1932年、シンプリシティへの賭け
1929年の大恐慌は、複雑時計と懐中時計を主力としていたパテック・フィリップを深刻な経営難に追い込んだ。1932年、ジャンとシャルル=アンリのスターン兄弟が経営権を取得する。スターン家はパテックの主要文字盤サプライヤーであり、衰退する顧客企業を救済する形での参画であった。
兄弟が示した方向は単純ながら大胆であった。複雑時計に頼るのではなく、シンプルで完成度の高い腕時計を打ち出す。同年発表のRef. 96は、その戦略を具現化した一本である。31mmのラウンドケース、薄いベゼル、何も足さない文字盤、6時位置のスモールセコンド。懐中時計が依然として主流であった時代に、腕時計時代の到来を予告するモデルとなった。