設計思想
8日巻き手巻きという起点
ブランパンが現在の8日巻き機構へ踏み出したのは2006年である。同年、Marc A. Hayekが最高経営責任者として主導した最初の新型キャリバー13R0が発表された。3つの香箱を直列で連結し、192時間(8日)の動力を確保する構成である。前の香箱の力が弱まる前に次が引き継ぐため、8日間を通じてトルクの変動が小さい。テンプはチタン製で、金の微調整ネジによる調速を採り、ヒゲゼンマイにはシリコンを用いる。13R0は当初ル・ブラッスのライン(参照4213-3442-55B、オパーリン文字盤)に収められ、後に「新型ムーブメントの行進」と呼ばれる開発期の起点となった。翌2007年には自動巻きのCal.1315がここから派生している。6614-3437-55Bが収めるCal.13R1は、この8日巻き手巻きを42mmのヴィルレ向けに展開した版であり、時分秒に日付とパワーリザーブ表示を加える。一週間を超える駆動は、複数本を持ち替える着け手にとって、外したまま止めない余裕につながる。
platinumと黒を選ぶということ
ヴィルレの定番は、白い文字盤とローズゴールドの組み合わせにある。そこへ黒のグランフェ・エナメルとplatinumを充てる本機の選択は、シリーズの古典的な文法を保ったまま、明暗を反転させる試みと読める。platinumは外見の主張が目立たないわりに密度が高く、黒のエナメルと組むと色調はいっそう沈む。限定75本という小さな数も、この控えめさと釣り合う。
系譜の中での位置
同じ黒エナメル文字盤は、レッドゴールドの6614-3637-55Bにも与えられている。両者は素材違いの兄弟機であり、本機は反射の少ないplatinumを選んだ版にあたる。ブランパンは8日巻き機構とグランフェ・エナメルを組み合わせたヴィルレを複数展開してきたが、それらの多くがカレンダーやムーンフェイズを伴うのに対し、本機は時分秒と日付、パワーリザーブにとどまる。8日巻き手巻きの最も基本的な構成を、最も装飾の少ない文字盤色で見せた一本といえる。
意匠分析
platinumのケースは径42mm、厚さ11.2mm。ベゼルは二段に削り出され、短く下方へ落ちるラグと合わせて、ヴィルレ特有の薄く整った輪郭をつくる。仕上げはポリッシュが主体で、platinumの重さと相まって、目立たない見かけに反した存在感を持つ。
文字盤は黒のグランフェ・エナメルで、わずかにドーム状に張る。グランフェ・エナメルは1000度前後で複数回焼き付ける技法で、黒の単色を均一に焼き上げることは白以上に難度が高いとされる。ドーム面は光の角度で表情を変え、平板な塗装とは異なる奥行きを見せる。ローマ数字はエナメルで描いて再び焼成し、印刷では得られない深みと耐久性を備える。グランフェ・エナメルのヴィルレには数字の間に「JB」の隠し署名が置かれるとされるが、黒地では判別しにくい。
針はホワイトゴールドのリーフ(葉形)針で、肉抜きされた形状を採る。黒地との明暗差が高く、視認性を確保している。文字盤の構成は、6時に沈めたスモールセコンド、3時の日付窓、12時下のパワーリザーブ表示からなり、エナメル面の対称を崩さぬよう抑えて配置される。
サファイアの裏蓋からはCal.13R1が見える。コート・ド・ジュネーブ、面取り、ペルラージュといった手仕上げが施され、金の調速ネジを備えたチタンテンプと、3つの香箱が確認できる。ケースは黒のアリゲーターストラップにplatinumのフォールディングバックルで留める。
系譜と歴史
ブランパンが8日巻き手巻きのCal.13R0を発表したのは2006年10月で、4年の開発を経て、当時の最高経営責任者Marc A. Hayekの体制下で生まれた最初の新型機構であった。翌2007年には、これを基に自動巻きのCal.1315が続いた。本機6614-3437-55Bが搭載するCal.13R1は、この8日巻き手巻きをヴィルレの42mmケースに収め、時分秒に日付とパワーリザーブ表示を加えた版である。WatchBaseの記録では生産は2006年からとされ、platinumケースに黒のグランフェ・エナメル文字盤を組んだ番号入りの限定75本として登録されている。同じ黒エナメル文字盤は、レッドゴールドの6614-3637-55Bにも展開された。ブランパンは8日巻きのヴィルレに白いグランフェ・エナメル文字盤の機種も並行して用意しており、本機の黒エナメルとplatinumの組み合わせは、その中の限定仕様にあたる。限定数が75本に区切られているため、所定の本数に達した時点で生産は終わる。ただし黒エナメル版の正確な発表時期、レッドゴールド版との前後関係、生産終了の年は、複数の独立したソースでは確認できていない。