設計思想
1. ムーブメント刷新の年に
2000年前後のロレックスは、基幹キャリバーの世代交代を相次いで進めていた。2000年にはデイトナが自社製Cal.4130を得て116520となった。ノンデイトの3針機でも、Cal.3000からCal.3130への移行が始まっている。114270は、この流れの中で2001年にエクスプローラーへ与えられたRefである。
同じCal.3130を得たノンデイトのサブマリーナは、Ref. 14060の末尾にMを加えた14060Mとして扱われた。これに対しエクスプローラーは、6桁の新しいRef番号を受け取っている。外観をほとんど変えずに番号を改めた点からは、機械の更新を世代の区切りとみなす扱いが読み取れる。
2. 外見は14270、内側は次世代
14270の後期型は、すでに夜光にスーパールミノヴァを採用し、6時位置の表記も「SWISS MADE」に改めていた。114270はこの文字盤をほぼそのまま受け継いでおり、並べても外から両者を見分けるのは難しい。変化はケースの内側と、ブレスレットの付け根に集中している。
1989年の14270は、サファイアクリスタルと光沢文字盤によって1016を近代化したRefだった。114270はその姿を固定したまま、機械と外装の信頼性だけを積み増した。改良を目立たせない更新は、道具としての連続性を重んじるこのシリーズらしい選択といえる。
3. 36mmの系譜の終点
114270は、1016から続いた36mmエクスプローラーの系譜で、ひとまず最後に位置するRefとなった。後継の214270は、シリーズで初めて36mmを超える39mmケースを採用したからである。
その214270の初期型は、114270の針をほぼそのまま流用したとされる。39mmの文字盤では分針が外周の目盛りに届かず、3・6・9の数字にも夜光が入らなかった。この比率を惜しむ声は少なくなく、2016年の改良で針は延長され、数字には夜光が戻された。36mmのために寸法を決められた114270の針は、後継の設計に一つの宿題を残したことになる。
4. 124270がもたらした再評価
2021年、ロレックスは124270でエクスプローラーを再び36mmに戻した。搭載機はCal.3230へ進み、パワーリザーブは70時間に達したが、寸法の上では114270の時代への回帰である。以後、新しい36mmを語る際には、114270が比較の基準点として引かれることが多い。31系キャリバーを載せた最後の36mmとして、このRefは後継の登場によって改めて輪郭を得たといえる。
意匠分析
ケースは1016以来の径を守るオイスターケースで、ラグに横穴を持たない。14270の途中で横穴が廃された形状を、そのまま受け継いだものである。ラグ幅は20mmで、2021年の124270が19mmへ絞るまで、エクスプローラーの標準寸法だった。ベゼルは回転機構を持たないスムースな鏡面仕上げで、ケースはポリッシュとサテンを面ごとに切り分けて仕上げられる。
バネ棒の穴はケース寄りに設けられ、ブレスレットの可動点がラグ先端に来るよう寸法が取られている。そのため革やナイロンのストラップに替えると、ラグ先端が突き出して見えるとの声がある。オイスターブレスとの組み合わせを前提とした設計といえる。
文字盤は光沢のある黒で、3・6・9の数字とバーインデックスは、18Kホワイトゴールド製とされるアプライドである。12時には三角のマーカーを置き、いずれにもスーパールミノヴァを充填する。暗所では緑がかった光を放ち、214270以降の青く光るクロマライトとは発光色が異なる。モデル名は12時側に記され、6時側にはクロノメーター認定を示す2行の表記が入る。針はメルセデス型の時針、バー型の分針、夜光の円を持つ秒針の組み合わせである。
ムーブメントは自社製のCal.3130である。前任のCal.3000は、テンプを片持ちの受けで支えていた。Cal.3130はこれを両端で固定するテンプブリッジに改め、耐衝撃性を高めている。ヒゲゼンマイは平ヒゲから、外端を持ち上げて等時性を高めるブレゲ巻上げヒゲへ改められた。緩急の調整は、テンワに取り付けた調整ナット、マイクロステラで行う。振動数は毎時28,800振動 (4Hz) のまま、パワーリザーブは約42時間から48時間に延びた。同じ機械はノンデイトのサブマリーナ14060Mにも積まれたが、その初期型は文字盤にクロノメーター表記を持たなかった。本機は初期の個体からスイス公式クロノメーター検査協会(COSC)の認定を受け、それを文字盤に記している。
ブレスレットはRef. 78690のオイスターブレスで、ケースに接するエンドピースが中空から中実に変わった。付け根の剛性が増し、ケースとの一体感も高まっている。クラスプは、214270で導入される工具不要の延長機構イージーリンクをまだ持たない。
系譜と歴史
エクスプローラーの14270を継ぐRefとして、114270は2001年に登場した。ただし2000年製とされるPシリアルの個体も知られており、生産自体は2000年に始まっていたとする見方もある。
生産開始当初から、ブレスレットはRef. 78690で、エンドピースは中実構造だった。文字盤は14270の最終仕様を引き継ぎ、6時位置に「SWISS MADE」を表記する。初期の個体はKまたはYで始まるシリアルを持ち、2001年から2002年の製造とされる。
2000年代前半には、風防の6時位置に王冠の透かしを入れるレーザー刻印が、ロレックス全体で段階的に導入された。2004年初頭までにほぼ全ラインへ行き渡ったとされ、114270の生産期間はこの移行期と重なる。
生産後期の2007年から2008年頃には、インナーベゼル(ルーレット)への刻印が始まった。文字盤外周に「ROLEX」の連続文字とシリアル番号を刻むもので、偽造対策として全社的に導入された仕様である。114270では、最終期の個体を見分ける目印となっている。ヒゲゼンマイについても、後期の個体にパラクロムが使われているとの報告がある。ただし切り替えの時期は資料によって記述が分かれ、確定には至らない。
2010年のバーゼルワールドで、後継の214270が発表された。市場への投入は同年秋とされ、114270は2010年に生産を終えた。約10年の生産期間に、文字盤色やケース素材の派生は確認されていない。知られているのは、Ref. 114270-0001の黒文字盤のみである。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Rolex Movements Explained: Every Caliber Worth Knowing
- 02 専門メディア Rolex caliber 3130