設計思想
ヴェンペとの四半世紀
A. Lange & Söhneがドレスデンで戦後初のコレクションを披露したのは、1994年10月24日のことである。この日、ヴァルター・ランゲとギュンター・ブリュムラインは、ドイツ・オーストリア・スイスの主要宝飾店を地元の宮殿に招いた。招かれた一人がハンブルクに本拠を置くヴェンペのヘルムート・ヴェンペであり、彼は試作機を手にした場で発注を即決したと伝わる。両家の縁はそれよりはるかに古く、1930年代にはヴェンペがランゲの懐中時計を扱い、両社はマリンクロノメーターの分野でも協業していた。創業者の孫オットー・ランゲと二代目のヘルベルト・ヴェンペは、グラスヒュッテ天文台計時部門の発展に共に関わったとされる。
本機234.042は、その1994年からちょうど25年が経った2019年に、両家の関係を一本の腕時計として刻むために生まれた。同時に発表されたホワイトゴールド仕様234.041とともに、ヴェンペ各店舗のみで販売される限定品である。
25という数の意匠
選ばれた素材は1815アップ/ダウンの標準仕様(234.032/234.026)と同じく、750ピンクゴールドと750ホワイトゴールドである。本機234.042はそのうちピンクゴールド版にあたり、25本のみが作られた。ホワイトゴールド版234.041も同数の25本であり、計50本という極めて小さな世界となる。
「25」はこのモデルにとって幾重もの意味を持つ。25年のパートナーシップ、25本ずつの限定数、そして発表当時に世界25カ所と公表されていたヴェンペのランゲ取扱店舗。発表時のランゲCEOヴィルヘルム・シュミットは、ヴェンペを「世界で最も重要なランゲの大使の一つ」と位置づけている。ヴェンペはミュンヘンとロンドンのA. Lange & Söhneブティックも運営しており、両家の関係は単なる小売契約を超えた合作の様相を呈している。
234世代における派生としての位置
1815アップ/ダウンの第2世代(234世代)は、2013年のSIHHで発表された。それまで35.9mm径(221世代、1997〜2008年)であった本シリーズは、39mmへと拡大され、ステップドベゼルを伴う新しい姿となった。234.042はその234世代の意匠と機構を継承したうえで、文字盤色と販路だけを変えた一本である。
同世代の234シリーズには、本機の前にも小売店向け限定版が存在する。2017年のセラーニ(ニューヨーク)創業40周年エディション234.049(40本)、2018年のスアレス(ビルバオ)創業75周年エディション(20本)がそれにあたる。234.042はその系譜の三本目の小売店限定であり、姉妹機234.041と並んでヴェンペの25周年を記念する位置にある。シリアルナンバーは個別に刻印され、裏蓋にも限定の旨が彫られている。
意匠分析
文字盤:深い青と銀の対比
234.042の最大の意匠的特徴は、234世代1815アップ/ダウンとして唯一の深い青文字盤である。標準仕様234.032がアルジャンテ(銀色)無垢シルバー文字盤を用いるのに対し、本機は同じくソリッドシルバー素材に深いブルーの着色を施した。
その青地の上で、4時位置のスモールセコンドと8時位置のオーフ/アープ(パワーリザーブ)はロジウム調(銀色)に仕上げられ、深い青の文字盤本体と明確な色のコントラストを描く。標準仕様では文字盤と一体色で表現される副ダイヤルが、本機では色違いの独立した銀色面となり、青のなかに二つの銀の月を浮かべたような構成となる。アラビア数字は白で刷られ、レイルウェイ・トラックの分目盛もまた白で配される。
針と素材の選択
針は標準仕様の青焼きスチール針から外され、ケース素材と同じピンクゴールドのアルファ針が時分用に採用された。スモールセコンドとパワーリザーブの針はロジウムカラーで、ピンクゴールドの時分針との間に明確な色階を設けている。青焼き針が用いられないことで青文字盤との一体感が崩れず、ピンクゴールドの暖色が文字盤外周と針のみに配置される構成が成り立つ。
ケースは234世代に共通の39mm径・厚さ8.7mmで、ラグから垂直に立ち上がるサイドとステップドベゼルを持つ。サイドはサテン仕上げ、ベゼル上面とラグ稜線はポリッシュで切り分けられる。ストラップは深い青のアリゲーターレザーで、ピンクゴールドのピンバックルで留められる。
裏蓋とムーブメント
サファイアの裏蓋を通して見えるのは234世代の手巻きCal.L051.2であり、本機固有の改変は加えられていない。245のパーツ、29石、うち7つはネジ留めゴールドシャトン、ジャーマンシルバーのスリー・クォーター・プレート、手彫りのバランスコックといった構成は標準仕様と同一である。ただし裏蓋外周には、ヴェンペ25周年限定であることを示す刻印が個別シリアルとともに彫られている。
系譜と歴史
234.042は、A. Lange & Söhneとヴェンペのパートナーシップ25周年を記念して、2019年6月に発表された。発表は両家共同のアニバーサリー告知の形を取り、SIHHやウォッチズ&ワンダーズ等の見本市ではなく、独立したプレスリリースとして公表された。
同時に発表された姉妹機がホワイトゴールド版の234.041であり、両者はそれぞれ25本のみという生産数を共有する。両機は世界各地のヴェンペ系列店でのみ販売され、個別シリアルナンバーが裏蓋に彫られた。本機234.042はそのうちピンクゴールド側にあたる。発売後の追加生産・別仕様の派生は確認されておらず、生産は2019年の単年で完了したと伝わる。
ベースとなる第2世代1815アップ/ダウン(234.032ピンクゴールド・234.026ホワイトゴールド)は2013年のSIHHで発表され、現行コレクションとして並行して販売され続けている。本機が発表された2019年時点で、すでにベース機は6年目を迎えており、Cal.L051.2の信頼性と仕上げの完成度は十分に確立されていた。
なお、A. Lange & Söhneとヴェンペは1990年代後半以降、複数の小売店限定版で協業した実績を持つ。234.042はその系譜のなかでも、両家の現代の関係そのものを記念対象とした唯一のモデルとして位置づけられる。
2026年現在、A. Lange & Söhneの公式ウェブサイトは本機を「現行コレクションには含まれない」と明記し、ヴェンペ各店舗での取り扱いも個別問い合わせ対応に移行している。