磁場という見えない敵
1950年代、産業と科学の現場には強い磁場が増えていた。発電機、医療機器、そして粒子加速器。こうした環境では、磁気を帯びた金属部品を持つ機械式時計が狂いやすかった。当時の一般的な時計は、50ガウス程度の磁場で精度を乱したとされる。これは冷蔵庫の磁石が放つ磁力に近い。
ロレックスは、専門職のための工具時計づくりに乗り出していた。潜水のためのサブマリーナー、複数時間帯のためのGMTマスター。その流れの中で、磁場に抗う時計として構想されたのがミルガウスである。名称は、フランス語で1,000を意味する mille と、磁束密度の単位 gauss を組み合わせた。1,000ガウスの磁場に耐えるという目標を、そのまま名に掲げた。
スイスの欧州原子核研究機構 (CERN) との関わりも語られる。CERNの研究者がロレックスに耐磁時計を求めたと伝わるが、確証のある記録は乏しい。ただしロレックス自身は、ミルガウスが1,000ガウスに耐えることを最初に確認したのはCERNであると述べている。