設計思想
1. 新生ブライトリングの第一弾として
ナビタイマー 8 オートマチック 41 Ref. A17314101C1A1 が発表された2018年は、ブライトリングにとって明確な転換点であった。前年に投資ファンド CVC キャピタル・パートナーズが経営権を取得し、IWC で長く CEO を務めたジョージ・カーンが2017年夏に新 CEO に就任していた。本機を含むナビタイマー 8 コレクションは、その新体制下で初めて世に出た製品群である。発表自体はバーゼルワールド2018 を前にした2018年1月末に行われ、3月の同見本市で実機が披露された。
カーンが掲げた方針は「コックピットへの回帰」であった。1950年代初頭に登場したナビタイマーよりも前の時代──1930〜40年代に同社が手掛けた航空計器とパイロットウォッチに立ち返り、シンプルで読み取りやすい三針のパイロットウォッチを再構築する。本機の意匠的下敷きとされるのは、1940年頃から生産された Reference 768 と、Huit Aviation Department が製作したコックピットクロックである。
2. 「ナビタイマー」を名乗ったことへの議論
しかしながら、コレクション名に「ナビタイマー」を冠した判断は発表時から議論を呼んだ。スライドルール式回転ベゼルを備えないこの三針モデルが、長年ナビタイマーの代名詞であったクロノグラフ + 計算尺のアイコノグラフィーから離れているにもかかわらず、ナビタイマーの名を背負っていたためである。「8」はフイ・アヴィアシオン部門の8日巻ムーブメントを参照した命名であるという公式説明はあったが、本機の Cal.17(ETA 2824-2 ベース)が約40時間のパワーリザーブにとどまる点と、語源との距離を指摘する声もあった。
3. 2019年の改称と本機の位置
ブライトリングは2019年2月、コレクションの呼称を「ナビタイマー 8」から「Aviator 8」へ変更した。ダイヤル上の "NAVITIMER" 表記もこの改称を機に消え、Ref も A17314101 系から A17315101 系へ切り替わる。仕様自体は据え置かれたが、後継 A17315101 では回転ベゼルの数字配置が見直され、Mosquito や Curtiss Warhawk などの限定派生も Aviator 8 銘で順次投入されていった。
つまり A17314101C1A1 は、ナビタイマー名を冠したまま市場に出た三針 Ref として、最初で最後の世代に位置する一本ということになる。生産期間は実質的に2018年から2019年初頭までであり、Aviator 8 への移行とともに役目を終えた。Aviator 8 自体も2021年以降は AVI コレクションへとさらに整理されていくため、本機はその短い系譜の最初の枝にあたる。
意匠分析
ケースは直径41mm、厚さ10.74mmのステンレススチール製。ラグの長さが抑えられ、計器盤を腕に置いたような扁平なプロポーションが意図されている。スクリュー式リューズと100m防水を備える一方、ベゼルガードや張り出しは抑え、計器的なフラットさを優先した設計である。
最も識別性の高い意匠は、双方向回転式ベゼルである。発表時点での本機のベゼルには12時位置の赤い基準三角と60分の細かなノッチが入る一方、1〜11の時針インデックスは刻まれていなかった。経過時間の概算を読み取るための機構ではあるが、目盛りが薄いため計時実用度よりも視覚的な静謐さを優先した設計とも言える。この点は発表時のレビューでも賛否が分かれ、2019年の Aviator 8 化に際してより視認性の高い数字付きベゼルへ刷新される伏線となった。
文字盤はマリーンブルーのサンレイ仕上げ。アプライドのアラビック数字インデックスと太い剣型針の組み合わせは、1940年代のパイロットウォッチの読み取り思想を引き写したものである。外周にはレイルロードトラックの分目盛りが置かれ、6時位置にはトリミングされた小窓のデイト表示が来る。ダイヤル中央上部にはこの世代のみが持つ "NAVITIMER" の英字ロゴが刷られ、簡素化された B のロゴマークが上方に配される。針および主要インデックスにはスーパールミノヴァが塗布されている。
ブレスレットは7コマ構成のメタルブレスで、両側はサテン、中央コマはポリッシュの切り分けが入る。バックルはフォールディングクラスプであり、計器系パイロットウォッチとしては落ち着いた装着感に振られている。サファイアクリスタル風防は両面無反射コーティング、ケースバックは計器的キャラクターを優先してソリッドのねじ込み式とされ、シースルー化はされていない。ムーブメントは Cal.17、ETA 2824-2 をベースに毎時28,800振動 (4Hz)、25石、約40時間のパワーリザーブを持つ自動巻きで、COSC によるクロノメーター認定を受けている。
系譜と歴史
2018年1月末、ブライトリングは新生体制下での第一弾製品としてナビタイマー 8 コレクションを発表し、その中の三針モデルとして本機 Ref. A17314101C1A1 が世に出た。同年3月、バーゼルワールド2018 でコレクション全体が正式に公開され、量産機としての販売が本格化する。
このコレクションは、Huit Aviation Department を1938年に設立したヴィリー・ブライトリングの足跡をなぞる位置づけで、青文字盤 + ステンレスブレスのバリエーションとして本機が、黒文字盤 + ブレスとして A17314101B1A1、レザーストラップ仕様として A17314101B1X1 および C1X1 が同時にラインナップされた。DLC コーティングを施したブラックスティール仕様 M17314101 系も派生として用意された。
2019年2月、ブライトリングはコレクション名を「ナビタイマー 8」から「Aviator 8」へ変更した。これに伴い後継 Ref. A17315101 系が新設され、本機 A17314101C1A1 は実質的に役目を終える。後継機ではダイヤル上の "NAVITIMER" 表記が削除され、回転ベゼルにも視認性の高い数字インデックスが追加された一方で、ケース寸法・ムーブメント・基本意匠は引き継がれた。
その結果、A17314101C1A1 は2018年初頭から2019年初頭までという1年強の短期間のみ市場に投入された三針 Ref となった。コレクション自体もその後、2020年代に Aviator 8 から AVI へとさらに整理が進み、本機は新生ブライトリング初期の過渡期を示す Ref として記録されている。