系譜と歴史
1. スースクリプションの建築を腕へ
トラディションは、2005年に手巻きモデル7027で発表されたコレクションである。最大の特徴は、通常は文字盤の下に隠れる輪列や脱進機、香箱を地板の上に引き上げ、左右対称に配した逆構造にある。この発想の源泉は、創業者アブラアン=ルイ・ブレゲが18世紀末に手がけたスースクリプション(予約販売方式)の懐中時計にさかのぼる。スースクリプション時計は代金の一部を前金として受け、その資金で部品をそろえて同じ時計をまとめて作るという、簡潔で視認性の高い一本針の時計であった。中央に単一の香箱を据えたその機構を、ブレゲは21世紀の腕時計へ翻案した。Cal. 505SR1は、この建築様式を土台に組み立てられている。
2. 自動巻とレトログラード秒
トラディションに自動巻を加えたのは、2005年の手巻モデルの翌年、2006年に登場した37mmの7037である。このモデルはすでにレトログラード秒を備えていたが、Monochromeは当時あまり目立たない存在だったと振り返る。2014年末に予告され、2015年に登場した40mmの7097は、この構成をより大きなケースで現代的に仕立て直したもので、その心臓としてCal. 505SR1が使われた。発表時の7097は、受けと地板を濃灰色(アンスラサイト)で統一した、それまでより落ち着いた外観をとった。秒針は扇形の軌道を進み、60秒で一気に戻るレトログラード式である。
505系には参照番号や仕様に応じて505SR、505SR1といった枝番が用いられ、2025年の250周年に向けた38mmの7035にはCal. 505 SRが載る。
3. シリコンという選択
Cal. 505SR1のもう一つの核は、脱進機とヒゲゼンマイに採用されたシリコンである。ブレゲは2006年にシリコン製のヒゲゼンマイと脱進機を備えた時計を発表しており、この素材の実用化に早くから取り組んだメーカーの一つである。SJXは、トラディションの外観が懐中時計を思わせる一方で、潤滑の要らないシリコン製のアンクルとシリコン製のブレゲひげを持つ脱進系は徹底して現代的だと評している。一方でテンプの軸を衝撃から守るのは、A.-L.ブレゲ自身が考案したパラシュート(パール・シュート)の系譜を継ぐ装置である。19世紀の耐衝撃機構と現代の素材が、一つのキャリバーの上で共存している。