3230
2020年登場、クロナジー脱進機で70時間駆動を実現した、ロレックス基幹の3針自動巻
Cal. 3230は、2020年にロレックスが自社開発した自動巻キャリバーである。前世代Cal. 3130を全面刷新し、振動数28,800vph (4Hz)、31石、約70時間のパワーリザーブを備える3針専用ムーブメントとして登場した。特許取得済みのクロナジー脱進機と薄肉化された香箱の採用により、Cal. 3130比で約50%の駆動時間延長を達成。ブルーパラクロムヒゲゼンマイ、パラフレックス耐震装置、可動式テンプ受橋を備える。サブマリーナ ノンデイト Ref. 124060、オイスター パーペチュアル 36/41、現行エクスプローラー、エアキングなど、ロレックスの3針コアモデル群を支える基幹ムーブメントである。
| Maker | Rolex |
|---|---|
| Reference | 3230 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 31 石 |
| Power reserve | 70 h |
| Movement ⌀ | 28.5 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
系譜と歴史
1. Cal. 3130 からの世代交代
Cal. 3230 は、2001年から約20年にわたりロレックスの日付なし3針モデルを支えてきたCal. 3130の後継機として、2020年に発表された。先代のCal. 3130は、Cal. 3135からデイト機構を省いた構成で、サブマリーナ ノンデイト、エクスプローラー、エアキング、オイスター パーペチュアル等の中核ムーブメントとして長く採用された堅実な設計であった。
世代交代の起点となったのは、2015年発表のデイデイト用Cal. 3255である。同年、ロレックスは32XXシリーズと呼ばれる新世代基幹キャリバー群を投入し、構成部品の約90%を再設計したと公表した。Cal. 3255で導入された新機軸は、デイトジャスト用Cal. 3235 (2015年)、GMTマスター II 用Cal. 3285 (2018年)へと順次展開され、2020年のサブマリーナ世代交代に合わせ、3針版のCal. 3230、デイト版のCal. 3235仕様としてサブマリーナ系列にも届けられた。Cal. 3230は、Cal. 3235と同一プラットフォームから日付モジュールを除いた構成にあたる。
2. クロナジー脱進機という主軸
設計上の最大の柱は、ロレックスが2015年に特許を取得したクロナジー脱進機 (Chronergy escapement) の搭載である。これは伝統的なスイスレバー脱進機を再設計したもので、ガンギ車とパレットフォークの幾何形状を非対称化し、衝撃位相と引き込み位相の力配分を最適化することでエネルギー伝達効率を引き上げる機構とされる。ロレックス自身は、従来のスイスレバーに対し約15%の効率向上を主張している。
素材にも踏み込んだ変更が加わる。ガンギ車とパレットフォークはニッケル・リン合金 (nickel-phosphorus) によって成形され、磁界に対して中立的な特性が与えられた。また、ガンギ車には肉抜き加工が施され、回転慣性が抑制されている。クロナジー脱進機の開発には、ラファエル・セットゥール=バロン (Raphael Cettour-Baron) およびアレクサンドル・シューヴ (Alexandre Chiuve) の両名が関わったと報じられている。
3. 香箱の再設計と70時間化
Cal. 3130のパワーリザーブが約48時間であったのに対し、Cal. 3230は約70時間に延長された。約50%の延伸である。
この延長は、クロナジー脱進機の効率向上だけでは説明しきれない。並行してロレックスは香箱の構造そのものに手を入れ、香箱壁を薄肉化することで内部に収容するゼンマイの長さを稼ぐ設計を採った。香箱の機械加工精度と組み立て公差を引き上げ、薄肉化と耐久性の両立を図ったとされる。複数の解説で、パワーリザーブ延長への寄与は、香箱再設計と脱進機効率向上のおおむね二分されるとの記述が見られる。
4. 32XXファミリー内での位置づけ
Cal. 3230は、ロレックスの「32XXシリーズ」と総称される世代の中で、最も基本的な構成にあたる。同シリーズには、デイト付きのCal. 3235、デイデイト付きのCal. 3255、デュアルタイム機構を備えるGMTマスター II 用のCal. 3285などが連なる。脱進機、ヒゲゼンマイ、耐震装置、テンプ受橋、香箱といった主要要素はファミリー内で共通基盤として共有され、機能要件に応じてモジュールが追加される形を採る。プラットフォーム化を徹底することで、保守性と生産性、そして品質の均一化を同時に追求する設計思想と読み取れる。
技術解説
1. テンプとヒゲゼンマイ
Cal. 3230は28,800vph (4Hz)、すなわち1秒間に8振動の振動数で動作する。これは現代の量産機械式時計における事実上の標準値であり、姿勢変化に対する耐性と精度、保守性のバランスに優れた領域として広く採用される。
テンプは比較的大径のフリースプラング (free-sprung) バランスホイールで、外周には4つのゴールド製マイクロステラ (Microstella) ナットが配される。緩急針を用いず、このナットを回して慣性モーメントを微調整することで歩度を整える方式である。緩急針調整に比べ、姿勢差を抑え経時的な再調整を要しにくい利点がある。
ヒゲゼンマイにはロレックス独自のブルーパラクロム (Parachrom Bleu) が用いられる。ニオブ・ジルコニウム・酸素を組み合わせた常磁性合金で、磁界に対して中立であり、温度変化や衝撃にも強い特性を持つ。先端は終端カーブ (オーバーコイル) 構造で、姿勢差による等時性の崩れを抑制する設計とされる。
テンプは可動式テンプ受橋 (traversing balance bridge) で両端から保持される。片持ち梁に比べ衝撃時の変位を抑え、また高さ調整が可能な構造により、組立工程での姿勢差調整も精緻に行える。
2. クロナジー脱進機の機構
脱進機は、香箱から輪列を経て届く力をテンプへと断続的に伝える、機械式時計の心臓部である。Cal. 3230は、伝統的なスイスレバー脱進機を再設計したクロナジー脱進機を採用する。
スイスレバー方式では、衝撃伝達の局面でエネルギーの大半が摩擦と幾何損失で失われ、テンプに届くのは数十%にとどまるとされる。クロナジー脱進機は、ガンギ車の歯形を従来より幅広く、パレット石をやや小さくとり、両者の接触面と引き込み角を見直すことで、衝撃時の伝達効率を改善し、引き込み損失を抑える設計とされる。さらにガンギ車とパレットフォークをニッケル・リン合金で成形することで、磁界に対する中立性を確保した。両者にはスケルトン状の肉抜き加工が施され、慣性質量が抑えられている。
3. パラフレックス耐震装置と自動巻機構
テンプ軸の上下にはロレックス自社設計のパラフレックス (Paraflex) 耐震装置が組み込まれる。一般的な汎用耐震装置に比べ、衝撃時の変位許容を高めた特許機構で、ヒゲゼンマイ・天真の保護に寄与する。
自動巻機構には、ロレックスがオイスター パーペチュアルの源流から育ててきたボールベアリング支持のパーペチュアル ローターが用いられる。両方向巻き上げ式で、装着時の僅かな手首の動きでも効率的にゼンマイを巻き上げる。香箱の滑りバネ機構によりオーバーワインドは生じない仕組みである。
4. 香箱・輪列
香箱壁を従来比で薄肉化することで、より長尺のゼンマイを収容し、約70時間のパワーリザーブを実現する。先代Cal. 3130に対し約50%の延伸である。これは週末を挟んだ着脱に対し、月曜朝も正常に動作している程度の余裕を意味する。
輪列はクロナジー脱進機の効率と整合するよう、歯車形状と歯数比が見直された。保守性については、32XXシリーズ全体としてモジュール化が進められ、整備時の作業性に配慮されているとされる。
5. 認定基準と精度
Cal. 3230はスイス公式クロノメーター検査機関 (COSC) の認定を受けたうえで、ロレックス独自のスーパーラティブ クロノメーター (Superlative Chronometer) 認定にも合格する。前者はムーブメント単体での15日間・5姿勢・3温度での試験であり、後者はケーシング後の完成品状態で日差-2/+2秒以内を保証する社内認定で、COSC基準 (-4/+6秒) の倍以上の精度を求める内容である。耐磁性、耐衝撃性、防水性、パワーリザーブ全範囲での精度も検証対象に含まれる。