設計思想
1. ミルガウスの器を借りた先代
2016年のバーゼルワールドで登場した116900は、エアキングを40mmへ拡大した。黒文字盤に大きな3・6・9と分目盛りを並べる新しい顔を与えたのも、このRefである。計器を思わせるその表示は、ロレックスが開発に関わった英国の超音速車ブラッドハウンドSSCのコックピット計器に通じるとされる。
一方で、ケースとCal.3131はミルガウス 116400GVと共有していた。磁気から機構を守る軟鉄製シールドも、そのまま受け継いでいた。独自の文字盤を持ちながら、器は別モデルからの借用だったのである。発売から6年を経た2022年を前に、専門誌の間では刷新か廃止かという観測が広がっていた。
2. 顔を残し、骨格を替える
126900は、一見すると先代と見分けがつきにくい。40mm径、黒文字盤のレイアウト、100m防水のオイスターケースという基本は据え置かれた。変わったのは第一印象を決める表層ではなく、ケース、ブレスレット、ムーブメントという骨格である。
更新の方向は、公式の説明に端的に表れている。ロレックスは新ケースの特徴として、クラウンガードとストレートなケースサイドを挙げた。いずれもプロフェッショナル・カテゴリーの多くのモデルに共通する要素である。先代がミルガウスの派生と見られがちだったのに対し、本機はサブマリーナやGMTマスターIIと同じ設計コードに加わったことになる。
ムーブメントの選択もこの流れに沿う。ミルガウスと分け合っていたCal.3131を離れ、オイスター パーペチュアルやエクスプローラーと同世代のCal.3230へ移った。エアキングは特定モデルの派生という立場を脱し、標準的なオイスターの一員となったのである。
3. 系譜の中の126900
本機の独立は、翌年の出来事によって意味を増した。2023年、先代とケースやムーブメントを分け合っていたミルガウス 116400GVが生産を終えたのである。耐磁ケースとCal.3131による構成はカタログから消えたが、エアキングはその1年前に自前の足場を得ていた。
色や素材の選択肢を持たない1型構成は、ロレックスの現行コレクションでは異例とされる。派生や限定版で存在感を補うことなく、本機は一つの仕様だけでエアキングの名を背負っている。2026年9月時点で後継に関する公式情報はなく、発表から4年半を経た現在も現行の座にある。
意匠分析
外観の変化が最も大きいのはケースである。先代116900のケースサイドは丸みを帯びていたが、126900では側面が平らな面で切り立ち、稜線もシャープに整えられた。リューズの両脇には、エアキングとして初めてクラウンガードが立ち上がる。1959年にサブマリーナとGMTマスターで導入されたロレックスの防護構造で、ケースと一体のガードがツインロック・リューズを守る。
ベゼルは目盛りのない鏡面のスムースベゼルを据え置き、ラグ上面のサテン仕上げと対比をなす。クラウンガードと無地のベゼルを組み合わせた構成は、現行ロレックスでも珍しいとされる。文字盤の開口部はわずかに広げられ、ベゼルの見付けは先代より細く映る。
公式は厚みを公表していないが、専門誌の計測では先代より1.5mm前後薄くなったとされる。先代の公式資料にあった磁気シールドの記述は126900の資料になく、軟鉄製インナーケースが省かれた結果と伝えられる。
耐磁性について公式が説明するのは、ムーブメント側の素材である。新たに搭載されたCal.3230は日付を持たない3針の自社製キャリバーで、毎時28,800振動 (4Hz)で時を刻む。脱進機はクロナジー・エスケープメント(エネルギー効率を高めた特許脱進機)で、ニッケル・リン合金製のため磁気の影響を受けにくい。常磁性合金によるブルー・パラクロム・ヒゲゼンマイと合わせ、パワーリザーブはCal.3131の48時間から70時間へ延びた。
文字盤は、大きな3・6・9と2桁の分表示を組み合わせる先代の骨格を踏襲する。そのうえで1時位置の「5」を「05」に改め、すべての5分表示を2桁に揃えた。夜光も拡充された。以前は18Kホワイトゴールドの地金のみだった3・6・9に、クロマライト(青く長く発光するロレックス独自の夜光素材)が加わった。針と12時の三角インデックスにも、より長く光る新しい夜光素材が用いられている。黄色の王冠ロゴ、緑のROLEX銘と秒針という配色は継承されている。
ブレスレットは3連のオイスターで、公式はプロポーションを見直しセンターリンクを広げたと説明する。クラスプは不意の開放を防ぐオイスターロックとなり、5mm延長できるイージーリンクを備える。
系譜と歴史
126900は、2022年3月30日に開幕したWatches and Wonders Geneva 2022で発表された。会期は4月5日まで続き、同じ場では左リューズのGMTマスターII 126720VTNRも披露された。専門誌はこの2本を、同年のロレックス新作の目玉として扱っている。発表と同時に、前任の116900は生産を終えた。
発表時の公式資料は、ケース、ブレスレット、文字盤表示、夜光、ムーブメントの全領域に改良が及んだことを示した。なかでもクラウンガードとオイスターロック・クラスプは、いずれもエアキングとして初めての採用である。搭載されたCal.3230は2020年に登場した自社製キャリバーで、ロレックスは本機への採用を2022年からと明記している。公式ニュースルームのエアキング紹介も、2022年以降はクラウンガードとストレートなケースサイドを備えると記している。
生産期間中の仕様変更について、公式・専門誌ともに文字盤やブレスレットの改訂は報じていない。エアキングは発表以来、色違いや素材違いを加えておらず、126900-0001が唯一の型番である。地域限定や流通限定の仕様も、公式には確認できない。2026年9月時点で本機はロレックスの公式サイトに発表時と同じ仕様で掲載されており、現行モデルである。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Rolex
- 02 専門メディア Rolex Movements Explained