複雑さと精度の二律背反
機械式時計に機能を足すたび、精度は損なわれる。クロノグラフを始動すれば歯車列に新たな負荷が加わり、カレンダーを駆動すれば主ぜんまいの力が分散する。香箱から調速機構へ届くトルクが変動すれば、歩度は乱れる。長らくこれは複雑時計が抱える宿命とされてきた。
2005年頃、ジャガー・ルクルトはひとつの問いに取り組む。クロノグラフを作動させても、止めても、まったく同じ精度を保つ機械は作れないか。技術者たちが辿り着いたのは、既存機構の改良ではなく、構造そのものの作り替えだった。後にDual-Wing(デュアルウィング)と呼ばれる発想である。当時の最高責任者ジェローム・ランベールは、これを「進化ではなく革命」と語ったと伝わる。