設計思想
1. グランド・アルカーデが生まれた2002年
1994年10月、A. Lange & Söhneは復活コレクションの一角としてアルカーデを発表した。ランゲ1、ザクソニア、トゥールビヨン・プール・ル・メリットと並ぶ4機種の一つで、29×22mmという小ぶりの長方形ケースは女性向けに位置づけられていた。同社の創業コレクションが意識した顧客層は明確に区分されており、アルカーデは「腕時計の装飾性ではなく機械的な内実」を女性に提示する役割を担った。
2000年代に入ると、男性用腕時計市場ではケースの大径化が加速していた。それまでLangeのカタログで最大のケース径を持つのはDatographの39mmだったが、流行は40mmを超え始める。同社はこの市場潮流に応じて、既存ラインの拡大版を順次投入することとなった。グランド・アルカーデが2002年に登場したのは、その第一弾としての位置づけにある。続く2003年にはグランド・ランゲ1も発表され、Lange自身のラインアップ拡大期の端緒を成した。
2. アルカーデから何が変わり、何が変わらなかったか
グランド・アルカーデのケース寸法は38×29mmで、元祖アルカーデから縦に9mm、横に7mm拡大されている。一方で、3段構造のケース構成、ドレスデン城のアーケードに着想を得たと伝わる側面のアーチ形状、ラグの繊細な面取りといった意匠言語は受け継がれた。
ムーブメントはアルカーデと共有する手巻きのCal. L911.4がそのまま転用された。25.6×17.6mmの長方形ムーブメントを大型ケースに収めることになり、文字盤側ではビッグデイトとスモールセコンドの間に余白が生まれる。これを埋めるため、5〜7時と11〜1時の位置にローマ数字が追加された。元祖アルカーデでは控えめだった文字盤の意匠が、グランド・アルカーデではやや饒舌になった格好である。
3. 106.027というRefの位置
Ref. 106.027はグランド・アルカーデの中でも18Kホワイトゴールドのケースを採用し、青の銀無垢文字盤と組み合わせた仕様にあたる。シャンパンダイヤル基調のイエローゴールド版や、銀ダイヤルのプラチナ・ピンクゴールド版に対し、彩度のある青を採用した本Refは、コレクション内でも視覚的に異なる立ち位置を占める。生産数はピンクゴールド・イエローゴールド系の派生に比べて少なかったと伝わる。
2005年、Arkade/Grand Arkadeコレクション全体が生産を終えた。女性市場におけるLangeのプレゼンスの相対的な弱さと、小規模生産による単価上昇が背景として指摘されている。Ref. 106.027の製造期間は2002年から2005年までの3年余りに留まる。Lange自身の異形状ケースの系譜は、1997年に発表されていたカバレ(Cabaret)へと集約され、Arkade終了後はカバレが唯一の非円形ラインとして残った。
意匠分析
グランド・アルカーデのケース構成は、アルカーデから引き継いだ3段重ねの構造を踏襲する。最も厚いケースバンド、その下に細いケースバック・リング、頂部のベゼルという3層が、側面から見たときの「ビスケットを重ねた」ような陰影を生む。ラグは細く、表面はポリッシュ仕上げ。両端は丁寧に面取りされ、ケースの直線的な印象を和らげている。
ケース寸法は38×29mm、厚さ9mm。ドレスデン城の中庭を囲む列柱回廊から着想を得たと伝わる両側面のアーチ形状は、寸法を拡大しながら維持された。Ref. 106.027の素材は18Kホワイトゴールド。青の銀無垢文字盤と組み合わさることで、グランド・アルカーデの中では特に冷色寄りの印象を持つ一本となっている。
文字盤側の特徴は、ローマ数字の追加にある。元祖アルカーデでは2時・3時・9時・10時の位置にのみインデックスが置かれ、12時のビッグデイトと6時のスモールセコンドの間に大きな余白を残していた。グランド・アルカーデではこの余白に5〜7時と11〜1時のローマ数字が加えられている。針とアプライドインデックスはロディウムメッキを施した金製で、青文字盤に対するコントラストを高めている。
ムーブメントはCal. L911.4。手巻きで25.6×17.6mm、厚さ4.6mm、30石、毎時21,600振動 (3Hz)、パワーリザーブ42時間。長方形の小型ムーブメントながら、ビッグデイトとスモールセコンドを駆動する。仕上げはLangeの定型に従い、ニッケルシルバー製の3/4プレート、ブルースクリュー、ゴールドのシャトン、スワンネック緩急針、手彫りのテンプ受けが揃う。サファイアクリスタル製の透視ケースバックを通して、これらの仕上げを背面から観察できる。
系譜と歴史
2002年、A. Lange & Söhneはグランド・アルカーデ・コレクションを発表した。1994年に登場した元祖アルカーデの拡大版として位置づけられ、ケースサイズは38×29mmへと改められた。Ref. 106.027はその一員として、18Kホワイトゴールドのケースに青の銀無垢文字盤を組み合わせる仕様で同年に登場した。
同世代の派生としては、イエローゴールド/シルバー文字盤のRef. 106.021、プラチナ/シルバー文字盤のRef. 106.025、ピンクゴールド/シルバー文字盤のRef. 106.032が存在する。さらにダイヤモンドベゼルやバゲットダイヤを備えた812番台(812.021、812.029、812.030等)も同時期に展開された。これらの中で青文字盤を採用したのは106.027と812.029・812.030のみであり、Ref. 106.027はホワイトゴールド×青ダイヤル×プレーンベゼルという組み合わせを単独で担う仕様にあたる。
ムーブメントには1994年から運用されていた手巻きCal. L911.4が継続採用された。グランド・アルカーデとアルカーデが共有したこのキャリバーは、両コレクションの基幹ムーブメントとして稼動した。
2005年、A. Lange & SöhneはArkade/Grand Arkadeコレクションの生産を終了する。同社の女性向け市場におけるプレゼンスが相対的に弱かったこと、また小規模生産による単価上昇が要因として伝わる。Ref. 106.027の製造期間は2002年から2005年までで、青文字盤・プレーンベゼル仕様としてはコレクション内でも比較的稀少な存在として残っている。同年以降、Langeにおける非円形ケースの系譜は、1997年に発表されていたカバレ(Cabaret)コレクションに集約され、Arkade終了後はカバレが唯一の非円形ラインとして残った。