設計思想
青い文字盤という選択
トラディションは、A.-L.ブレゲが18世紀末に手がけたスーシュリプション(予約販売)時計とタクト時計の機構配置を、現代の腕時計へ翻案したコレクションである。地板の上に橋(ブリッジ)や歯車、脱進機を配し、本来は文字盤の裏に隠れる機構を表側に見せる。7097は、このトラディションに自動巻きと10時位置のレトログラード秒針を組み合わせたモデルとして2015年に登場した。
7097BB/GY/9WUは、その7097ラインに2020年に加わった一本である。基幹となる銀色文字盤の7097BB/G1/9WUに対し、文字盤を青のギヨシェ仕上げとし、ブレゲのブティックでのみ販売する専売仕様として位置づけられた。
兄弟Refとの違い
本機と7097BB/G1/9WUの差は、文字盤に集約される。ケースは同じ18Kホワイトゴールド、ムーブメントも同じCal.505SR1であり、寸法や機構に変更はない。変わったのは、12時位置に置かれた偏心文字盤の色と仕上げである。金の地にギヨシェを刻み、「ブレゲブルー」と呼ばれる青に仕上げた文字盤は、銀色仕様の端正さとは異なる表情を持つ。
加えて、流通の形が異なる。銀色仕様が通常の正規流通に乗るのに対し、本機はブティック専売とされた。金の地にギヨシェを施し、ブルースティールのブレゲ針を組み合わせる手法そのものは銀色仕様と共通であり、両者を分けているのは文字盤の発色と入手経路に絞られる。同じ機構を持ちながら、その二点で性格を分けた構成といえる。
濃灰色の地板との対比
本機の見どころは、青い文字盤と、その周囲に広がる濃灰色(アンスラサイト)の地板との対比にある。トラディションは機構を表に見せる構造ゆえ、文字盤と地板の色の関係がそのまま外観を決める。銀色仕様では文字盤と地板の明度差が穏やかだが、青文字盤の本機では青と灰が互いを引き立てる。色違いの兄弟Refでありながら、見え方の印象は明確に分かれている。
意匠分析
文字盤は18Kゴールドを土台とし、ローズエンジン(ギヨシェ旋盤)で手作業の彫りを施したうえで青く仕上げる。偏心して12時に置かれた時分表示の小文字盤には、ローマ数字のインデックスと、先端を抜いたブレゲ針(ブルースティール)が組み合わされる。文字盤には個別のシリアル番号とブレゲの署名が刻まれ、1点ごとの個体差を前提とした仕立てである。
10時位置には、扇形を描いて進み60秒で原点へ跳ね返るレトログラード秒針が置かれる。針はやはりブルースティールで、青い文字盤と濃灰色の地板の双方に対して視認性を確保する。4時位置には、A.-L.ブレゲが考案した耐震機構パラシュート(テンプの軸を保護する機構)が、機能部品でありながら意匠の一部として露出する。
ケースは18Kホワイトゴールドで、ケースサイドにはブレゲ伝統のフルーティング(細かな縦溝)が施される。ラグは溶接され、スクリューバーでストラップを留める。前後ともにサファイアクリスタルを備え、裏側からはCal.505SR1の自動巻きローターを見せる。ローターは金製で、A.-L.ブレゲのペルペチュエル(自動巻き懐中時計)に由来する形を引く。
ムーブメントは、シリコン製の爪石を持つ直線型反転レバー脱進機と、シリコン製のブレゲ・オーバーコイルひげゼンマイを備える。シリコンは磁気の影響を受けにくく、温度や姿勢差に対する安定にも寄与する。地板の濃灰色の粒状仕上げ(グルナイヤージュ)が、青い文字盤を受け止める背景となっている。
系譜と歴史
7097のライン自体は、2015年のバーゼルワールドで銀色文字盤の7097BB/G1/9WUとして発表された。トラディションに自動巻きと10時位置のレトログラード秒針を持ち込んだモデルであり、本機の青文字盤仕様はこの基幹Refを土台とする。同ラインにはローズゴールドの7097BR/G1/9WUもあり、銀色文字盤の各仕様が通常流通の基準となってきた。
7097BB/GY/9WUが加わったのは2020年である。年次の見本市での発表ではなく、ブレゲのブティックを通じて販売する専売仕様として導入された。「ブレゲブルー」と呼ばれる青のギヨシェ文字盤は、この年に7097ラインへ初めて持ち込まれた色とされる。
2026年には、ブレゲがトラディションのスゴンド・レトログラード群を更新し、7037・7038とともに7097にも新仕様を加えた。この更新では、白のグランフー・エナメル文字盤やブレゲ式アラビア数字、ムーブメント仕上げの変更が導入されている。これらは本機とは別仕様であり、青ギヨシェのブティック専売である7097BB/GY/9WUの位置づけとは区別される。本稿執筆時点では、本機はブレゲの公式サイトにブティック専売として掲載されている。