本文へ
A. LANGE & SöHNE · SERIES

1815

創業者F.A.ランゲの生年を冠した、懐中時計の意匠を腕時計の文法に翻訳するドイツ古典時計学の系譜。

01 — 概要 / SUMMARY

1815は、ドイツ・ガラスヒュッテのA. Lange & Söhneが1995年に発表した、創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲの生年に由来する系譜である。19世紀懐中時計の意匠を腕時計に翻訳することを主題とし、レイルウェイ分目盛、アラビア数字、ブルースチール針、ジャーマンシルバー製3/4プレートといったザクセン古典時計学の語彙を体現する。三針の1815とUp/Downを軸に、Chronograph、Moonphase、Tourbillon、Rattrapante Perpetual Calendarまで派生し、単純三針から高級複雑時計までを覆う意匠的統一性をもつ。

02 — STORY · 物語

1815、これまでの軌跡

The story of this series
01

1815年生まれの男に捧ぐ

1990年12月、ガラスヒュッテで A. Lange & Söhne の商号が再登録された。創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲの曾孫ヴァルター・ランゲが、第二次大戦後の国営化で姿を消したブランドをドイツ再統一の流れの中で蘇らせた瞬間である。1994年10月、ドレスデンのレジデンツ城で発表された最初の四本 ― Lange 1、Saxonia、Arkade、Tourbillon "Pour le Mérite" ― は、復活の宣言であった。

翌1995年、五本目として加わったのが 1815 である。シリーズ名は、F.A.ランゲがドレスデンに生まれた年に由来する。Lange 1 が「未来のランゲ」を語るとすれば、1815 はブランドが背負う過去を腕に巻く装置として構想された。ガラスヒュッテの懐中時計が積み上げてきた語彙 ― レイルウェイ分目盛、アラビア数字、ブルースチール針、3/4プレート ― を現代の腕時計の寸法に再構成すること。それが主題である。

02

初代Ref. 206が定めた語彙

初代の中核を成したのは Ref. 206.021(イエローゴールド)と Ref. 206.025(ホワイトゴールド)である。アルジャンテ仕上げのシルバーダイアルに、5分ごとのクラブ型インデックスとアラビア数字、レイルウェイ分目盛、ブルースチール針が配される。後年には素材と文字盤の派生も加わった。

搭載されるキャリバー L941.1 は、Saxonia や Arkade に用いられた矩形の L911 系をシースルーバックで見せられる形に作り直した手巻きで、毎時21,600振動 (3Hz)、約45時間のパワーリザーブを備える。F.A.ランゲ自身の考案と伝わる3/4プレートはジャーマンシルバー製で、グラスヒュッテストライプ、手彫りの天輪受け、金製シャトンに収まったルビー、焼戻し青の固定ねじが並ぶ。シリーズが背負う伝統を雄弁に語る部分である。

03

パワーリザーブとクロノグラフへの展開

1997年、シリーズに 1815 Up/Down が加わる。36mmの三針モデルとされ、4時位置のスモールセコンドと8時位置のパワーリザーブインジケーターを対称配置した文字盤は、過去の懐中時計の構成を腕時計に移植したものである。搭載キャリバー L942.1 は、L941.1 にパワーリザーブ表示機構を加えた派生形であった。1999年には、これを土台に1,058年に1日しか狂わない精密なムーンフェイズを加えた 1815 Moonphase Emil Lange も登場している。

2004年、シリーズは本格的なクロノグラフとして 1815 Chronograph を迎える。初代に搭載されたキャリバー L951.0 は、コラムホイール、フライバック、瞬時跳躍式分積算計を備える。Datograph 用 L951.1 から大型日付を取り去り、文字盤に脈拍計目盛を配したこの機械は、古典的文字盤と現代の精密工学を両立させるシリーズの設計思想を最も明瞭に示した。2010年からは第二世代(Cal. L951.5)、2015年には脈拍計を復活させたホワイトゴールドの Boutique Edition へと続く。現行の1815 Chronograph はケース径39.5mm、厚さ11mmとされる。

04

40ミリ、そして38.5ミリへ ― ケースサイズの試行

2009年、初代から14年を経て三針の 1815 はケース径を40mmへ拡大する。Ref. 233.026(ホワイトゴールド)、Ref. 233.032(ピンクゴールド)などを擁する第二世代は、新キャリバー L051.1 を搭載し、パワーリザーブを55時間へ延長した。文字盤は段差のある立体的構成となり、太めの針と大ぶりなアラビア数字が新しい体格に整えられた。

2014年のSIHHでは、同じ L051.1 を積む38.5mmの 1815 が加わる。40mm版は継続し、新しい38.5mm版には前年の Up/Down 第二世代で初めて採られた段差付きベゼル(ステップドベゼル)が導入された。縦の線を区切り、ケースを薄く見せる工夫である。数年の空白を経て2013年に復活した 1815 Up/Down 第二世代(Ref. 234.026 ほか)は、39mm・厚さ8.7mmで、新キャリバー L051.2 を積む。パワーリザーブ表示は、創業者の孫オットー・ランゲが1940年に得た特許に基づく。

05

複雑機構の到達点 ― トゥールビヨンと永久カレンダー

2013年のSIHHで発表された 1815 Rattrapante Perpetual Calendar(ケース径41.9mm、厚さ14.7mm)は、スプリットセコンドクロノグラフと永久カレンダーを組み合わせた、ランゲ初の腕時計である。Z字形のレバーで高さ9.1mmに収めた Cal. L101.1 が、四つのサブダイアルを持つ伝統的な文字盤を支える。

翌2014年、1815 Tourbillon が登場する。搭載されるキャリバー L102.1 は、2008年 Cabaret Tourbillon で実装されたトゥールビヨン停止機構と、自動巻 Sax-0-Mat で知られたゼロリセット機構を組み合わせた最初の例とされる。クラウンを引くとトゥールビヨンの天輪が即座に停止し、秒針が12時へ瞬時に飛ぶ。秒単位の精密な時刻合わせをトゥールビヨンで可能にした設計である。

2015年には創業者生誕200周年に合わせ、Handwerkskunst の5作目となる 1815 Tourbillon Handwerkskunst が登場した。2017年には、前年に93歳で没したヴァルター・ランゲを記念し、独立したジャンピングセコンドを持つ手巻 L1924 の 1815 "Homage to Walter Lange" が加わる。単純三針から高級複雑機構までを覆う体系は、こうして厚みを増していった。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

1815シリーズの設計言語は、ひとつの問いに集約できる ― 1815年に生まれたフェルディナント・アドルフ・ランゲが、もし現代に腕時計を設計するならば、何を守り、何を変えるか。シリーズは、その思考実験への回答として組み立てられている。

文字盤に貫かれる原則は、19世紀ザクセンの懐中時計が示した可読性の最優先である。アラビア数字、レイルウェイ分目盛、5分ごとのクラブ型インデックス、そしてブルースチール針 ― これらは装飾ではなく、ガラスヒュッテの時計学が長年かけて磨いた読み取りの装置である。文字盤の余白はあえて広く取り、針と数字に対して背景が一歩引く構成となっている。Lange 1 のような非対称配置を採らず、中心軸に対する左右対称に徹する点に、このシリーズが選んだ姿勢が表れている。

ムーブメント側の意匠も等しく一貫している。F.A. ランゲ自身の考案と伝わる3/4プレートを採用し、無処理のジャーマンシルバーで仕上げる。グラスヒュッテストライプ、手彫りの天輪受け、金製シャトンに収まったルビー、焼戻し青の固定ねじ、スワンネック緩急針 ― 復刻ではなく、現代の工作精度で再構築された伝統である。ケースは段差を抑えた三層構造を基調とし、第二世代のUp/Down以降は段差付きベゼル(ステップドベゼル)を採り、視覚的な厚みを抑える調整がなされた。

機構面の哲学は、精密な時刻合わせへの執着に表れている。自動巻 Sax-0-Mat で知られたゼロリセット機構を1815 Tourbillon などに組み込み、クラウンを引いた瞬間に秒針を12時位置へ戻す。トゥールビヨン停止機構と組み合わせた1815 Tourbillon は、その思想を高級複雑時計まで一貫して適用した例である。

同時代の古典三針の系譜 ― パテック フィリップの Calatrava、バセロン コンスタンタンの Patrimony、そして同社内の Saxonia ― と並べたとき、1815 の輪郭は明瞭である。装飾性ではなく構造の論理を見せ、薄さよりも仕上げの密度を選ぶ。サイズや材質を慎重に試行しながらも、文字盤と機械の意匠語彙そのものは、1995年の初代から大きく変わっていない。守ったものと、慎重に変えたものの線引きが、このシリーズの設計思想そのものである。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1995-2008
Cal. L941.1
L911系の系譜、3Hz・45時間PRの手巻き基幹機。
1997-2008
Cal. L942.1
L941.1にパワーリザーブ表示を加えた派生形。
2004-現在
Cal. L951.0 / L951.5
コラムホイール式フライバッククロノグラフ系。
2009-現在
Cal. L051.1 / L051.2
三針とUp/Down用、55時間PRの世代。
2013-現在
Cal. L101.1 / L101.2
ラトラパンテ永久暦・純粋ラトラパンテ用の専用機。
2014-現在
Cal. L102.1
停止機構付きトゥールビヨンとゼロリセットを統合。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1995-2008

初代1815

206.021 206.025
Cal. L941.1。シリーズの文法を定めた起点。
1997-2008

1815 Up/Down初代

1815 Up Down
パワーリザーブ表示を備える対称文字盤の36mm。
2004-2009

1815 Chronograph初代

1815 Chronograph
Cal. L951.0搭載、シリーズ初の本格複雑機構。
2009-

三針第二世代・40mm

1815(40mm)
新Cal. L051.1で40mm化、55時間PRへ。
2013-現在

Rattrapante永久カレンダー

1815 Rattrapante Perpetual Calendar
ラトラパンテと永久暦を統合した複雑機構の到達点。
2014-現在

38.5mm版の追加

1815(38.5mm)
38.5mm版を追加、ステップドベゼルを採用。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 専門メディア The Battle of High-End Chronographs Part 2 – A. Lange & Söhne 1815 Chronograph 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
  2. 02 専門メディア Beyond the Familiar: A. Lange & Söhne’s 1815 Retrospective 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
  3. 03 専門メディア Hands-on with the Lange 1815 Rattrapante Perpetual Calendar, and explaining its movement construction (live photos and pricing) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
  4. 04 専門メディア Hands-on with the Lange 1815 Up/Down (with live photos and pricing) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
  5. 05 専門メディア SIHH 2014: Introducing the new 38.5 mm Lange 1815 hand-wind (with specs and pricing) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive