03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
Only Watchという舞台
Only Watchは、時計ブランドが一点物を出品するチャリティー・オークションである。既存モデルの色替えにとどめる例もあるが、通常のコレクションでは試みない仕様を持ち込む場ともなってきた。SJXによれば、チューダーは2019年の同オークションに一点物のブラックベイ・セラミック・ワンを出品しており、これが2021年の通常生産のブラックベイ・セラミックの先駆けとなった。
2021年、チューダーはブラックベイGMTワンを出品した。SJXは、現行モデルを解釈し直すというチューダーらしい手法をとりながら、ケースとブレスレットに強い古色の仕上げを施した点で、きわめて異例の一本だと評している。裏蓋は透明で、搭載するムーブメントもまた、この一本のために仕立てられた。
基幹機との差
ブラックベイGMTの標準機はCal. MT5652である。SJXによれば、第2時間帯の機能はモジュールの追加ではなく地板に組み込まれており、現地時間を示す時針を1時間ずつ単独で動かせる、本来の意味でのGMTである。赤いGMT針は本国の時刻を示す。70時間のパワーリザーブ、非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイ、慣性を調整できるフリースプラングのテンプは、MT56系に共通の仕様である。
Cal. MT5652-1Uはこれを基礎としながら、METASのマスター・クロノメーター認定を受けた。外観の面では、受けとローターがブラックベイ・セラミックに載るMT5602-1Uと同じ意匠を持ち、そのうえでケースと同じように古びた風合いに仕上げられている。
その後のMETAS認定のGMT
チューダーはその後、METAS認定をほかのモデルへ広げていった。2024年のペラゴスFXD GMTに載るMT5652-Uは、COSCとMETASの二重の認定を受け、日差-0/+5秒と15,000ガウスの耐磁性を備える。古色の仕上げを施したMT5652-1Uは、こうした展開に先立つ一点物のための版といえる。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
構成と主要諸元
Cal. MT5652-1Uは自動巻きのGMTキャリバーである。振動数は28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは約70時間。時・分・秒と日付に加え、第2時間帯を示す24時間針を駆動する。
地板に組み込んだGMT
GMT機構は、基幹機MT5652と同じく、地板に組み込まれた一体型である。リューズを引いた最初の段で現地時間の時針だけを1時間ずつ動かせ、赤い24時間針は本国の時刻を示し続ける。SJXは、モジュール式のGMTでは針の役割が逆になって時刻合わせが面倒になりがちだと指摘し、この構成を本来の意味でのGMTと評している。渡航先で時刻を合わせる際も、分と秒を崩さずに現地の時刻へ切り替えられる。
24時間針は回転ベゼルと組み合わせて用いる。ベゼルを回せば、24時間針が指す時間帯を第3の地域へ読み替えることもでき、SJXは3つの時間帯を追えると書いている。ブラックベイGMTのベゼルは両方向に回り、48のクリックで刻まれる。
METAS認定への対応
基幹機MT5652との違いは認定にある。COSCがケースに収める前のムーブメントを検査するのに対し、METASのマスター・クロノメーター認定はケースに収めた時計全体を対象とし、15,000ガウスの磁界への耐性を求める。精度は6つの姿勢、2つの温度、2段階のパワーリザーブで確かめられる。
耐磁性の要はシリコン製のヒゲゼンマイにある。非磁性であるため強い磁界を受けても特性が乱れない。調速機構は慣性を調整できるフリースプラングのテンプという、MT56系に共通の構成を採る。
仕上げ
MT5652-1Uの受けとローターは、ブラックベイ・セラミックのMT5602-1Uと同じ意匠を持つ。SJXによれば、部品はまず黒く被膜され、その後バレル研磨にかけて使い込んだような風合いに仕上げられている。ケースとブレスレットの古色の仕上げと、機械の見た目をそろえた処理である。ケースは直径41mm、厚さ14.6mmで、裏蓋から機械を眺められる。
後のMT5652-Uとの比較
2024年のペラゴスFXD GMTに載るMT5652-Uは、同じくCOSCとMETASの二重の認定を受けた版で、Monochromeは日差-0/+5秒と15,000ガウスの耐磁性を伝えている。ただし同誌はそのパワーリザーブを65時間と記しており、70時間とする基幹機MT5652やMT5652-1Uの値とは食い違う。古色の仕上げはMT5652-1Uだけの特徴で、MT5652-Uのペラゴスはチタンのソリッドな裏蓋に機械を隠している。