設計思想
1. 2015年、マスター・クロノメーターの年
オメガがスイス連邦計量・認定局(METAS)と定めた「マスター・クロノメーター」認定は、2014年末に発表された。ムーブメント単体のクロノメーター認定に加え、完成品の時計に8項目の試験を課す。15,000ガウスの耐磁性と、日差0〜+5秒の精度が条件となる。2015年3月のバーゼルワールドでは、その最初の適合機としてグローブマスターが披露された。
同じ会場で、オメガはPloProfにもこの基準を与えた。2009年に1200m防水で復活したPloProfは、鋼製ケースとCal. 8500による道具として完成していた。そこへ新世代のCal. 8912を載せ、ケースをチタンに置き換えたのが本機を含む新シリーズである。本機はその中で、公式が「クラシック」と形容する黒文字盤・黒ベゼルの配色を担った。
2. 何が変わり、何が残ったか
直接の比較対象は、黒文字盤の鋼製モデル 224.30.55.21.01.001 である。受け継がれたのは、55×48mmの外形、1200m防水、左リュウズ、プッシャーで解錠するベゼルだ。ヘリウムエスケープバルブも、「シャークプルーフ」と呼ばれるメッシュブレスも残った。PloProfをPloProfたらしめる要素は、一つも手放されていない。
変わったのは、それらを支える素材と中身である。ケースは鋼からチタンへ、ベゼルはサファイアからセラミックへ、無垢の裏蓋はサファイアクリスタルへ替わった。ムーブメントは日付付きのCal. 8500から、日付を持たないCal. 8912へ移った。精度認定も、COSCのクロノメーター認定にMETASの試験を重ねる方式へ引き上げられた。外観を守り、中身を入れ替える。本機の刷新はその一点に集約される。
3. 置き換えではなく、並走する選択肢として
本機は鋼製モデルを退場させたわけではない。鋼製の224系はその後もしばらく併売されたとされ、チタン製は重量と認定基準で一段進んだ選択肢として並んだ。幅55mmのPloProfにとって、約4割の減量は数字以上の意味を持つ。専門誌のレビューも、鋼製で持て余した重さがチタンでは気にならなくなったと評している。飽和潜水の現場を出自とする時計が、日常の腕に収まる重さを得た世代である。
4. 兄弟機と、その後のPloProf
同時発表の兄弟機や、後に加わった 227.90.55.21.99.002 は、文字盤とベゼルの色・素材を違えた派生である。ケースとムーブメントは本機と共通であり、系列内の違いは色と素材の選択に集約される。
2023年の 227.32.55.21.03.001 は、別の答えを示した。素材を鋼系のO-MEGASTEELへ戻し、縦寸法を45mmに縮めた。ケースはモノブロック構造に立ち返り、ベゼルにはサファイア、裏蓋には無垢の蓋を選んでいる。軽さとシースルーバックを追った本機の路線とは逆を向く、原型回帰の設計である。その対比によって、本機はPloProfが軽さと透明な裏蓋を手にした時期の姿として輪郭を持つ。
意匠分析
ケースの輪郭は、2009年の鋼製 224.30.55.21.01.001 から変わっていない。横55mm・縦48mmの非対称な塊の9時側に、リュウズと大型ガードを置く。ガードはリュウズを緩めると一緒に持ち上がり、2時側にはベゼル解錠用のプッシャーが立つ。本機で入れ替わったのは、その輪郭を満たす素材である。
ケースとクラスプにはグレード5チタン(Ti6Al4V合金)を用いる。公式の総重量は173gで、前任の282gから約4割軽い。ヘアラインを基調とする面に、外周をなぞるポリッシュのエッジと、ベゼル側面に並ぶ30の刻みの研磨が光を拾う。チタンは鋼ほど鋭いエッジを出しにくいとされるが、仕上げの切り替えを細かく重ねて塊の単調さを避けている。
ベゼルの挿入部は、サファイアからポリッシュ仕上げの黒セラミックへ替わった。前任はサファイアの裏面に目盛を印刷していたが、本機は数字、12時の三角、目盛のすべてにスーパールミノヴァを充填する。暗所では、光る目盛が文字盤を一周して縁取る。
黒のラッカー文字盤は日付窓を持たない。4時と5時の間に日付窓を置いた前任に対し、本機の文字盤はインデックスと針だけで構成される。公式は針まわりを「オレンジのアルミニウム」と白いワニス仕上げの組み合わせと説明する。大ぶりの分針を潜水時間の読み取りの主役に据える構成は、PloProfの基本形を踏襲したものだ。
裏蓋はサファイアクリスタルに替わり、ジュネーブウェーブで装飾されたムーブメントが見える。ケース厚は公式値で18.26mmと、前任の17.50mmからわずかに増した。ヘリウムエスケープバルブ(減圧時に内部のヘリウムを逃がす弁)は、プッシャーの支柱の直下に収まる。
Cal. 8912は自社製の自動巻きで、コーアクシャル脱進機(摩擦を抑えるオメガ独自の脱進機構)を備える。シリコン製ヒゲゼンマイなどの採用により、15,000ガウスの磁場にも耐える。直列の2つの香箱で60時間駆動し、振動数は毎時25,200振動(3.5Hz)。日付を持たないキャリバーの選択が、文字盤の簡潔さを支えている。
ブレスレットはグレード2チタンのメッシュで、チタン製メッシュブレスは発表当時、業界初とも評された。クラスプは17段階・計22mmの微調整に加え、ウェットスーツ用に26mm伸びるエクステンションを内蔵する。
系譜と歴史
本機が発表されたのは、2015年3月のバーゼルワールドである。チタンケースとCal. 8912を得た新しいPloProfは4本で構成された。本機はその中で、黒文字盤と黒セラミックベゼルを組み合わせた1本にあたる。同時に、グレー文字盤にダークグレーベゼルの 227.90.55.21.99.001 と、白文字盤にブルーベゼルの 227.90.55.21.04.001 が並んだ。18Kセドナゴールドのベゼルに青文字盤を合わせた 227.60.55.21.03.001 も加わった。
4本ともチタン製のメッシュブレスレットで供給され、交換用のラバーストラップが標準で付属した。本機に添えられるのは黒のラバーストラップである。
2016年には、オレンジのセラミックベゼルとチタン文字盤を持つ 227.90.55.21.99.002 が加わったとされる。専門誌のレビューによれば、この派生ではベゼル解錠用のプッシャーもアルミニウムからセラミックに改められた。本機自体については、生産期間中の仕様変更を告げる公式発表は確認できない。
2023年6月には、Seamaster誕生75周年を記念する「Summer Blue」コレクションが発表された。その中にO-MEGASTEEL製の新しいPloProf 227.32.55.21.03.001 が含まれ、同年11月に納品が始まった。この発表時点で、公式サイトにはチタン製の現行品が3本残っていたと伝えられる。一方でPloProfのカタログ復帰と報じた媒体もあり、チタン世代の終売時期ははっきりしない。2026年9月時点で、オメガ公式サイトは本機を生産終了品として掲載している。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Seamaster Ploprof 1200M 227.90.55.21.01.001
- 02 専門メディア 2015年 オメガ新作 シーマスター プロプロフ マスター クロノメーター 01
- 03 専門メディア Introducing the Omega Seamaster Ploprof 1200m now with Co-Axial Master Chronometer and in Titanium - live photos & price
- 04 専門メディア Omega Seamaster Ploprof 1200m Summer Blue 75th Anniversary | VIDEO
- 05 専門メディア Omega Seamaster Ploprof 1200M Co-Axial Master Chronometer Watch Hands-On