懐中時計の機構を腕に移す
トラディションの源流は、創業者アブラアン-ルイ・ブレゲが18世紀末に手がけた予約販売(souscription)懐中時計にある。1796年に構想され、翌1797年から売り出されたこの時計は、購入者が代金の四分の一を前払いする「予約(souscription)」方式で販売された。機構は簡素で、中央に大きな香箱を据え、その周囲に輪列と調速機構を左右対称に配する。三角形の段状ブリッジ、温度補正を施したひげぜんまい、回転式ルビーシリンダー脱進機、そして軸を衝撃から守るパラシュート(pare-chute)装置。装飾より構造の合理を優先したこの設計が、二百年後のトラディションの出発点となる。
スウォッチグループのもとで現代の復興を進めていたブレゲは、過去の名作を外装ごと再現するのではなく、その「機構」を主役に据える道を選んだ。souscription時計のムーブメントを上下反転させ、本来は文字盤裏に隠れる動力の経路を、文字盤側に開いて見せる——それがトラディションの着想である。