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VACHERON CONSTANTIN · SERIES

Harmony

ハーモニー

1928年のクッション型単一押ボタンクロノグラフから着想を得た、創業260周年記念の自社製ムーブメント群

40 mm – 42 mm
01 — 概要 / SUMMARY

ヴァシュロン・コンスタンタンが2015年、創業260周年を機に発表したコレクションである。同社のアーカイブに残る1928年製のクッション型単一押ボタンクロノグラフを起点とし、湾曲したケースバンドと正方形のベゼル、円形の風防が出会う形を共通の意匠言語とする。発表当初の七本は限定品として登場し、翌2016年に通常コレクションへと拡張された。Chronograph、Tourbillon、Dual Time、Complete Calendarなどを擁し、いずれも自社製キャリバーを搭載、全モデルがジュネーブ・シールの認定を受ける作品群である。

02 — STORY · 物語

Harmony(ハーモニー)、これまでの軌跡

The story of this series
01

260周年という節目

2015年、ヴァシュロン・コンスタンタンは創業260周年を迎えた。1755年にジャン・マルク・ヴァシュロンがジュネーブで時計工房を開いて以来、休止することなく時計製造を続けてきた最古のマニュファクチュールにとって、節目の一年であった。

この記念年に向けて、同社は二つの構想を並行して進めている。ひとつは57の複雑機構をひとつのプラチナ製懐中時計に収めた特別注文の一品物、Reference 57260。もうひとつが、新シリーズHarmonyの発表である。前者が究極の一本であるとすれば、後者は7年の開発期間を経て完成した自社製クロノグラフ・キャリバー群を世に問う、コレクションとしての宣言であったといえる。

02

1928年の一本から

Harmonyの意匠的な起点は、ブランドのアーカイブに収められたN° 11059という一本のクッション型単一押ボタンクロノグラフである。1928年に製作されたこの作品は、医師の脈拍計測を目的としたパルスメータースケールを文字盤外周に持ち、湾曲したケースバンドと正方形に近いベゼル、円形の風防という三つの異なる幾何を組み合わせていた。

当時は懐中時計から腕時計への移行期にあたり、腕に載せるべきケース形状そのものが模索されていた時代である。クッション型は、伝統的な丸型と新興の角型の中間に立つ形として、1920年代から30年代にかけて広く愛された。N° 11059が備える二眼レイアウト、青いアラビア数字、ポワール(洋梨)型の針、赤いパルスメーター指標——これらの要素は、87年の時を経て新しいコレクションの設計言語へと引き継がれることになる。

03

七本のモデル、限定の祝祭

2015年1月のSIHHで発表されたHarmonyの初期ラインナップは、七本の限定モデルからなる。中核には、自社が新規開発した三つのクロノグラフ・キャリバー——Cal. 3500、Cal. 3200、Cal. 3300——が据えられた。

最上位は、Ref. 5400S/000P-B057「Ultra-Thin Grande Complication Chronograph」である。950プラチナのケースに、自動巻スプリットセコンド単一押ボタンクロノグラフCal. 3500を収めた一本。ムーブメント厚はわずか5.20mm、ケース総厚も8.4mmに抑えられ、自動巻スプリットセコンドクロノグラフとしての薄型化を追求した。生産数は10本である。

Ref. 5100S/000P-B056「Tourbillon Chronograph」は、手巻Cal. 3200を搭載した26本限定。マルタ十字をかたどったトゥールビヨンキャリッジが文字盤上で見える構成を採る。Ref. 5300S/000R-B055「Chronograph」は、1928年の原型にもっとも近い解釈で、手巻Cal. 3300にパルスメータースケールを組み合わせ、260本限定で発表された。

これに、自動巻Cal. 2460 DTを搭載するDual Time、女性向けの37mmケースを持つChronograph Small Model(Cal. 1142搭載)などが加わる。各モデルはジュネーブ・シールの認定を受け、ムーブメントには260周年を記念した「フルリザンヌ彫り」と呼ばれる装飾が手作業で施された。

04

通常コレクションへの拡張

2016年10月、Harmonyは限定の祝祭から、通常コレクションへと姿を変える。同社は10の新リファレンスを一斉に発表し、シリーズの恒常化を告げた。

拡張版で最も注目されたのは、Ref. 4000S/000R-B123「Complete Calendar」である。新開発のCal. 2460 QCを搭載し、日付・曜日・月・ムーンフェイズを表示するこの一本は、同社が長らく永久カレンダーに比して手掛けていなかったフル・カレンダーというジャンルへの回帰でもあった。

全体としては、文字盤の機能針が青からアンスラサイト(濃灰)に変更され、外周に分目盛が追加されるなど、より静謐なトーンへの調整が施されている。限定モデル特有の祝祭感を抑え、長く着けられる時計として再構成された世代と位置づけられる。

05

静かなる現在地

2020年代に入ると、Harmonyの存在感は、Overseas、Patrimony、Traditionnelle、Historiquesといった同社の主要コレクションの陰に隠れる形となった。新作の発表はまばらとなり、公式サイトのコレクション一覧でも後方に置かれる位置となっている。

ただし、このシリーズのために開発された自社製キャリバー群は、別の場所で命脈を保っている。Cal. 3200はTraditionnelle Tourbillon Chronographへ、Cal. 1142はHistoriques Cornes de Vache 1955へと展開され、Harmonyという枠を離れて活躍を続けている。

派手な打ち上げを伴わずに役割を終えつつあるという意味で、Harmonyは「忘れられた英雄」と呼ばれることもある。しかしその技術的内実と意匠の純度を踏まえれば、時計史の文脈でいずれ再評価される可能性を残した一群であると伝わる。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Harmonyを貫く設計言語は、その名のとおり「異なる形の調和」にある。湾曲したケースバンド、ほぼ正方形に近いベゼル、そして円形の風防——三つの幾何が一個の腕時計のうえで重なり合うことで、見る角度ごとに表情を変えるケース造形が生まれる。これは丸型でも角型でもない、20世紀初頭にクッション型と呼ばれた形態の現代的解釈である。

このコレクションが特徴的なのは、過去の意匠をそのまま再現するのではなく、寸法・面取り・反射の研究を踏まえて再構築した点にある。42mm×52mmという縦長プロポーションは、1928年の原型がもつ手のひらの中での存在感を、腕の上でも再現するための選択である。総厚を抑えつつ立体感を保つというこの矛盾は、ベゼルとケースバンドの境界線を曲面で丁寧に結ぶことで解消された。

意匠の細部もまた、1920年代の表現を色濃く受け継いでいる。青いアラビア数字、ポワール型(洋梨型)の時分針、外周のパルスメータースケール、二眼レイアウトの控えめな対称性——これらはすべて、医療従事者向けに作られたN° 11059が備えていた要素である。Harmonyはそれらを単なる装飾としてではなく、視認性を支える機能として再構成した。

機構面では、複雑機構を備えるクロノグラフのほとんどが単一押ボタン(モノプッシャー)方式を採る。クロノグラフの操作系をリューズと同軸の一つのボタンに集約するこの方式は、20世紀初頭のドクターズ・クロノグラフが採用していた古典的な構成であり、純度の高い設計を志向するコレクターから支持されてきた。同時代の量産的なダブルプッシャー型と一線を画す選択であり、シリーズの性格を規定する意思決定と言える。

最後に、Harmonyに属する全モデルがジュネーブ・シール(Poinçon de Genève)の認定を受けている点も特筆に値する。ケース外装の完成度のみならず、ムーブメントの仕上げ基準まで含めた品質保証の枠組みであり、260周年という節目に同社が自らに課した規律を物語る。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2015
Cal. 3500
自動巻スプリットセコンド単一押クロノ、ペリフェラルローター。
2015
Cal. 3200
手巻モノプッシュ・トゥールビヨンクロノ、65時間駆動。
2015
Cal. 3300
手巻単一押ボタンクロノグラフ、開発期間7年の自社製機構。
2015
Cal. 2460 DT
自動巻デュアルタイム、昼夜表示付き。
2016
Cal. 2460 QC
自動巻フル・カレンダー、ムーンフェイズ搭載。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2015

ウルトラシン旗艦

5400S 000P-B057
ケース総厚8.4mmの自動巻スプリットセコンド単一押クロノ、10本限定。
2015

トゥールビヨン搭載機

5100S 000P-B056
手巻Cal. 3200搭載、マルタ十字型のトゥールビヨン、26本限定。
2015

脈拍計クロノグラフ

5300S 000R-B055
1928年の原型を踏襲したパルスメータースケール仕様、260本限定。
2015

デュアルタイム

7810S 000G-B050
Cal. 2460 DT搭載、第二時間帯と昼夜表示を備える複雑時計。
2016

コンプリート・カレンダー

4000S 000R-B123
新Cal. 2460 QC搭載、通常コレクション化を象徴する一本。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive