MT5652-1U
Only Watch 2021の一点物のために、GMT機構をMETAS認定へ引き上げた自動巻
Cal. MT5652-1Uは、2021年のOnly Watchに供された一点物Black Bay GMT One (Ref. 7983/001U) に搭載されたTudor自社製の自動巻きキャリバーである。基幹機Cal. MT5652が備えるフライヤー式のGMT機構を引き継ぎつつ、COSC認定にとどまる基幹機に対してMETASによるマスタークロノメーター認定を追加で取得した。振動数28,800vph (4Hz)、26石、約70時間のパワーリザーブを持ち、シリコン製ヒゲゼンマイを備える。
| Maker | Tudor |
|---|---|
| Type | Automatic |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 26 石 |
| Power reserve | 70 h |
系譜と歴史
Only Watchという舞台
Only Watchは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの研究支援を目的に隔年で開かれる慈善オークションである。参加する各メゾンは一点物を提供し、落札額の全額が研究へ充てられる。既存モデルの色替えにとどめる例もあるが、通常のコレクションでは試みない仕様を持ち込む場ともなってきた。
2021年、TudorはBlack Bay GMT One を出品した。文字盤とベゼルの配色を専用に仕立てた一点物だが、変更は外装にとどまらない。搭載するムーブメントもまた、この一本のために用意された。
基幹機との差
Black Bay GMTの標準機はCal. MT5652である。現地時間の時針を1時間ずつ独立して動かせるフライヤー式のGMT機構を備え、COSC認定を受ける。
Cal. MT5652-1Uはこれを基礎としながら、METASによるマスタークロノメーター認定を追加で取得した。末尾のUはTudorがMETAS対応機に与える記号で、2021年のBlack Bay Ceramicに載ったCal. MT5602-Uに始まる系列に属する。GMT機構を持つキャリバーとしては初のMETAS対応であった。
一点物という位置づけ
Cal. MT5652-1Uを搭載した時計は、このOnly Watch 2021の一本のみである。量産機として展開されることはなかったが、GMT機構とMETAS認定を両立させる設計上の見通しを示す作例となった。
Only Watchに供された時計は、落札後は個人の手に渡る。Cal. MT5652-1Uを収めた一本も同様であり、公の場で目にする機会は限られる。それでもこのムーブメントが記録として残るのは、Tudorが自社製キャリバーをMETAS仕様へ広げていく過程の一点を示すためである。
Black Bay GMT One の落札額は、Only Watch 2021の総額の一部としてデュシェンヌ型筋ジストロフィーの研究へ充てられた。Tudorは同オークションへ複数回にわたり出品しており、その都度この一本のための仕様を用意してきた。
技術解説
構成と主要諸元
Cal. MT5652-1Uは自動巻きのGMTキャリバーである。振動数は28,800vph (4Hz)、石数は26、パワーリザーブは約70時間。時・分・秒と日付に加え、第2時間帯を示す24時針を駆動する。ハック機能と手巻きに対応する。
フライヤー式GMT
GMT機構はフライヤー式を採る。リューズ操作によって現地時間の時針だけが1時間ずつ跳び、分針と秒針、そして24時針は動かない。渡航先で時刻を合わせる際に秒を止めずに済むため、基準時を保ったまま現地時間へ移行できる。
24時針は回転ベゼルと組み合わせて用いる。ベゼルを回せば、24時針が指す時間帯を第3の地域へ読み替えることもできる。
METAS認定への対応
基幹機Cal. MT5652との違いは認定にある。COSCがムーブメント単体を試験するのに対し、METASのマスタークロノメーター認定はケーシングを終えた完成状態の時計を対象とし、15,000ガウスの磁界曝露を含む8項目を課す。日差の基準はゼロからプラス5秒である。
耐磁性の要はシリコン製のヒゲゼンマイにある。非磁性であるため強い磁界を受けても巻きが乱れない。調速機構は可変慣性テンプと両端固定の横断ブリッジというMT56系に共通の構成を採る。
型番が示す構造
末尾の1Uという記号は、基幹機Cal. MT5652に対する派生であることを示す。TudorはMETAS対応機にUを与えており、Cal. MT5602-U、Cal. MT5601-U、Cal. MT5450-Uが同じ系列に属する。数字の1は、この一点物のために用意された固有の仕様を指すものとみられる。
MT56というプラットフォームは、Cal. MT5602 (41mm・3針)、Cal. MT5601 (43mm・3針)、Cal. MT5612 (Pelagos用・日付付き)、Cal. MT5652 (GMT付き) という具合に、機能とケース径の組み合わせによって枝分かれする。Cal. MT5652-1Uはその末端に位置し、GMT機構とMETAS認定という二つの要件を同時に満たす唯一の例となった。
動力と持続
香箱は単一で、両方向巻き上げの中央ローターが動力を供給する。GMT機構は日付表示とともに輪列から分岐して駆動されるため、追加の香箱を要しない構成となっている。約70時間というパワーリザーブは基幹機と共通で、METASの試験ではこの公称値が実際に満たされるかも検証される。