系譜と歴史
1. 7年の開発期間
Cal.3300の開発が始まったのは2008年とされる。Vacheron Constantinはこの時、創業260周年(2015年)に向けた新たな自社製クロノグラフ機構の整備を計画し、Cal.3300、Cal.3200(トゥールビヨン版)、Cal.3500(自社初のペリフェラル・ローター搭載自動巻き)、女性向けのCal.1142という計4機種を並行して開発する。Cal.3300は2015年のSIHHで正式に発表され、構想から発表まで約7年を要したことになる。
この一連の取り組みは、Vacheron Constantinにとって近一世紀ぶりとなる自社製モノプッシャー・クロノグラフ機構の復活でもあった。同社は1873年に医師向け懐中時計用のクロノグラフを既に手掛けており、1928年にはモノプッシャーとパルソメータ目盛りを備えた腕時計クロノグラフ(N° 11059)を発表していた。Cal.3300はこの1928年作の構造的後継として位置づけられる。
2. 古典構造と現代加工技術
Cal.3300の設計思想は、クロノグラフ機構そのものの可視性を重視する古典派である。横方向クラッチと柱車という伝統的構成を採ることで、ローターやブリッジの下に機構を隠さず、すべての歯車・レバー・カムが地板上に展開される。垂直クラッチを採用する現代の量産系自動巻きクロノグラフとは、設計思想の系統が異なる。
その一方、製造には現代の精密加工技術が投入されている。歯車歯形の0.03mmクリアランス、起動時ジャークを抑える摩擦部材、巻き上げ用の円錐歯車などは、CAD設計と現代の工作機械なくしては実現困難な要素である。
3. Harmonyコレクションでの展開
Cal.3300の初搭載モデルは、2015年に発表された Harmony Chronograph Ref.5300S/000R-B055 である。創業260周年を記念し、世界260本に限定された18Kピンクゴールド・クッション型ケースのモデルで、青のアラビア数字と赤いパルソメータ目盛りが、1928年原型機の意匠を直接的に継承する。
翌2016年には、青を抑えたアンスラサイト基調の文字盤に改めた通常生産版 Ref.5300S/000R-B124 が登場し、コレクションの定常ラインに加わった。
4. 同世代キャリバーとの関係
Cal.3300は、260周年記念で同時開発された姉妹キャリバーと機構思想を共有する。Cal.3200は脱進機部にマルタ十字型トゥールビヨンを組み込んだ拡張版、Cal.3500は自社初のペリフェラル・ローター式自動巻きで、発表時点では世界最薄の自動巻きスプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフ機構と伝わる。同じ時代背景・同じ設計指針から派生したこれらのキャリバー群は、現代Vacheron Constantinの自社製クロノグラフの基盤を形成している。