設計思想
大型化する時代に、看板機構をどう運ぶか
2000年代に入ると、機械式時計の文字盤は年を追って大きくなっていった。ブランパンにとってフライバッククロノグラフは、1980年代の復興以降に確立した看板であり、38mmの2185Fは1990年代に同社の量販モデルとなっていた。世紀の変わり目に、スポーティかつ端正なラインは「レマン」と名を改める。2002年のフライバック スプリットセコンド2086を皮切りに、コレクションは40mm世代へと移っていった。看板であるフライバックをこの新しい寸法へ運ぶにあたり、ブランパンは単純な拡大では足りないと考えた。
2mmの拡大と、瞬時に飛ぶ日付
2005年に登場した本世代2885Fは、前任2185Fからケース径を38mmから40mmへと2mm広げている。だが変更の核心は寸法ではない。6時位置に、瞬時に切り替わるグランドデイトを組み込んだ点にある。同じ2005年、2100系の後継にあたる2850にも同じ大型日付が与えられ、この瞬時切り替え式グランドデイトは、以後ブランパンの各所で用いられる機構へと育っていった。一方で受け継がれたのは、フライバック機構と、フレデリック・ピゲ1185に連なるムーブメント設計、そして視認性を重んじた文字盤の語法である。
レマン後期に立つ一本として
本機は、復興後のブランパンが最も多く売った複雑機構を、40mmという当時の標準寸法と大型日付で再構成した姿といえる。レマンはやがて縮小へ向かい、その役割はL-エヴォリューションなどへ移されていく。そのため2885Fは、レマンのフライバックという発想が完全な形で結実した最後期の世代に位置する。レマンはブランパンのなかで最も入りやすいコレクションと位置づけられており、質実な本機の性格もその文脈に連なる。なかでもステンレススチールに黒のミリタリーダイヤルを合わせた本2885F-11B30B-53Bは、赤金にオパライン文字盤を持つ兄弟機と並べたとき、より工具的で実用に寄った相貌を見せる。
意匠分析
本機の設計は、看板機構を日常の実用時計へ落とし込む方向で選ばれている。直径40mm・厚さ13.3mmのケースは全面をブラッシュ仕上げとし、光を抑えた落ち着いた表情を持つ。ポリッシュを多用する装飾的なクロノグラフとは異なり、この総サテン仕上げは、1999年のアクアラング以降レマンに流れる実用的な美意識を引く。ラグ幅は22mmで、ねじ込み式リューズとプッシュボタンが100m防水 (10気圧) を支える。
前世代の38mmフライバックが純正では多く閉じた裏蓋であったのに対し、本機はサファイアの展示裏蓋を標準とし、ムーブメントを見せる構成へ転じている。文字盤は黒のミリタリーダイヤルで、夜光を施したアラビア数字とインデックスが暗所での視認性を確保する。中央のクロノグラフ秒針に対し、30分積算計を3時、12時間積算計を9時へ配し、6時には黒地に白い数字を刷った2枚のディスクによるグランドデイトが置かれる。日付は中間段階を経ず瞬時に切り替わる。
心臓部の自社Cal.69F8は、エドモン・カプトが設計したフレデリック・ピゲ1185の系譜に連なる自動巻きで、毎時21,600振動 (3Hz)、42個の石、382の部品からなる。コラムホイールと垂直クラッチの組み合わせが、始動・停止・復帰の滑らかさとフライバック動作を生む。パワーリザーブは約40時間。金製ローターとコート・ド・ジュネーブ装飾が、裏蓋越しに見える。装着はラバーを裏打ちした黒のアリゲーターストラップとステンレス製フォールディングバックルが担う。
系譜と歴史
2885Fファミリーは、2005年にレマンシリーズへ加えられた。1990年代に同シリーズの量販モデルとなった38mmのフライバッククロノグラフ2185Fを40mm径へ拡大し、6時位置へ瞬時切り替え式のグランドデイトを組み込んだ世代である。同じ2005年、2100系の後継となる2850にも同じ大型日付が与えられている。発表当初から文字盤レイアウトは2種類が用意され、ケース素材はステンレススチールと赤金、装着はアリゲーターストラップとX-71ブレスレットから選べた。本機2885F-11B30B-53Bは、そのうちステンレススチールに黒のミリタリーダイヤルを合わせ、ラバーを裏打ちしたアリゲーターストラップとフォールディングバックルを組む構成にあたる。同じ黒文字盤でブレスレット仕様の2885F-1130-71、白いミリタリーダイヤルの2885F-1127-71、赤金にオパライン文字盤の2885F-36B42-53Bなどが併売された。限定版としては、100本のカンヌ・ボートショー記念や、ペキン・トゥ・パリを冠した2885FC系も知られる。生産は2000年代後半まで続き、2007年製造の個体が確認できる。レマンシリーズ自体はその後縮小へ向かい、2010年代前半頃までに現行カタログから外れたとされる。