本に限られたと伝えられる。

03

拡張期 — サイズ、素材、女性向け

1998年以降、アクアノートは急速にバリエーションを拡げる。サファイア裏蓋のRef. 5066、ケース径38.8mmのRef. 5065「ジャンボ」、34mmクオーツのRef. 5064、女性向け29.5mmのRef. 4960。シリーズ言語を保ちながら、サイズと用途の選択肢が同時に増えていった。

2004年には女性向け派生として「アクアノート ルーチェ」が独立コレクション化される。「Luce」はイタリア語で「光」を意味し、ベゼルにダイヤモンドを配したRef. 5067Aがその起点となった。

04

2007年、Ref. 5167による設計言語の再定義

10周年にあたる2007年、シリーズは大きな世代交代を迎えた。ケース径40.8mm、薄さ8.1mmのRef. 5167Aである。当初はCal. 315 SCを搭載していたが、翌2008年からはCal. 324 SC(毎時28,800振動・4Hz、パワーリザーブ約45時間、ストップセコンド機能)に切り替わり、これがその後10年以上にわたる基準キャリバーとなる。

文字盤エンボスの凹凸は浅く整えられ、ストラップとケースの結合はより一体的になった。2008年にはステンレスブレスレット仕様のRef. 5167/1Aが、2009年にはローズゴールド製のRef. 5167Rが加わる。シリーズ初の複雑機構であるトラベルタイムを備えたRef. 5164Aは2011年に発表され、ケース左側のプッシャーで現地時刻の時針を独立して進退させる二重時間表示を可能にした。

05

ジャンボ、クロノグラフ、複雑機構の時代

2017年、20周年に際してRef. 5168Gが発表された。ケース径42.2mm、ホワイトゴールド、ブルーグラデーション・ダイヤルという組み合わせは、それまで黒文字盤で展開されてきたメンズアクアノートに新しい表情を加えた。「ジャンボ」と呼ばれる大型ケースは、薄さ8.25mmを維持することで存在感と着用感の軽快さを両立している。同年には500本限定のRef. 5650G「アドバンスド リサーチ トラベルタイム」も登場した。

2018年、Ref. 5968が初のアクアノート・クロノグラフとして発表される。42.2mmケース、フライバック機能を備えたCal. CH 28-520 C、そして6時位置に配された単一の60分積算計。複数のサブダイヤルで情報を分散させず、視認性を保ったままクロノグラフ機能を加える設計は、シリーズ全体の意匠原則と一致していた。

2023年にはアクアノート初のアニュアルカレンダーRef. 5261Rが、同年、シリーズ初のミニッツリピーターRef. 5260/355R・5260/1455R(いずれもルーチェのハイジュエリーモデル)が発表された。スポーツウォッチ・ラインに最上位の鳴り物複雑機構が組み込まれたことは、アクアノートがもはやノーチラスの妹分ではなく、独自の到達点を持つ系譜であることを示している。

06

現代の到達点

2024年、パテック フィリップは社内の防水性能表記を全モデル30m防水に統一する方針を採った。現行モデルもこの表記に従うが、スクリューダウン式リューズと一体構造ケースという基本設計は継承されており、実用上の堅牢性に変化はない。

現行コレクションは、定番のRef. 5167系列、ジャンボのRef. 5168G、トラベルタイムのRef. 5164、クロノグラフのRef. 5968、アニュアルカレンダーのRef. 5261R、そして女性向けルーチェの幅広いラインナップへと枝分かれしている。1997年に35.6mmで始まったシリーズは、いまや小径クオーツから42.2mmのミニッツリピーターまでを擁する一族となった。それでも、丸みを帯びた八角形のベゼル、格子状にエンボスされた文字盤、文字盤と呼応するゴム製ストラップという三要素は揺らがず継承されている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

アクアノートの設計思想は、ノーチラスから何を継承し、何を意図的にずらしたか、という視点から最も明確に浮かび上がる。ノーチラスがジェラルド・ジェンタによる船窓モチーフを忠実に発展させた「角のある八角形」であるのに対し、アクアノートのベゼルは辺と頂点を柔らかく丸めた「丸い八角形」である。ノーチラス特有の左右に張り出すヒンジ状の「耳」は廃され、ケースは三分割の一体構造となった。視覚的にはより穏やかに、構造的にはより単純になっている。この単純化は、機構や装飾を増やすのではなく減らすことで現代性を獲得しようとする態度の表れである。

シリーズを定義づける最大の意匠的決断は、文字盤のエンボスとストラップのエンボスを完全に呼応させたことである。「グレネード」と呼ばれる格子状の凹凸は、文字盤中央では深く刻まれ、外周に向かって浅くなっていく。同じパターンが「トロピカル」と名付けられたコンポジット素材ストラップに刻まれることで、文字盤からストラップまでが一つの連続した平面として読める。文字盤とストラップを意匠的に統合するという発想自体、当時の高級時計においては新しかった。

ラバーストラップの採用は、おそらくシリーズで最も挑発的な選択だった。1997年当時、高額帯の時計をゴムで腕に巻くという発想は、保守的な顧客層からは違和感をもって受け止められた。しかしパテック フィリップにとって、これは廉価化のための妥協ではなく、ジャンルそのものの再定義であった。ストラップは特別に開発された複合素材で、紫外線、塩水、摩耗に対する耐性を持つ。装着感は軽く、夏のシャツの袖口にも、テーラードジャケットの袖口にも自然に収まる。素材選択そのものが、シリーズが想定する着用シーンの幅を物語っている。

視認性の設計はあくまで控えめだ。文字盤にはアラビア数字のアプライドインデックスが配され、針はバトン形状で、夜光は最小限。同じ「スポーツウォッチ」の文脈にあるダイバーズウォッチのような冗長な明るさは、ここでは意図的に避けられている。これはアクアノートが潜水器ではなく、都市的なスポーツの伴侶として設計されていることを示している。

シリーズが30年近く経っても一目で識別できる理由は、変えなかったものの選択にある。ベゼル形状、エンボスの位置と密度、ストラップの一体感、文字盤上のロゴと数字の位置関係。これらは1997年のRef. 5060Aから現行のジャンボまで、ほぼ変わっていない。逆に変えられたのは、ケース径、文字盤色、複雑機構、素材といった「拡張可能な変数」である。コアの設計言語は固定し、外側の表現だけを更新する。この戦略こそが、新作と歴代モデルが同じ家系として認識されつづける視覚的連続性を支えている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1997-1998
Cal. 330 SC
初代5060A用、自動巻、335 SCの派生型。
1998-2007
Cal. 315 SC
Jumbo化に対応、Aquanaut初のサファイア裏蓋。
2007-2018
Cal. 324 S C
Spiromaxひげぜんまい搭載、Aquanaut主力機。
2019-現在
Cal. 26-330 S C
ハッキング機能追加、磁性低減、現行5167/5168用。
2018-現在
Cal. CH 28-520 C
5968 Chronograph用、自動巻フライバック式。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1997

初代Aquanaut誕生

5060A
35.6mm鋼ケース+Tropical樹脂ストラップ、Cal.330 SC搭載。
1998-2006

Jumbo化と多角展開

5065 5066
38.8mm Jumbo化、Cal.315 SCへ更新、初のサファイア裏蓋を採用。
2007-2018

10周年で40mm化

5167 5165
10周年大刷新、Ref.5167が40.8mm化しCal.324 SCへ更新。
2011-現在

Travel Time投入

5164
Aquanaut初の複雑機構、2タイムゾーン、Cal.324 S C FUS搭載。
2017

20周年でJumbo拡大

5168G 5650G
42.2mm白金のRef.5168G、限定版5650Gも20周年で投入。
2018-2023

複雑機種拡張期

5968 5261
5968 Chronoや5261 Annual Calendarなど複雑機を本格展開。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive