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OMEGA · SERIES

Speedmaster Dark Side of the Moon

ダークサイド・オブ・ザ・ムーン

アポロ8号が見た月の裏側に名を借り、ムーンウォッチを一塊の黒セラミックへ移した、初のセラミック製スピードマスター

01 — 概要 / SUMMARY

2013年にオメガが発表した、ムーンウォッチを黒セラミックで再構築したクロノグラフの系譜である。ケースからベゼル、文字盤、プッシャーまでを一塊のジルコニアから削り出し、宇宙開発の象徴に現代的な姿を与えた。名は、アポロ8号の乗組員が人類で初めて目にした月の裏側に由来する。後にグレー、ホワイト、ブルーへと色を広げ、「サイド・オブ・ザ・ムーン」と総称される一群を形成した。2025年にはマスター・クロノメーター認定の機械へ全面刷新されている。

02 — STORY · 物語

Speedmaster Dark Side of the Moon(ダークサイド・オブ・ザ・ムーン)、これまでの軌跡

The story of this series
01

黒いスピードマスターという難題

オメガがスピードマスターを黒一色で仕立てる構想は、2013年より前から温められていた。当時の製品責任者ジャン=クロード・モナションは、PVDやDLCといった表面処理を試したものの、自社の基準を満たす黒に届かなかったと振り返ったと伝わる。塗膜は擦れに弱く、経年で風合いが変わる。月へ向かった計器という出自を背負う時計に、剥がれうる黒は似合わない。

解決策となったのがセラミックであった。酸化ジルコニウムを焼結したこの素材は、染料ではなく素材そのものが黒い。傷や退色に強く、軽い。オメガはこの素材に、月の裏側という主題を重ねた。1968年12月、アポロ8号の乗組員は人類で初めて月を周回し、地球から決して見えない裏側を肉眼でとらえた。「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」の名は、その情景に由来する。

02

2013年、一塊のジルコニアから

2013年のバーゼルワールドで公開された初代(Ref. 311.92.44.51.01.003)は、44.25mmのケース全体を一塊のジルコニアから削り出していた。ベゼル、文字盤、プッシャー、リューズ、尾錠までが同じ黒いセラミックで構成される。視認性を担う針とインデックスにのみ対比を残し、ほかは黒へ沈めた。

機械には、2011年のステンレス製スピードマスター・コーアクシャルと同じ自社製Cal. 9300を据えた。コラムホイール制御の自動巻クロノグラフで、12時間と60分の積算計を3時位置に集約した2レジスター構成をとる。毎時28,800振動 (4Hz)、2つの香箱を直列につなぎ約60時間の駆動を確保する。手巻きの「ムーンウォッチ」とは設計思想を異にする一本であった。

発表後の反応は大きかった。黒いスピードマスターは、従来のムーンウォッチ愛好家とは別の層にも届いた。黒い時計が珍しくなかった時代にあって、セラミック一体構造という工学的な裏づけが、この一本を際立たせた。

03

「サイド・オブ・ザ・ムーン」への拡張

成功を受け、オメガは色と素材の派生を矢継ぎ早に投入する。翌2014年にはグレーセラミックの「グレーサイド・オブ・ザ・ムーン」、2015年には白い「ホワイトサイド・オブ・ザ・ムーン」が加わった。同じ2015年には黒の濃淡や仕上げを変えた4本の派生も加わり、2018年には青の「ブルーサイド・オブ・ザ・ムーン」が登場したとされる。

これにより、当初は一本だった黒いスピードマスターは、色を軸とする一群へと姿を変えた。現在「サイド・オブ・ザ・ムーン」と総称されるこの系列は、いずれも44.25mmのセラミックケースを共有する。潜水用の回転ベゼルではなくタキメーターベゼルを備えるクロノグラフという性格は、ここでも保たれた。

04

アポロ8と手巻への回帰

2018年、アポロ8号のミッションから50年を機に「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン アポロ8」が発表された。この一本は系列の語法をひとつ書き換える。自動巻のCal. 9300ではなく、ムーンウォッチと同じ手巻のCal. 1861を母体とするCal. 1869を搭載したのである。

文字盤はスケルトナイズされ、地板にはレーザーアブレーションで月面の起伏が刻まれた。表から見えるのは地球側の月面、ケースバックには裏側が現れる。裏蓋には「APOLLO 8, DEC 1968」「WE'LL SEE YOU ON THE OTHER SIDE」の文字が添えられた。後者は、月の裏側へ回り交信が途絶える直前に船長ジム・ラベルが残したと伝わる言葉である。その後も、手巻スケルトンを核とする特別版が断続的に加わった。

05

2025年、マスター・クロノメーターへ

初代から12年を経た2025年、系列は最大の刷新を迎えた。オメガはこの世代を、収集家を惹きつけた初代以来の大きな前進と位置づけている。最大の変更は、全モデルがマスター・クロノメーター認定(METAS)を得たことである。これにより15,000ガウスの耐磁性と、より厳格な精度基準が担保された。

ケースは面取りの仕上げを改めた新しいセラミックケースに置き換わり、厚みは抑えられた。ベゼルのタキメーター目盛りには、リキッドメタルを用いた仕様がある。

機械も複数化した。刷新された自動巻はCal. 9900、赤い中央クロノグラフ針を持つ一本は手巻のCal. 9908を積み、後者はケース厚を約13mmまで抑える。スケルトンの「グレーサイド」は、前年の2024年に刷新されたアポロ8と同じく、手巻のCal. 3869を採用した。44.25mmという寸法は保ちながら、内部は現行スピードマスターの技術水準へと引き上げられている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ダークサイド・オブ・ザ・ムーンの設計思想は、ムーンウォッチの「顔」を、色ではなく素材によって読み替えることにある。スピードマスター・プロフェッショナルが白と黒の高い対比で計器性を表現してきたのに対し、この系列は時計全体をひとつの色へ沈め、同じ表情を別の質感で再構築する。

変えなかったものは明快である。左右非対称のケースとリューズガード、ねじれたラグ、そして潜水用ではなくタキメーターを刻んだ固定ベゼル。タキメーターは速度計測の道具であり、回転式ダイバーズベゼルを持つシーマスターとの性格の違いをここで示している。針はムーンウォッチと同じ系統のバトン形で、積算計の配置も計器的な秩序を保つ。一見して「スピードマスター」と分かる輪郭は、初代から崩されていない。

変えたものも、同じだけ大きい。素材はステンレスからジルコニアセラミックへ、ケース径は42mmから44.25mmへ、機械は手巻から自動巻コーアクシャルへと移った。とりわけ素材の選択は、単なる色替えではない。ケースもベゼルも文字盤も同一素材で構成する一体的な造形は、塗膜の黒では到達できない均質さを生む。塗膜と違い、擦れても下地の金属色が現れることはない。

最大の課題は、すべてを一色へ沈めたとき、いかに視認性と「らしさ」を保つかにあった。解は、最小限の対比に集約される。植字インデックスと夜光、わずかな赤い針、近年のリキッドメタル製目盛り。装飾を足すのではなく、必要な対比だけを残す。「派手にしない」という抑制が、ステルス的な外観と計器としての可読性を両立させている。2025年の薄型化も、この思想の延長線上にある洗練であって、方向転換ではない。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2013-2024
Cal. 9300
自社製コーアクシャル自動巻、コラムホイール式2レジスター。
2018-2024
Cal. 1869
Cal. 1861系の手巻、アポロ8のスケルトン用。
2025-現在
Cal. 9900 / 9908
METAS認定の自動巻と手巻、薄型化を実現。
2024-現在
Cal. 3869
アポロ8(2024年)とグレー版の手巻スケルトン。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2013-2024

初代「ダークサイド」

311.92.44.51.01.003
ジルコニア一体ケースの初の黒セラミック。Cal. 9300搭載。
2014-2018

「サイド・オブ・ザ・ムーン」化

Grey White Blue Side ほか
グレー・ホワイト・ブルーへ色を広げ一群を形成。
2018

アポロ8号 50周年記念

アポロ8 (Cal. 1869)
手巻スケルトンと月面意匠を持つ記念モデル。
2025-現在

マスター・クロノメーター世代

310.92.44.51.01.002 ほか
薄型セラミックとMETAS認定機械へ全面刷新。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 専門メディア First Look: Omega Updates the Speedmaster Dark Side of the Moon Collection (incl. Video) 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.15 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.15
  2. 02 専門メディア Omega Introduces The White Side Of The Moon, The White Ceramic Speedmaster (With Specs And Price) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.15 閲覧 SJX Watches · 2026.10.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

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