03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
カルーセル復活の系譜
カルーセルは、1892年にデンマーク出身の時計師バーン・ボニクセンが英国で特許を得た調速機構である。テンプと脱進機を回転する受け台に載せ、姿勢差による誤差を平均化する点で、ブレゲのトゥールビヨンと目的を同じくする。ただしボニクセンの設計は回転が緩やかで、52分台や34分といった周期を想定していた。
長く忘れられていたこの機構を、ブランパンは2008年に腕時計へ甦らせた。独立時計師アカデミー(AHCI)の共同創設者ヴィンセント・カラブレーゼが手がけたCal. 225がそれで、輪列に2枚の歯車を加えることで1分で1回転する速度を実現した。上部ブリッジを持たないフライング構造とあわせ、1分カルーセルとフライング・カルーセルのいずれも腕時計では最初の例とされる。Cal. 22Tは、この系譜の延長上に位置する。
サファイアという解
22Tが示した革新は、地板と受をサファイアで成形した点にある。機構を支え固定する部材は不可欠だが、それを透明な素材に置き換えれば、カルーセルの動きを遮るものは消える。発想は単純でも、実装は容易でない。サファイアは硬度が高く加工が難しく、地板と受を削り出す手法の確立には長い年月を要したとされる。
カラブレーゼの得意とする地板の省略と組み合わせ、輪列・脱進機・テンプはサファイアの板に挟み込まれた。カルーセルは香箱と輪列、巻上機構のみに囲まれ、宙に浮くように回転する。
展開と関連キャリバー
22Tの簡潔さは、その後の展開の土台となった。ブランパンは2011年にはタンタルとホワイトゴールドのケースに収めた派生(50本限定)を発表した。直径43.5mm・厚さ13.5mmのケースはタンタル製で、ラグに18Kホワイトゴールドを組み合わせ、防水は3気圧である。さらにのちには青いプリカジュール・エナメル文字盤のホワイトゴールド版(15本限定)も加えている。22Tは、225に連なるブランパンのカルーセル群の中で、素材表現を突き詰めた一基として位置づけられる。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
カルーセルの原理
カルーセルは、調速機を回転させて姿勢差を打ち消す機構である。テンプ・ヒゲゼンマイ・脱進機という調速の中枢を回転する受け台(キャリッジ)に収め、受け台ごと向きを変え続ける。テンプと脱進機は垂直姿勢では重力の影響で精度が偏るが、受け台がこれらを連続して回し、すべての垂直姿勢を巡らせることで偏りを相殺する。トゥールビヨンが香箱から4番車を経た単一の輪列で受け台を駆動するのに対し、カルーセルは3番車を起点とする2系統の輪列を用いる。一方は脱進機にエネルギーを送り、他方が受け台の回転速度を司る。部品点数は増えるが、駆動が分散されるため構造的な堅牢性に寄与するとされ、トゥールビヨンとは異なる設計思想に立つ。
フライングとサファイア構造
22Tのカルーセルは、受け台の上部ブリッジを持たない。受け台の下に組み込まれたボールベアリングのみで支持され、宙に浮いて見える。これがフライング・カルーセルの名の由来である。
さらに22Tでは、機構を支える地板(主板)と受(ブリッジ)そのものがサファイアで作られる。透明な板の内部に輪列・脱進機・テンプが収まり、地板を排したことで、視線を遮る不透明な部材はほぼ消える。結果として、カルーセルの回転と輪列の噛み合いが、文字盤側からも裏側からも遮るものなく見通せる。
駆動と仕様
巻上は手巻である。蓄えられた力は120時間(5日)の駆動を支え、日付や秒、パワーリザーブ表示を持たない簡潔な構成と釣り合う。自動巻のローターを持たない手巻という選択は、透明な機構を遮らない構成と矛盾なく結びつく。調速は受け台に組み込まれたテンプとヒゲゼンマイが担い、受け台が1分で1回転する間に、テンプはあらゆる垂直姿勢を順に通過する。これにより、特定の姿勢で生じる進み遅れが平均化され、姿勢差の影響が抑えられる。
部品数は209、石数は25石(43石とする資料もある)で、L-Evolutionの43.5mmケースに収められる。表示は時と分のみであり、仕上げの主役は彫りや装飾ではなくサファイアそのものに置かれる。透明な地板と受は機構の幾何学をそのまま露わにし、保持構造が見えないために、輪列とカルーセルだけが空間に並ぶように映る。
文字盤は層を重ねた構成で、カルーセルは12時位置の開口から姿を見せる。15本限定のホワイトゴールド版では、文字盤の下層に青いプリカジュール・エナメルを施し、上層にはミクロン単位の彫刻技術による装飾を重ねた。蜘蛛の巣を思わせる意匠は、文字盤と裏蓋の双方に通う。