03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 供給元ソプロードという存在
ソプロードは、1966年にスイス・トラムランで部品製造を始めたムーブメントメーカーである。複数の資本のもとを渡り歩いた末、2008年以降はフェスティナ・グループの一員となった。グループは香箱バネやヒゲゼンマイといった基幹部品まで内製できる体制を持ち、ソプロードはその機械式部門を担う。完成ムーブメントの供給先は、自社ブランドを持たない独立系メーカーが中心である。
P024は、このソプロードが外部ブランド向けに供給する自動巻きムーブメントの一つである。三針と日付という基本構成に徹し、量産に適した堅実な設計をまとう。型番は正しくは数字のゼロを用いた「P024」であり、英字のオーを混じえた表記は誤記とされる。
2. ETA 2824-2の代替という立ち位置
P024を理解する鍵は、ETA 2824-2との関係にある。2824-2は1970年代に登場して以来、スイス機械式時計の実用機を支えてきた基幹ムーブメントである。その寸法や文字盤の脚位置、巻き真の高さは、業界の事実上の標準として定着した。P024はこれらを踏襲し、2824-2用に設計されたケースや文字盤をそのまま受け入れる。
2010年代以降、ムーブメント大手によるグループ外への供給は段階的に絞られ、独立系ブランドは代替の確保を迫られた。この局面で、2824-2と互換するP024は、設計を一から起こすことなく既存の資産を流用できる選択肢となった。優劣ではなく、調達の自由度という観点から支持を集めた点に、その意義がある。
3. 自社開発ニュートンとの並走
ソプロードは2020年、3年の開発を経た自社設計のムーブメント「ニュートン P092」を発表した。6時位置にテンプを露出させる一体型のテンプ受けを備え、23石・約44時間とP024とは異なる素性を持つ。ニュートンが自社設計の旗艦であるのに対し、P024は2824-2の系譜に連なる実用機という位置づけで、両者は性格を分けて並走している。
採用の現場を見ると、ニヴァダ・グレンヘンはF77やスーパー・アンタークティックにP024を搭載し、ハンハルトはダイバーズのアクアスフィアに調整精度を高めたTOPグレードを選んだ。ジャック・ビアンキのJB200など、価格を抑えつつスイス製を打ち出す時計の内側で、P024は静かに時を刻んでいる。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
P024の機構は、ETA 2824-2の系譜に連なる自動巻きの基本構成に立脚する。ここではその構造を要素ごとに観察する。
寸法と基本仕様
直径は25.6mm (11½リーニュ)、厚さは4.6mm。毎時28,800振動 (4Hz) で駆動し、石数は25石、パワーリザーブは約38時間とされる。28,800振動とは、テンプ(往復回転して速度を司る調速車)が1秒間に8回振れる速さを指す。4Hzの高速振動は外乱に強く、秒針の滑らかな運針と日差の安定に寄与する。リーニュは時計業界の伝統的な寸法単位で、11½リーニュは約25.6mmにあたる。
脱進機とテンプ
調速を担うのは、スイスレバー式の脱進機である。脱進機とは、ゼンマイの力を一定の間隔で解き放ち、針の歩みを制御する機構を指す。テンプにはグルシデュール製の天輪が用いられ、温度変化による狂いや慣性のばらつきを抑える。耐衝撃機構にはアンクラブロックが組み込まれ、落下時の衝撃からテンプの軸である天真を守る。いずれもスイス機械式時計が長く磨いてきた、実績ある構成である。
自動巻きと香箱
ローターの回転を両方向で巻き上げ機構に伝え、効率よくゼンマイを巻き上げる。腕の動きが左右どちらに振れても香箱へエネルギーが蓄えられ、約38時間の持続時間を生む。香箱とはゼンマイを収める円筒部品で、その容量と巻き上げの効率がパワーリザーブの長さを決める。秒針規制(ハッキング)機構も備え、リューズを引くと秒針が静止し、秒単位の時刻合わせを可能にする。
仕様の派生とグレード
P024には、日付付きと日付なしの両仕様がある。日付機構は3時位置の窓に日車を覗かせる構成が一般的である。さらに、調整精度に応じたグレードが用意される。ハンハルトが採用したTOPグレードは、六姿勢での平均日差を0〜+8秒に追い込んだ仕様とされる。機構を露出させたスケルトン版P024SQも存在し、フェスティナやカンディノの透かし文字盤モデルに収められる。
精度と保守性の素地
P024の精度は、4Hzという振動数と、グルシデュール天輪・スイスレバー脱進機という枯れた組み合わせに支えられる。耐磁性については、シリコン部品のような特殊機構を持たず、標準的な2824-2系と同等の水準にとどまる。一方で、2824-2の構造は時計師に広く知られ、調整や部品交換の作法が共有されている。この設計上の馴染み深さは、長く付き合ううえでの実務的な強みとなる。
ニュートンとの構造的差異
同じソプロードの自社設計ニュートン P092が、6時位置にテンプを露出させる一体型のテンプ受けを採るのに対し、P024は2824-2系の伝統的なレイアウトを踏襲する。両者は同じメーカーの製品ながら、設計の出自と思想を異にする。どちらが優れるという話ではなく、対象とする価格帯と用途に応じた設計の選択である。