設計思想
1. 語られなかった青
2025年4月、ロレックスはWatches and Wonders Geneva 2025でオイスターパーペチュアルの新色を発表した。公式リリースが前面に出したのは、ラベンダー、ベージュ、ピスタチオというマットなパステル3色である。41mmで紹介されたのはピスタチオだけだった。
同じ時期、ブラックとブルーという定番色も静かに作り替えられていた。本機134300-0009は、そのブルーを41mmケースに組み合わせた仕様である。広告の主役ではなく、カタログの一行として現れた。だが、この青の更新には、コレクションの方向転換がよく表れている。
2. サンレイからラッカーへ
前任Ref. 124300にも青い文字盤は存在した。124300-0003のブライトブルーである。こちらは中心から放射状の筋を刻むサンレイ仕上げで、腕の角度に応じて光の帯が動いた。
本機ではその手法が改められた。真鍮の地板に6層のラッカーを重ねる工程へ移り、色名も「メッドブルー」となった。同じ青系統でも、光の反射で見せる色から、塗膜そのもので見せる色へと性格が変わっている。
一方で、ケースの基本寸法や防水性能、ムーブメントといった骨格は前任から引き継がれた。変化は外装の細部と文字盤の作り方に集中している。
3. Ref. 134300のなかでの位置
発表時のRef. 134300で、サンレイ仕上げを残したのはシルバーだけだった。針とインデックスにゴールドを用いた仕様である。ほかの5色は、いずれもラッカーで仕上げられている。前任では鮮やかな色に限られていたラッカーが、この世代で標準の仕上げになった。本機はその新しい秩序の側に属する。
青のラッカー文字盤は、28mmから41mmまで全サイズに同時に用意されたと報じられている。ただし、リファレンスそのものが改められたのは41mmだけである。小径モデルが文字盤の変更にとどまったのに対し、41mmはケースとクラスプにも手が入った。見直された外装とこの青の組み合わせは、41mmの本機にしか存在しない。
2020年の鮮烈な色彩から、2025年のパステルへ。その振れ幅のなかで、青と黒は抑えた選択肢を担っている。本機は、色を楽しみつつ主張を控えたいという需要への、ロレックスなりの回答と読める。
4. 兄弟機と後続
最も近い兄弟機は、ブラック文字盤の134300-0008である。同じ時期に、同じくサンレイからラッカーへ移った。本機と対をなす存在である。対照的に、シルバーの134300-0001はサンレイの系譜をひとりで引き継ぐ。
のちにRef. 134300には、ジュビリーモチーフを多色のラッカーで描いた134300-0010が加わった。同じ41mmのオイスタースチールケースに、イエローゴールドのベゼルとリューズを組み合わせたRef. 134303も生まれている。ラッカーの技法は単色から多色へ、素材はスチールからロレゾールへと広がった。そのなかで本機は、単色ラッカーの基本形として位置づけられる。
意匠分析
本機の個性は、ほぼすべて文字盤に宿る。ロレックスの説明によれば、ベースとなる真鍮プレートに6層のラッカーを塗り重ね、均一な面をつくる。最後にニスを施して磨き、色の深みを引き出す。そのうえで文字をパッドプリントし、アワーマーカーと王冠を手作業で固定する。
前任124300-0003のサンレイ仕上げは、放射状の筋が光を拾い、角度によって明暗が大きく揺れた。塗膜で色を出す本機では、その揺らぎが小さい。文字盤全体が一枚の青い面として見え、色そのものの印象が前に出る。
光沢の度合いには評価の幅がある。パステル3色と同じマット仕上げとする専門誌がある一方、それより艶を残すとする実見報告もある。どちらも、サンレイ特有の放射状の反射が消えた点では一致している。
英語表記は「Med blue」、日本語の公式名は「メッドブルー」である。専門誌や販売店の多くは、これをミディアムブルーと読み替えて紹介する。紺ほど沈まず、鮮やかな青ほど跳ねない中間の色調を指す名と受け取れる。
インデックスと針は18Kホワイトゴールド製で、クロマライト(青く長時間発光する夜光塗料)が充填される。磨かれた金の縁は、平滑なラッカー面の上でくっきりと輪郭を立てる。
ケースはオイスタースチール製で、直径41mmとラグ幅21mmはRef. 124300と共通だ。ただし細部は異なる。ラグはわずかに細くなり、先端の角度が鋭く整えられた。ツインロック式リューズは径が大きくなり、新旧を並べたときに最も目立つ違いとなっている。ベゼルもわずかに細く見えるとの指摘がある。6時位置の「Superlative Chronometer Officially Certified」も、やや上へ移ったと報じられている。
ブレスレットは3列リンクのオイスターである。イージーリンク(約5mm延長できる調整機構)付きのオイスタークラスプは、Ref. 124300より薄くなった。ムーブメントは自社製Cal.3230をそのまま引き継ぐ。ロレックスが特許を持つクロナジー・エスケープメント(エネルギー効率を高めた脱進機)を備える、日付表示のない基幹キャリバーである。機械は据え置かれ、手が入ったのは目に触れ、指で触れる部分だった。
系譜と歴史
2025年4月1日、ロレックスはWatches and Wonders Geneva 2025の初日に新作群を公開した。オイスターパーペチュアル41はこのとき、リファレンスをRef. 124300からRef. 134300へ改めた。本機134300-0009も、その一員として公式カタログに加わっている。発表時のRef. 134300は、シルバー、ブラック、グリーン、ピスタチオ、ベージュ、メッドブルーの6種で構成されたと伝わる。前任のブルーであった124300-0003は、この年でカタログから外れている。
ロレックスは新リファレンスの存在を大きく打ち出さず、ケースの改良は補足的な扱いにとどまった。4月下旬には専門誌が新旧を並べて比較し、リューズやラグ、クラスプの違いを報じている。
2026年4月のWatches and Wonders Geneva 2026では、オイスターケース誕生100年を機にコレクションが拡充された。Ref. 134300にはジュビリーモチーフの多色ラッカー文字盤を持つ134300-0010が加わった。イエローロレゾール仕様のRef. 134303も登場している。同年、ロレックスはSuperlative Chronometer認定に耐磁性、信頼性、持続可能性の3基準を加えた。この強化は、以後に製造される全製品に適用される。
本機自体の公式仕様に、発表以降の目立った変更は確認できない。2026年9月時点でも公式サイトへの掲載が続く現行モデルである。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Rolex
- 02 専門メディア Rolex Movements Explained