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ROLEX · SERIES

Milgauss

ミルガウス

磁場に乱されぬ精度を科学者へ。ファラデーケージと稲妻の秒針が象徴する、異色の防磁時計。

01 — 概要 / SUMMARY

ミルガウス (Milgauss) は、1950年代半ばにロレックスが発表した防磁時計のシリーズである。強い磁場の下で働く科学者や技術者のため、ムーブメントを軟鉄製のファラデーケージで覆い、1,000ガウスの磁場に耐える構造を備えた。名称は1,000を意味する mille と、磁束密度の単位 gauss を組み合わせたもの。稲妻形の秒針で知られる初期のRef. 6541、約30年生産されたRef. 1019、そして2007年に復活した緑のサファイアクリスタルを持つRef. 116400GV へと連なる。実用の工具でありながら、ロレックスの中でも異色の存在として位置づけられてきた系譜である。

02 — STORY · 物語

Milgauss(ミルガウス)、これまでの軌跡

The story of this series
01

磁場という見えない敵

1950年代、産業と科学の現場には強い磁場が増えていた。発電機、医療機器、そして粒子加速器。こうした環境では、磁気を帯びた金属部品を持つ機械式時計が狂いやすかった。当時の一般的な時計は、50ガウス程度の磁場で精度を乱したとされる。これは冷蔵庫の磁石が放つ磁力に近い。

ロレックスは、専門職のための工具時計づくりに乗り出していた。潜水のためのサブマリーナー、複数時間帯のためのGMTマスター。その流れの中で、磁場に抗う時計として構想されたのがミルガウスである。名称は、フランス語で1,000を意味する mille と、磁束密度の単位 gauss を組み合わせた。1,000ガウスの磁場に耐えるという目標を、そのまま名に掲げた。

スイスの欧州原子核研究機構 (CERN) との関わりも語られる。CERNの研究者がロレックスに耐磁時計を求めたと伝わるが、確証のある記録は乏しい。ただしロレックス自身は、ミルガウスが1,000ガウスに耐えることを最初に確認したのはCERNであると述べている。

02

Ref. 6543 と 6541 — 防磁の原型

最初のミルガウスは、1954年ごろに現れたRef. 6543とされる。生産数は極端に少なく、試作的な性格が強い。38mmのオイスターケースに、ハニカム模様の黒文字盤。ムーブメントはCal. 1080。厚いケースバックと軟鉄のバンドで磁気を逃がす構造だった。ラグ幅は約19.7mmと標準より狭く、オイスターブレスレットは装着できなかった。

1956年、Ref. 6541が登場する。これが事実上の量産初号機とされる。ムーブメント全体を軟鉄の容器で包む、本格的なファラデーケージを採用した。回転ベゼルには6分割の目盛りが刻まれ、秒針は稲妻の形をとった。この稲妻針こそ、後年までミルガウスを象徴する意匠となる。両者とも生産数は少なく、商業的には苦戦した。ロレックスは販促のため、NASCARやデイトナの勝者に時計を贈ったと伝わる。

03

Ref. 1019 — 静かな第二世代

1960年、シリーズは大きく姿を変える。Ref. 1019は、稲妻針も回転ベゼルも手放した。平らな鏡面ベゼル、棒状のインデックス、矢羽根を付した直線的な秒針。文字盤はシルバーまたは黒で、ハニカム模様もなくなった。実用に徹した、抑制の効いた表情である。

ムーブメントはこのRef専用のCal. 1580。毎時19,800振動、約48時間のパワーリザーブを備えた。ケース径は38mmのまま、防水性能は50mとされた。1019はおよそ30年にわたり生産され、ロレックスの中でも特に長寿のRefとなった。CERNは研究者向けに特別な文字盤の1019を発注したとも伝わる。

しかしミルガウスは、最後まで主役にはなれなかった。サブマリーナーやデイトジャストの陰で販売は伸びず、1988年に生産を終える。ここでシリーズは一度、歴史の表舞台から姿を消した。

04

18年の沈黙と2007年の復活

ミルガウスが再び現れたのは2007年。初代から数えて半世紀、生産終了から18年を経ていた。新たなRef. 116400は、現代の工具時計として全面的に作り直された。ケース径は40mmに拡大し、防水性能は100m防水となった。心臓部には自社製のCal. 3131を据えた。

このキャリバーは、防磁の発想そのものを更新していた。青いパラクロム・ひげぜんまいは、ニオブとジルコニウムの合金で磁気の影響を受けにくい。脱進機の一部にも非磁性の素材を用いた。それでもなお、軟鉄のシールドでムーブメントを包む二重の備えを残した。毎時28,800振動 (4Hz) で時を刻む。稲妻の秒針も、今度はオレンジ色で復活した。

とりわけ注目を集めたのが、Ref. 116400GVである。GVはフランス語の Glace Verte、すなわち緑のガラスを指す。緑がかったサファイアクリスタルは、ロレックスの量産モデルでは他に例がない。地味になりがちな防磁時計に、明確な個性を与えた。

05

異色のまま終えた現代

2014年、Ref. 116400GVに新色が加わる。電気的な青の文字盤を持つ、通称「Zブルー」。緑のクリスタル、オレンジの差し色、そして青の文字盤。ロレックスの定番からは遠い、賑やかな配色だった。

そして2023年、ロレックスは再びミルガウスの生産を終える。後継の発表はない。実用の道具として生まれ、商業的には常に脇役でありながら、最後まで他のどのロレックスにも似ていなかった。磁場という見えない敵に向き合うために生まれたこのシリーズは、その出自のままに役目を終えた。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ミルガウスの設計を貫くのは、見えない機能である。最も大切にされたのは、磁場の中でも時を狂わせないこと。その思想は、文字盤やベゼルの意匠よりも、ムーブメントを守る構造に表れている。

中核は、軟鉄製のファラデーケージ。磁力線をケースの外殻へ逃がし、内部の機械に届かせない。初期のハニカム模様の文字盤も、装飾である前に磁気を分散させる遮蔽の役を担ったとされる。形が機能から導かれた、明快な設計である。

一方でミルガウスは、サブマリーナーのような意匠の一貫性を持たない。Ref. 6541の稲妻針と回転ベゼル、Ref. 1019の平ベゼルと直針、Ref. 116400の40mmケースと緑クリスタル。世代ごとに表情は大きく変わった。70年を通じて見た目を保ったのではなく、「磁場に抗う」という目的だけを変えずに受け継いだシリーズである。

その中で、わずかに揺らがぬ記号が稲妻の秒針だった。電気と磁気を想起させるこの針は、Ref. 1019でいったん姿を消し、現代のRef. 116400で色を変えて戻った。機能を主役に据えるミルガウスにとって、数少ない遊びの余地でもある。

視認性もまた、工具時計としての要請であった。広い夜光、太い針、判読しやすい指標。実験室や工場で一瞬の確認に応える表示が求められた。一方で、防磁のための軟鉄シールドはケースを厚くしがちで、寸法の抑制とは常にせめぎ合った。試作的なRef. 6543から量産のRef. 6541への移行も、内部ケージ方式の採用でケースバックを薄く収める狙いがあったとされる。機能を満たしつつ姿を整える、その均衡の上にミルガウスは立っている。

同時代には、同じく防磁を掲げた時計があった。IWCのインヂュニア、オメガのレイルマスター。いずれも軟鉄の内甲でムーブメントを守り、技術者や科学者を顧客に見据えていた。その中でミルガウスは、稲妻針と、後年の緑クリスタルという視覚的な符牒によって輪郭を得た。派手にしないというロレックスの作法を、機能の名のもとに一点だけ破った設計といえる。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1954-1960
Cal. 1080
初期2世代に共通。軟鉄シールドで保護。
1960-1988
Cal. 1580
Ref. 1019専用。毎時19,800振動の自動巻。
2007-2023
Cal. 3131
自社製防磁機。青パラクロムひげぜんまい採用。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1954-1957

防磁ケースの試作世代

6543
厚いケースバックと軟鉄バンドで防磁。Cal. 1080、38mm。
1956-1960

稲妻針を得た量産初号機

6541
ムーブメントを軟鉄容器で覆う本格防磁。意匠が定着した。
1960-1988

平ベゼルへ転じた第二世代

1019
稲妻針を手放し直針へ。Cal. 1580で約30年の長寿。
2007-2023

18年を経た現代の復活

116400 116400GV
40mm・Cal. 3131で再起。緑クリスタルと稲妻針が再登場。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 専門メディア Rolex Caliber 3131 Watch Movement 専門メディア · Caliber Corner · 2026.08.15 閲覧 Caliber Corner · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア List of Rolex Calibers 専門メディア · Millenary Watches · 2026.08.15 閲覧 Millenary Watches · 2026.08.15
  3. 03 ブログ Rolex Milgauss ブログ · Wikipedia · 2026.08.15 閲覧 Wikipedia · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

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