設計思想
1. 2018年、上海で刷新されたレディス・コレクション
2018年10月、オメガは上海でレディス向けコンステレーションの全面刷新を発表した。シンディ・クロフォード、ニコール・キッドマンら4人のアンバサダーが揃い、100を超えるリファレンスが一度に公開された。上海が発表地に選ばれた背景には、25mm・28mm・29mmという小径サイズが中国市場で支持されていた事情があるとされる。
3サイズのうち、機械式を与えられたのは29mmだけである。25mmと28mmはクォーツを積み、29mmにはマスター クロノメーター認定のCal.8700(ゴールドを用いた仕様はCal.8701)が収められた。1982年の「マンハッタン」以来クォーツと結びつきの強かったこのデザインに、ブランド最上位の精度認証を持つ自動巻きを組み合わせた点が、この世代の要点である。
2. 前世代の27mmコーアクシャルからの転換
直前の世代で機械式を担っていたのは、27mm径のコーアクシャル・モデル(123.10.27.20.57.001ほか)である。Cal.8520を搭載し、日付窓は3時位置にあった。
本機ではケースが29mmへ拡大し、日付窓は6時位置へ移った。ムーブメントはCal.8700へ世代交代し、COSC認定に加えて、スイス連邦計量・認定局(METAS)の基準による8項目の試験を課されるマスター クロノメーターとなった。変わらなかったのは、4つの爪とローマ数字ベゼル、一体型ブレスレットという骨格である。
一方で、前世代の27mmは100m防水とされていたのに対し、本機は50m防水にとどまる。耐磁性と精度に重心を移し、防水はドレスウォッチ相当に抑えた構成と読める。
3. 装飾を持たない基本形としての意味
29mmのラインナップの多くは、ダイヤモンドのインデックス、マザー・オブ・パールの文字盤、セドナゴールドとのコンビで構成される。そのなかで本機は、ステンレススチール単体のケースとブレス、明るいシルバー系の文字盤、黒く処理された針とインデックスという、宝飾を排した組み合わせをとる。
宝飾性で選ばれることの多いシリーズにあって、ケース意匠と機械式ムーブメントそのものを前面に置く役割を担ったRefといえる。刷新後の造形を最も素直に確かめられる1本でもある。
4. 同世代の派生
同じ29mmステンレススチールには、マザー・オブ・パール文字盤にダイヤモンドを配した131.10.29.20.05.001、グレー文字盤の131.10.29.20.56.001などが並ぶ。同じ系統の文字盤をスチールとセドナゴールドのコンビで仕立てた131.20.29.20.02.001は、本機に最も近い兄弟である。2020年には男性向けコンステレーションも39mm・41mmで刷新され、同じ「131」で始まるリファレンス体系に加わった。
意匠分析
ケースは2018年の刷新で線が引き直された。ケースとブレスのエッジにはベベル(面取り)が施され、光を拾う面が増えている。爪はケースに沿うように収まりが改められ、リューズの歯にまでハーフムーンの形状が与えられた。1982年の初代マンハッタンで爪は防水のための構造部材だったが、この世代では意匠としての役割が主となっている。
ベゼルは前世代より細くなり、刻まれたローマ数字も幅を詰めた。その分だけ文字盤の開口が広がり、29mmという径のわりに視認域が確保されている。ベゼルはサテン仕上げで、数字は同じ金属の地に彫られるため、主張は控えめである。
文字盤は公式に「クリスタル・ホワイト・シルバリー」と呼ばれる明るい地色である。針、オメガのロゴ、6時位置のコンステレーションの星、インデックスは黒く処理され、白い地との強い対比をつくる。ゴールドやダイヤモンドを用いる兄弟Refが反射で表情をつくるのに対し、本機は色の対比で時刻を読ませる。6時位置の日付窓は、この世代で文字盤の地色に合わせたディスクとされ、存在感を抑えている。
ブレスレットは、1982年の初代に倣ってポリッシュ仕上げのミッドバー・リンクを挟む構成である。クォーツの25mmと28mmが前世代に近い簡素なブレスを用いるのに対し、29mmには別仕立てが与えられた。機械式モデルを上位に置く序列が、ここに表れている。クラスプには約2mmの長さ調整機構が組み込まれ、工具を使わずに装着感を微調整できる。
裏蓋はドーム型のサファイアクリスタルで、Cal.8700を見せる。ドーム形状は自動巻きムーブメントの厚みを吸収するための選択とされ、小径ケースを必要以上に厚く見せない。
Cal.8700はオメガ自社製の自動巻きで、毎時25,200振動(3.5Hz)で駆動し、パワーリザーブは50時間である。コーアクシャル脱進機(摩擦を抑え、長期の精度安定を狙うオメガ独自の脱進機)とシリコン製ヒゲゼンマイを備え、15,000ガウスの磁場に耐える。日常の電子機器や磁気留め具に囲まれる使用環境を前提とした仕様である。
系譜と歴史
131.10.29.20.02.001を含む新しいコンステレーションは、2018年10月下旬、上海で開かれたローンチイベントで発表された。オメガ社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマンに、シンディ・クロフォード、ニコール・キッドマン、アレッサンドラ・アンブロシオ、リウ・シーシーの4人のアンバサダーが同席した。発表されたリファレンスは101本とされ、従来のコレクションを置き換えるものと位置づけられた。ステンレススチールの29mmである本機も、この初期ラインナップに含まれていたとみられる。
発表時点で、29mmは全モデルがマスター クロノメーター認定の自動巻きとされた。個々の時計は最終組立後に、10日間にわたる8項目の試験を経て出荷される。
その後、29mmのラインはセドナゴールドやイエローゴールドとのコンビ、ダイヤモンドセッティングのベゼルを備える仕様へと広がった。2020年6月には、ブルー・アベンチュリンやホワイト・マザー・オブ・パールの文字盤を持つ29mmが紹介されている。のちには隕石を用いた文字盤の仕様も加わった。
こうした装飾的な展開のなかで、本機はスチールとシルバー系文字盤の基本仕様として、大きな仕様変更なく生産が続いたとみられる。生産期間中の文字盤の刷りや針の変更は、公式資料では確認できていない。
2026年9月時点で、オメガ公式サイトの本機ページには「現在は入手できない」旨が表示されており、生産終了と判断できる。ただし、終了年月を示す公式発表は確認できていない。