6654
1983年に復活したコンプリートカレンダーを現代へ継ぐ、ブランパン自社製のムーンフェイズ自動巻
ブランパンの自社製自動巻、Cal. 6654は、曜日・日付・月とムーンフェイズを備えるコンプリートカレンダーである。フレデリック・ピゲ由来の薄型キャリバー1151を土台に、カレンダーモジュールを重ねて構成される。スペックは28,800vph (4Hz)、28石、パワーリザーブ72時間。フリースプラングテンプとシリコン製ヒゲゼンマイを採る。核心は、ラグ裏に隠した特許のアンダーラグ・コレクターにある。工具を使わず指先で全カレンダー表示を補正でき、ケース側面の補正ボタンを排した。ヴィルレ・カンティエーム・コンプレやフィフティ ファゾムス バチスカーフに搭載される。
| Maker | Blancpain |
|---|---|
| Reference | 6654 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Jewels | 35 石 |
| Power reserve | 72 h |
| Movement ⌀ | 32 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date, Day, Month |
| Astronomical | Moonphase |
系譜と歴史
1. 1983年に始まる系譜
ブランパンのコンプリートカレンダーは、1983年に再興された同社の最初の複雑機構である。クォーツが市場を席巻するなか、ジャン-クロード・ビバーとジャック・ピゲは機械式時計の価値を再提示する道を選んだ。曜日・日付・月とムーンフェイズを一枚の文字盤にまとめたこの複雑時計は、後にヴィルレ・コレクションの基礎となる。Cal. 6654は、その伝統を現代の自動巻として担うムーブメントである。
土台となるのは、フレデリック・ピゲが1988年から手がけた薄型自動巻、1150系である。2つの香箱(ぜんまいを収める部品)を直列に連ねる構造により、薄さを保ちながら長い駆動時間を得た。1150に日付機構を加えた1151を基礎とし、Cal. 6654はそこへコンプリートカレンダーのモジュールを重ねて構成される。フレデリック・ピゲは2010年にマニュファクチュール・ブランパンへ統合され、以後この系譜は自社開発として磨かれてきた。
2. アンダーラグ・コレクターという回答
コンプリートカレンダーは、31日に満たない月の翌月初に手動補正を要する。従来はケース側面に埋め込んだ補正ボタンを、細い工具で押す方式が一般的であった。この補正ボタンがケースの線を乱す点に、ブランパンの時計師が着目したと伝わる。2004年頃に生まれた発想は、補正機構をラグの裏側へ移すという解にたどり着く。
このアンダーラグ・コレクターは2005年に特許化された。指先で押すだけで日付・曜日・月・ムーンフェイズを補正でき、ケース側面から補正ボタンが消える。あわせて、深夜の日付送り中に操作しても機構を傷めないセキュアード(安全)機構を備える。利便性と外装の純度を両立させたこの解は、以後ブランパンのカレンダー時計を象徴する特徴となった。
3. 派生と現行世代
Cal. 6654には複数の仕様が存在する。ヴィルレ系では6654.4、フィフティ ファゾムス バチスカーフ系では6654.Pと、搭載シリーズに応じてローターや仕上げが調整される。バチスカーフ版は18Kゴールドの中央ローターを備え、より簡潔な工業的仕上げをまとう。
近年の個体はシリコン製ヒゲゼンマイとフリースプラングテンプを採用し、耐磁性と温度安定性を高めている。2025年の改良では、基本機構を保ったままローターを肉抜きした金無垢仕様へ刷新した。発表から年月を重ねてなお基本設計が維持される点は、土台の完成度を物語る。後継キャリバーは2026年時点で発表されていない。
技術解説
Cal. 6654は、直径32mm、厚さ5.32mmのなかに321個の部品と28石を収める自動巻ムーブメントである。土台は、フレデリック・ピゲ由来の薄型キャリバー1150/1151系にある。
香箱とパワーリザーブ
特筆すべきは、2つの香箱を備える点である。香箱はぜんまいを収める部品で、これを直列に連ねることで、薄型を保ちながら長時間の駆動を得る。1150系単体では約100時間に達する設計だが、Cal. 6654ではコンプリートカレンダーのモジュールが駆動力の一部を消費する。結果として、実用上のパワーリザーブは72時間に設定されている。
テンプとヒゲゼンマイ
調速は28,800vph (4Hz) で行われる。これは1時間に28,800回、1秒あたり8回の振動を刻む速さで、テンプの往復に直せば毎秒4回にあたる。外乱に対する安定と日常的な精度のバランスを取った値である。テンプ(往復運動で時を刻む回転錘)は緩急針を持たないフリースプラング式で、テンプ自体の慣性モーメントを錘で微調整する。近年の個体はヒゲゼンマイにシリコンを用いる。シリコンは磁気の影響を受けず、温度変化や衝撃にも強いため、精度の長期安定に寄与する。
コンプリートカレンダーとムーンフェイズ
文字盤には、中央の指針で日付を示すポインターデイト、曜日と月を示す2つの窓、そして6時位置のムーンフェイズが配される。ムーンフェイズは、29.5日の朔望月(新月から次の新月までの周期)を59歯の歯車で再現する円盤式である。59歯式は誤差が1日に達するまで約2年半を要し、補正の頻度は少ない。
アンダーラグ・コレクターとセキュアード機構
カレンダーの補正は、ラグ裏の小さなタブを介して行う。タブはムーブメント内部のレバーを動かし、日付・曜日・月・ムーンフェイズをそれぞれ調整する。さらに、日付が自動で送られる深夜帯に操作しても機構が損傷しないセキュアード設計を採る。この時間帯はカレンダー各車が噛み合い、外部からの補正に最も弱い局面にあたる。これにより、任意の時刻での補正が許容される。
仕上げ
仕上げは、工業的な精度とオートオルロジュリーの装飾を併せ持つ。ヴィルレ系では金無垢ローターにギヨシェや肉抜き装飾を施し、ブリッジには面取りとストライプを加える。バチスカーフ系の6654.Pでは、ブリッジのサンバースト仕上げや地板のサーキュラーグレインなど、より簡潔な表情をまとう。