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OMEGA · SERIES

Speedmaster First Omega in Space

スピードマスター ファースト オメガ イン スペース

NASA公認より前に宇宙へ渡った、プロ仕様以前のスピードマスターを現代に伝える復刻系譜

01 — 概要 / SUMMARY

Speedmaster First Omega in Space は、1962年にウォルター・シラーが自費購入したスピードマスター CK 2998 を起点とする復刻系譜である。NASA がスピードマスターを正式採用する2年余り前、文字盤に「Professional」を持たなかった時代の姿を写す。2012年に Ref. 311.32.40.30.01.001 として登場し、2024年には Co-Axial マスター クロノメーター Cal. 3861 を収めた第二世代へ刷新された。ケース径39.7mm、左右対称のストレートラグ、アルファ針。月へ渡る前、最初に宇宙へ渡ったスピードマスターを現行カタログのなかで伝える。

02 — STORY · 物語

Speedmaster First Omega in Space(スピードマスター ファースト オメガ イン スペース)、これまでの軌跡

The story of this series
01

プロフェッショナル以前のスピードマスター

スピードマスターは1957年、シーマスター300、レイルマスターとともに発表された。いずれも特定の用途を想定した実用時計であり、スピードマスターは速度計測を担う計時器として設計された。初代 CK 2915 は、タキメーター目盛りを文字盤ではなくベゼルに移した点で、当時としては新しかった。針はブロードアロー、ベゼルはステンレス製であった。

2年後の1959年、第二世代の CK 2998 が登場する。ベゼルは黒いアルミ製となり、針は細いアルファ針へと改められた。左右対称のケースにねじ込み式裏蓋、リューズガードを持たない簡潔な構成。これは速度を測る道具であって、宇宙を意識した設計ではなかった。搭載されたのは Cal. 321、ルマニア由来のコラムホイール式クロノグラフである。

この時点でスピードマスターは、まだ「月の時計」でも「宇宙の時計」でもない。レーシングドライバーや技術者に向けた、計器盤を思わせる読みやすい文字盤を持つ実用クロノグラフであった。

02

1962年10月3日、シグマ7

転機は、ブランドの計画ではなく一人の飛行士の選択から訪れた。NASA マーキュリー計画の宇宙飛行士ウォルター・「ウォーリー」・シラーは、自身の CK 2998 をヒューストンで私的に購入していた。同時期にゴードン・クーパーらも同型を入手していたと伝わる。いずれも個人の判断による購入であり、公式支給ではない。

1962年10月3日、シラーはこの腕時計を着けてマーキュリー・アトラス8号(宇宙船シグマ7)で地球を6周した。飛行時間は約9時間13分。船内計器の予備としての携行であったが、これがオメガが宇宙に到達した最初の記録とされる。後年、この出来事にちなんでモデルは「First Omega in Space」と呼ばれるようになった。

注目すべきは時系列である。NASA がスピードマスターを全有人飛行の公認装備としたのは1965年3月1日、文字盤に「Professional」が加わるのもその後のこと。つまりシラーが宇宙へ運んだのは、公認も「プロフェッショナル」の称号も得る前の、素のスピードマスターであった。FOIS という系譜の核心は、この「公認以前」という位置づけにある。

03

2012年、名を与えられた復刻

オメガが CK 2998 を正面から復刻したのは2012年である。Ref. 311.32.40.30.01.001。当時のムーンウォッチと同じ手巻 Cal. 1861 を収めつつ、外装は1959年の様式に寄せた。左右対称のストレートラグ、リューズガードのないケース、アルファ針、そして文字盤に貼り付けられたヴィンテージ書体のオメガロゴ。「Professional」の文字は持たない。

ここには明確な設計判断がある。現行カタログのなかで、プロ仕様化する前のスピードマスターをどう再現するか。オメガは現代の量産ケースに合わせるための妥協を一部認めつつ、CK 2998 の骨格を優先した。裏蓋にはオメガ伝統のシーホースの紋章と、「THE FIRST OMEGA IN SPACE」「OCTOBER 3, 1962」の刻印。個体番号は刻まれるが、数量限定ではない。

2015年には18Kセドナゴールドのケースに茶色のセラミックベゼルを組み合わせた仕様も加わったとされる。素材違いの派生ではあるが、系譜の輪郭はこの時期に定まっていく。

04

2024年、第二世代への刷新

2024年、FOIS は第二世代へと更新された。Ref. 310.30.40.50.06.001 ほか、ブレスレットとレザーの選択肢を持つ。最大の変更点はムーブメントである。搭載されるのは Co-Axial マスター クロノメーター Cal. 3861。コーアクシャル脱進機とシリコン製ひげぜんまいを備え、METAS の規格に適合し、15,000ガウスの磁界に耐える。

外装にも見どころがある。風防は、ヘサライト(ドーム状のプラスチック風防)の丸みを模したサファイアガラスに改められた。初代復刻のサファイアは、筒状に立ち上がる形状であった。見た目はヴィンテージ、性能は現代という思想が貫かれている。文字盤は灰がかった青のサンレイ仕上げで、1960年代の個体に見られる退色した色味を参照したものとされる。ケース厚は13.4mmに抑えられ、ケース径39.7mmは初代復刻から変わらない。

なお、オメガは2019年に名作 Cal. 321 を復活させているが、FOIS には採用していない。Cal. 321 を別の限定的な系統に留め、量産モデルである FOIS には最新の3861を与えるという棲み分けである。月へ向かう前に宇宙を見た腕時計は、こうして公認以前の姿を保ったまま、機械だけを現代へ進めている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

FOIS の設計思想は、「プロフェッショナル化する前のスピードマスター」をいかに保つか、という一点に集約される。基準となるのは1959年の CK 2998、すなわち月へ渡る前、リューズガードも「Professional」の称号も持たなかった世代の姿である。

最も重要なのはケースの骨格である。左右対称のケースと、まっすぐ伸びるストレートラグ。リューズガードを設けない簡潔な側面。後年のムーンウォッチが採用する非対称ケース(プッシャーとリューズを守る突起を持つ)とは、ここで明確に分かれる。ケース径は39.7mmで、42mmの現行ムーンウォッチより小ぶりに保たれている。道具としての存在感より、初期スピードマスターの寸法感を優先した選択である。

意匠の継承も一貫している。細身のアルファ針、印刷ではなく貼り付けられたヴィンテージ書体のオメガロゴ、そして黒いアルミベゼルに刻まれた「Dot Over Ninety」(90の上に点が配されるタキメーター表記)。これらは1960年代前半の個体を識別する手がかりであり、2024年世代ではベゼルの表記まで再現が進んだ。文字盤に「First Omega in Space」とは書かれない。系譜の名はあくまで裏蓋に、シーホースの紋章と日付の刻印として置かれる。

風防の扱いには、この系譜の思想がよく表れている。初代復刻は筒状に立ち上がるサファイアを用い、2024年世代はヘサライト(ドーム状のプラスチック風防)の丸みを写したサファイアガラスへ改めた。輪郭はヴィンテージ、素材は現代。変えるべきは性能であり、変えてはならないのは見え方である、という分担が読み取れる。

視認性を最優先する構成も、計時器として生まれたスピードマスターの出自に忠実である。高コントラストの文字盤、太さの揃った針、明快なインデックス。装飾の誘惑を退け、読みやすさを意匠の中心に据える。60年以上を経てなお「初期スピードマスターの顔」を保てているのは、ケースの対称性と、この自制があるからである。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1959-1962
Cal. 321
原型CK 2998のコラムホイール式手巻。
2012-2021
Cal. 1861
当時のムーンウォッチと同じ手巻。
2024-現在
Cal. 3861
コーアクシャル、マスター クロノメーター。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1959-1962

シラーが宇宙へ運んだ原型

CK 2998
シラーが自費購入し、NASA公認前に宇宙へ運んだ第二世代。
2012-2021

FOISとして初の現代復刻

311.32.40.30.01.001
手巻Cal.1861を収め、CK 2998の様式を再現。個体番号入り。
2024-現在

Cal.3861世代への刷新

310.30.40.50.06.001
サファイア風防とマスター クロノメーターへ更新。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 専門メディア Hands-On: The 2024 Omega Speedmaster FOiS (Side-by-Side with the Old FOiS) 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.15 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.15
  2. 02 専門メディア Omega 311.32.40.30.01.001 : Speedmaster First Omega in Space 専門メディア · WatchBase · 2026.10.15 閲覧 WatchBase · 2026.10.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive