設計思想
カルーセルという忘れられた機構
カルーセルは、テンプと脱進機を回転する台座に載せ、姿勢差による精度のばらつきを抑える調速機構である。1892年にバーン・ボニクセンが考案したが、トゥールビヨンの影に隠れ、長く忘れられていた。これを腕時計のために蘇らせたのが、独立時計師団体A.H.C.I.の共同創設者ヴィンセント・カラブレーゼである。ボニクセンのカルーセルが1回転に数十分を要したのに対し、カラブレーゼは歯車を加えて回転を60秒に縮めた。ブランパンはこれを2008年に「カルーセル・ヴォラン・ユヌ・ミニュット」として発表し、腕時計初の1分カルーセルを世に出した。
サファイアで機構を露わにする
2008年の初代はCal.225を半スケルトンの文字盤に収めていた。2010年、ブランパンはこの機構をL-Evolutionのケースに移し、地板と橋をすべてサファイアで成形した「カルーセル・サフィール」を発表する。サファイアは加工が難しく、安定した支持構造を得るためにムーブメント全体の設計を見直す必要があったとされる。透明な構造のなかで、カルーセルは支えを失ったかのように宙に浮かぶ。余計な装飾を排し、機構そのものを主役に据えた点が、この系列の核にある。
ホワイトゴールド15本という選択
L-Evolutionは、ヴィルレに代表される古典的な意匠とは対照的に、ブランパンが現代的で前衛的な表現を試みるラインである。カルーセル・サフィールがこの角張ったケースに収められたのは、機構の現代性とラインの性格が一致したためと考えられる。00222A-1500-53Bは、そのホワイトゴールド版にあたる。タンタルのケースにホワイトゴールドのラグを組み合わせたRef. 00222-1500-53Bが50本限定だったのに対し、ホワイトゴールドの本機は15本のみ。下層にエレクトリック・ブルーのプリカジュール・エナメル、上層に微細な彫刻加工を施した二層の文字盤を持つ。
意匠分析
00222A-1500-53Bの設計を特徴づけるのは、地板と橋をすべてサファイアで成形した点にある。通常は金属でつくられる支持部材を透明なサファイアに置き換えたことで、ムーブメントは支えを持たないかのように見える。サファイアの構造体は、ベゼル、ケースミドル、ラグの間に挟み込まれる形でL-Evolutionのケースに固定される。モジュラー構造のケースが、この繊細な機構を保持する役割を担う。
ケースはホワイトゴールド製で、径は43.5mm、厚さは13.5mm。高級複雑時計としては大ぶりだが、L-Evolutionらしい角張ったベゼルとラグが、機構の現代性に呼応する。風防とケースバックの両方にサファイアクリスタルを用い、表からも裏からもカルーセルの回転を追える。無色のサファイアとホワイトゴールドの取り合わせは、色彩を抑え、機構の動きそのものへ視線を集める。
ダイヤルは二層構造で、下層にプリカジュール・エナメル、上層にサブミクロン単位の彫刻加工を施し、12時位置の窓からカルーセルをのぞかせる。1分で1回転する「飛行」カルーセルの名は、上部の橋を持たず、台座の下のボールベアリングだけで支えられる構造に由来する。
ムーブメントは手巻きのCal.22T。209の部品からなり、120時間のパワーリザーブを備える。香箱、輪列、リューズ機構といった主要部品だけがカルーセルを取り囲み、装飾的な要素は徹底して省かれている。ストラップはラバーで裏打ちした黒のアリゲーター。
系譜と歴史
カルーセルを1分回転で腕時計に載せる試みは、2008年の「カルーセル・ヴォラン・ユヌ・ミニュット」に始まる。ブランパンはこの機構を2010年にL-Evolutionへ移し、地板と橋をサファイアで成形した「カルーセル・サフィール」を発表した。搭載するCal.22Tは、2008年のCal.225を土台に、透明な支持構造へ作り替えたものである。
2010年の登場後、素材を変えたバリエーションが加えられた。タンタルのケースにホワイトゴールドのラグを組み合わせたRef. 00222-1500-53Bは50本限定で、日本では2011年冬以降の発売とされた。本機00222A-1500-53Bはホワイトゴールドを纏い、青いプリカジュール・エナメル文字盤を備えて、限定数は15本にとどまる。
いずれも少数生産の限定モデルであり、現行のカタログには残っていない。カルーセルの探求はその後、トゥールビヨンとカルーセルを一つの機構に同居させた2013年以降のTourbillon Carrouselへと続く。L-Evolutionのコレクション自体もその後ブランパンの定番ラインから外れたため、本機は短い期間に限られた本数だけがつくられたRefとして記録される。
出典
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