設計思想
1. ラジオミール 1940として
ラジオミール 1940は、Paneraiが往年のリファレンス6152/1── 1940年代にイタリア海軍向けに製作されたプロトタイプ── のクッション・ケースをもとに2012年に立ち上げた現代の派生ラインである。同じラジオミール一族でありながら、初代ラジオミールの「ワイヤーラグ」(ケースに差し込まれる細い丸棒のラグ)ではなく、ケースから一体に削り出された「ソルダードラグ」を備える点に最大の識別点がある。PAM00659はこの1940ケースを45mm径・18Kオロロッソ(レッドゴールド)で誂え、サファイア・シースルーバックを開けてキャリバーP.2003系を覗かせた構成である。
2. ブラウン・ブラックを経てのブルー
本機の直系の前任は、2015年のWatches and Wondersで発表されたPAM00624(ブラウン文字盤)とPAM00625(ブラック文字盤)である。両機ともに45mmのオロロッソケースにP.2003/10を収めたラジオミール 1940 10デイズ GMTであり、限定150本ずつの特別仕様であった。PAM00659は、この組み合わせを「ブルー文字盤・スケルトナイズド・200本限定・ブティック専用」へと再構成したものと位置づけられる。発表は2016年、流通開始は同年7月末。国際メッセでの発表ではなく、Paneraiが自前のブティック・ネットワーク向けに展開した独自プログラムである。
3. ブルー文字盤シリーズの最上位として
PAM00659は、同時に発表された4本の「ブルー文字盤ブティック限定」シリーズの一翼を担う。残る3本は、PAM00688(ルミノール 1950 3デイズ GMT オートマティック、42mmスティール)、PAM00689(ルミノール 1950 10デイズ GMT オートマティック、44mmスティール、限定300本)、PAM00690(ラジオミール 1940 3デイズ、47mmスティール、限定500本)。これらはみな、サンレイ仕上げのメタリック・ブルー文字盤と、ダーク・ブルーに塗装したチェリーウッド製ボックスを共有する。発表時定価35,900米ドル・限定200本のPAM00659は、この四重奏のなかで最も希少で最も高価な構成となる。
4. PAM00689との書き分け
機構面の議論で見逃せないのは、同シリーズのPAM00689との比較である。両機はともに10日リザーブのGMT自動巻きを搭載するが、PAM00689が標準仕上げのキャリバーP.2003を抱えるのに対し、PAM00659のキャリバーはP.2003/10と呼ばれ、ブリッジ・香箱・振り子型ローターに大規模なスケルトナイゼーションが施される。仕上げの方向性で、両機は明確に書き分けられている。
意匠分析
PAM00659の設計は、「ラジオミール 1940」基本構成のうえに上質仕様の三層 ── 素材・文字盤・ムーブメント ── を重ねた構成として読める。
ケースは45mm径のクッション型を18Kオロロッソで成形する。Paneraiが用いるオロロッソは金75%・銅25%を基本とする合金とされ、一般的なローズゴールドよりも銅比率が高く、より赤味の強い色調を示すと伝わる。ベゼル、ケースサイド、ラグに至るまで全面ポリッシュ仕上げ。ベゼル横幅は控えめにとられ、文字盤面積が広く見えるプロポーションとなる。リューズは「OP」の刻印が入るネジ込み式で、ルミノール系のクラウン・プロテクター装置は持たない。これは1940ケースが起こされた原型 ── 1940年代プロトタイプRef. 6152/1 ── に倣う設計選択である。風防は僅かにドーム状のサファイアで、反射防止コーティングは施されない。裏蓋はサファイア製のシースルーバックで、ローターと地板の意匠が常時鑑賞対象となる。
文字盤は「サンドイッチ」構造のサンレイ・ブルー仕上げ。下層に夜光塗料を敷いた板を置き、上層板の切り抜きから夜光を覗かせるPanerai古来の二層構造である。本機の夜光素材はecru(生成り)色のSuper-LumiNovaで、経年したラジウム塗料を思わせる色調を狙ったものと伝わる。9時位置にはスモール・セコンドとAM/PM表示(GMTの24時間インジケータ)を重ねた小ダイヤル、6時位置にはリニア式の10日パワーリザーブ・インジケータ、3時位置にはデイト窓を配置する。針はゴールドの細身スティック型で、文字盤のサンレイと色を合わせる。
ムーブメントはマニュファクチュール製の自動巻P.2003/10。香箱3個直列で10日のパワーリザーブを確保し、毎時28,800振動(4Hz)で駆動する。総部品数は293、石数は25。本機のP.2003/10は、ブリッジ・香箱・振り子型ローターに大胆なスケルトナイゼーションが施される点で、同シリーズのPAM00689が抱える標準仕上げのP.2003と書き分けられる。秒針リセット機構と時針独立1時間ジャンプ調整を備える。
ストラップはダーク・ブルーのアリゲーターにベージュのコントラスト・ステッチを通し、ラグ幅26mm、レッドゴールド製のダブル・フォールディング・バックルが組まれる。
系譜と歴史
PAM00659は2016年にPaneraiが発表したブルー文字盤ブティック限定エディションの一機である。国際メッセでの発表ではなく、Paneraiが自前のブティック・ネットワーク向けに展開した独自プログラムとして公表された。同時にPAM00688(ルミノール 1950 3デイズ GMT オートマティック、42mmスティール)、PAM00689(ルミノール 1950 10デイズ GMT オートマティック、44mmスティール、限定300本)、PAM00690(ラジオミール 1940 3デイズ、47mmスティール、限定500本)が発表され、4機種で一シリーズを構成する。
PAM00659の直系の前任は、2015年のWatches and Wondersで発表された2本のオロロッソ・ラジオミール 1940 10デイズ GMTである。ブラウン文字盤のPAM00624と、ブラック文字盤のPAM00625がそれにあたる。同じ45mmオロロッソ・ケースに同じP.2003/10を収めた構成で、限定数は各150本であった。PAM00659はこの組み合わせをブルー文字盤・スケルトナイゼーション・ブティック専用の枠組みに置き直し、限定数を200本に設定した派生機種として位置づけられる。
流通開始は2016年7月末。販路は世界のPaneraiブティック・ネットワークに限定され、正規代理店向けの一般流通は行われなかった。発表時定価は35,900米ドル、35,000ユーロと公表されている。同シリーズ4機種のなかで、本機が最高価かつ最少限定数となる。
PAM00659は単年生産の限定モデルであり、追加生産や色違いの追加は行われていない。本機と同じ「オロロッソ × スケルトナイズドP.2003/10」の組合せでの再生産は、その後Panerai公式ラインアップでは確認されていない。