設計思想
ダイバーズウォッチに計時機能を——2022年の決断
グラスヒュッテ・オリジナルが本格ダイバーズの「シーQ」を立ち上げたのは2019年である。1969年に旧東ドイツのGUB(グラスヒュッテ時計工業)が製造したシュペツィマティック Type RP TS 200の50周年を機に、その意匠を現代化して生まれたのがシュペツィアリスト・コレクションだった。3針モデルとパノラマデイト搭載機で構成されてきたラインに、2022年秋、初のクロノグラフが加わる。それが本Refを含むシーQ クロノグラフである。短時間計測機能を持つダイバーズウォッチは同社史上初であり、コレクションの機能的空白を埋める一手だった。
折しも2022年は、ブランドの象徴であるパノラマデイトが1997年の初出から25周年を迎えた年でもある。フライバッククロノグラフとビッグデイトを300m防水のダイバーズケースに同居させる構成は、この節目を飾る技術的声明として読むことができる。
防水とプッシャーという矛盾の解決
ダイバーズクロノグラフ最大の課題は、ケース側面に増えるプッシャーの開口部である。リューズと同等の密閉性を2つのプッシャーにも求めねばならない。シーQ クロノグラフは、3針のシーQ パノラマデイトと同じ30気圧の防水性能を維持したままこの課題を解決した。さらに耐衝撃性への配慮として、文字盤中央を中空の六角ソケットスクリューで地板に固定する構造を採用。落下の衝撃でも文字盤が歪んで針と干渉しない仕組みである。ISO 6425とDIN 8306の二重の規格試験への適合は3針シーQから受け継いだ流儀だが、開口部の多いクロノグラフでこれを守り切った点に本作の価値がある。
Cal.37-23という基盤
搭載されるCal.37-23は、2014年にセブンティーズ・クロノグラフ パノラマデイトで初出した自社製統合クロノグラフCal.37系の派生である。コラムホイール制御にフライバック機構を組み合わせ、シリコン製ヒゲゼンマイによって磁気と温度変化への耐性を確保した。緩急針を持たない偏心ウェイト式の精度調整、3/4プレートといったグラスヒュッテ流の作法はそのままに、規格試験に耐える堅牢性を備える。ドレスクロノに使われてきた機構を、漁網リサイクル素材のストラップも似合う実用機へ転用した判断こそ、本作の核心と言える。
兄弟仕様の中での本Refの位置
シーQ クロノグラフは発表時から、ストラップとバックルの組み合わせごとに個別のRefが与えられた。ブラックラバー、リサイクル漁網由来のシンセティックファブリック(グレー/ブルー)、そして本Refのステンレススチールブレスレットである。ブレスレット仕様は微調整機構と安全フォールディングクラスプを備え、水辺と陸上の往復を最も意識した構成と位置づけられる。2024年秋には銀文字盤の「シルバースクリーン」(1-37-23-03-80系)が加わったが、ブルーの本系統は初代カラーとして併売が続いている。
意匠分析
ケースは直径43.2mm、厚さ16.95mm、ラグトゥラグ51.6mm。39.5mmの3針シーQはもちろん、シーQ パノラマデイトと比べても明確に大きく、厚みはクロノグラフ機構、ボックス型サファイアクリスタル、回転ベゼル、シースルーバックの積層に由来する。サテンとポリッシュを面ごとに切り分けた仕上げと、短く湾曲した一体的なラグが、数値から想像されるより装着感を穏やかにまとめている。
逆回転防止ベゼルにはダークブルーのセラミックインレイが収まり、文字盤もPVD加工による深いブルーで統一される。スーパールミノバを塗布したアプライドインデックスとアロー型のミニッツハンドが、規格が要求する暗所視認性を支える。
レイアウトの要は6時位置のパノラマデイトである。シーQ パノラマデイトでは4時半位置にあった日付窓を本作では6時へ移し、9時のスモールセコンド、3時の30分計と組み合わせて文字盤の左右対称を成立させた。日付円盤は青地に白数字で、窓の存在を主張させず文字盤との一体感を優先している。
リューズは波模様の装飾を持つねじ込み式。シースルーバックからは、ストライプ仕上げの3/4プレート、ブルースチールのネジ、21金の錘を組み込んだダブルGスケルトンローターが見える。規格適合の道具でありながら、裏側は完全にグラスヒュッテの高級機の顔を持つ。
本Ref固有の要素はステンレススチールブレスレットで、工具なしで使える微調整機構と安全フォールディングクラスプを備える。ダイビング用エクステンションというより、日常域でのフィット調整を主眼とした設計であり、このRefが想定する使われ方——水辺の資格を持った陸上の常用機——を端的に物語っている。
系譜と歴史
シーQ クロノグラフは2022年9月末に発表された。専門メディアでの紹介記事は同年9月29日前後に集中し、販売は2022年10月からブティックと正規販売店で開始されている。発表時のダイヤルはダークブルーのみで、ストラップ違いにより複数のRefが同時に展開された。ブラックラバー、リサイクル漁網を原料とするグレーまたはブルーのシンセティックファブリック、そして本Refにあたるステンレススチールブレスレットである。バックル形式がピンバックルかフォールディングクラスプかでも末尾番号が分かれる。
ケースバックについては、1969年のシュペツィマティックに倣った中央ねじ込み式スチールバックとサファイアクリスタルバックの2仕様が公式サイト上で案内されており、シーQ系共通の選択肢がクロノグラフにも引き継がれているとされる。
2024年9月には第2のダイヤルバリエーションとして「シルバースクリーン」(1-37-23-03-80系)が追加された。銀色ガルバニック文字盤に黒のインデックスを組み合わせたモノクローム仕様で、ブルーの本系統はこれと並行して販売が続く。発表から現在までブルー仕様自体に大きな変更は確認されておらず、2026年6月時点で本Refはブランド公式サイトに現行モデルとして掲載されている。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Glashütte Original
- 02 専門メディア Glashütte Original Serenade Luna