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PIAGET · SERIES

Emperador

エンペラドール

極薄ムーブメントの技術を礼装の意匠へと結実させ、後に薄型記録の舞台ともなったピアジェのドレスウォッチ

01 — 概要 / SUMMARY

Emperador(エンペラドール)は、ピアジェが1957年に送り出したドレスウォッチの系譜である。同年発表の極薄手巻きキャリバー9Pを背景に、礼装にふさわしい薄型の機械式時計として生まれた。角を抑えた矩形ケースの原型に加え、後にクッション型のEmperador Coussinが複雑機構の舞台となり、自動巻きトゥールビヨンやミニッツリピーターで薄型化を競った。ピアジェのフォーマル路線「ブラックタイ」を象徴する一族である。

02 — STORY · 物語

Emperador(エンペラドール)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1957年、極薄と「皇帝」の名

1957年、ピアジェはバーゼルの見本市で厚さ2mmの手巻きキャリバー9Pを発表し、極薄時計の作り手として注目を集めた。同じ年、その技術を礼装の意匠へ落とし込んだ紳士用時計として登場したのがEmperadorである。「皇帝」を意味する名は、威厳と品格を一身に集める意図を示していた。

角を抑えた矩形ケースに、文字盤12時位置にはピアジェの紋章を据える。薄さを生かした端正なプロポーションは、当時のドレスウォッチの中でも個性を放った。1960年にはマイクロローター式の自動巻きキャリバー12P(厚さ2.3mm)が加わり、極薄の表現は手巻きから自動巻きへと広がっていく。

02

矩形ケースの再起

1970年代以降、ピアジェは金無垢や宝飾を前面に出した華やかな路線で知られ、Emperadorもその文脈で語られた。一方で1990年代末、ブランドは現行コレクションとしてEmperadorを再構築したとされる。

再起した矩形のEmperadorは、初代の意匠を受け継ぐ。フレアを描くラグ、紋章、細いバトンインデックス、ドフィーヌ針。Ref. 18900に代表される現行の矩形モデルは、自社製の自動巻きキャリバー551Pなどを収め、1950年代のオリジナルを思わせる佇まいを保つ。派手さよりも端正さを選ぶ姿勢は、この系譜の一貫した性格である。

03

クッションケースという舞台

2000年代に入り、Emperadorはもう一つの顔を獲得する。クッション型ケースのEmperador Coussinである。柔らかく張り出した四隅を持つこのケースは、複雑機構を載せる舞台となった。

ピアジェは2000年代初頭に自社初のトゥールビヨン、極薄手巻きキャリバー600Pを完成させ、複雑機構への足がかりを得ていた。Emperador Coussinはこの蓄積を受け、デュアルタイム(キャリバー850P)、パーペチュアルカレンダー(855P)、クロノグラフ(880P)、ムーンフェイズ(860P系)など、多様な機構を次々に取り込んでいった。礼装の時計でありながら高級複雑時計の器でもあるという二面性が、ここで確立する。

04

極薄記録への回帰

2010年代、ピアジェは創業以来の極薄技術を複雑機構と結びつける挑戦に乗り出す。2010年、マイクロローター式の極薄自動巻きキャリバー1208P(厚さ2.35mm)を発表すると、その構造を起点に複雑機構の薄型化を進めた。

2011年のEmperador Coussin Tourbillon Automatic Ultra-Thinは、600Pと1208Pの知見を統合したキャリバー1270Pを搭載し、ケース厚10.4mmという自動巻きトゥールビヨンとして極めて薄い一本となった。続く2013年のEmperador Coussin XL Ultra-Thin Minute Repeaterは、キャリバー1290Pにより、ピアジェによれば世界で最も薄い自動巻きミニッツリピーターを名乗った。同時期にはブルガリのOcto Finissimoが同じ薄型競争に加わり、各社が記録を競う構図が生まれた。

05

機械とクォーツの邂逅

2016年、Emperador Coussin XL 700Pは異質な一本として登場する。1976年に発表した自社初のクォーツキャリバー7Pから40年を記念し、機械式の輪列をクォーツ振動子で制御するハイブリッド機構を採用した。

電池を持たず、自動巻きローターで発電し、32,768Hzの水晶で輪列の速度を整える。機械式時計の構造とクォーツの精度を一つの器に収める試みであり、愛好家のあいだで賛否を呼んだ。46.5mmのホワイトゴールドケースに収まり、118本の限定とされた。ピアジェが機械式とクォーツの双方を自製してきた歴史を、Emperador Coussinの舞台で示した一本である。

06

現在地

近年のピアジェは、極薄路線のAltiplanoとスポーツ路線のPoloに比重を移している。Emperadorは現行コレクションの前面からは退き、その多くは中古市場で受け継がれている。

ただしクッションケースの設計言語は失われていない。丸いケースにクッション型の文字盤を組む手法はPoloへと引き継がれ、ピアジェ特有の意匠として生き続けている。礼装の薄型時計という出発点から、複雑機構の器、そして薄型記録の舞台へ。Emperadorの歩みは、極薄という一つの思想がたどった変奏の記録でもある。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Emperadorの設計思想を貫くのは、極薄技術を礼装の器に収めるという一点である。ピアジェは1957年以来、薄さを自らの造形言語としてきた。Emperadorはその言語を、丸型のAltiplanoとは異なる形で語る系譜といえる。

このシリーズには二つのケース形状が共存する。一つは角を抑えた矩形、もう一つはクッション型である。矩形は初代の記憶を継ぎ、フレアを描くラグと12時の紋章で「Emperadorの顔」を成立させる。クッション型のEmperador Coussinは、柔らかく張り出した四隅が大径のケースに落ち着きを与え、複雑機構を載せる平面を確保する。形は違っても、両者は薄さと端正さという価値を共有する。

意匠の核は、視覚的な静けさにある。細いバトンインデックス、ドフィーヌ針、オフセンターに置かれたスモールセコンドやサブダイヤル。文字盤は要素を抑え、金属の質感と仕上げで語る。派手な色や過剰な装飾を避ける判断が、礼装の時計としての品格を支えている。

機構面では、薄さの哲学が複雑機構にまで及ぶ。極薄ムーブメントの逆構造(リバース)は、巻き上げや調速の機構を文字盤側に配置し、マイクロローターとトゥールビヨン、あるいは発電機が描く図形をデザインの一部として見せる。大径ケースを薄く仕上げる技術が、46.5mmという寸法に着用感の軽さをもたらす。

同時代のドレス・極薄時計と並べると、輪郭はより明確になる。ヴァシュロン・コンスタンタンやオーデマ ピゲが古典的な丸型で薄型を語り、後にブルガリのOcto Finissimoが角型で記録を競ったのに対し、Emperadorは矩形とクッションという二つの造形で、ピアジェ固有の薄型ドレスの語彙を保ってきた。変えなかったのは薄さと静けさ、変えたのはそれを載せる形である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1957-1970年代
Cal. 9P / 12P 系
極薄手巻きとマイクロローター自動巻きの原器。
1999-2000年代
Cal. 500 系 (551P ほか)
矩形モデル向けの自社製自動巻き。
2000年代
Cal. 800 系 (850P / 855P ほか)
デュアルタイムや永久暦などの複雑機構群。
2010-2013
Cal. 1200 系 (1270P / 1290P)
極薄トゥールビヨンとミニッツリピーター。
2016
Cal. 700P
機械式輪列をクォーツで制御するハイブリッド。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1957

初代 Emperador

1957年オリジナル
極薄手巻きを礼装に収めた矩形ドレスウォッチ。紋章を12時に据える。
1999-2000年代

矩形 Emperador の再起

18900 ほか
初代の意匠を継ぐ現行矩形。自社製の自動巻きを搭載する。
2000年代

Emperador Coussin

G0A32016 ほか
クッションケースが複雑機構の舞台に。デュアルタイム等を展開。
2011

Coussin Tourbillon

G0A36040 ほか
Cal.1270P搭載、ケース厚10.4mmの薄型自動巻きトゥールビヨン。
2013

XL Minute Repeater

G0A38019
Cal.1290P搭載、薄型の自動巻きミニッツリピーターとされる。
2016

Coussin XL 700P

G0A41041
機械式とクォーツを組むハイブリッド機構。118本限定とされる。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Watches - Piaget 公式 · Piaget · 2026.08.15 閲覧 Piaget · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Piaget 430P - Grail Watch Reference 専門メディア · Grail Watch Reference · 2026.08.15 閲覧 Grail Watch Reference · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive