黒いスピードマスターという難題
オメガがスピードマスターを黒一色で仕立てる構想は、2013年より前から温められていた。当時の製品責任者ジャン=クロード・モナションは、PVDやDLCといった表面処理を試したものの、自社の基準を満たす黒に届かなかったと振り返ったと伝わる。塗膜は擦れに弱く、経年で風合いが変わる。月へ向かった計器という出自を背負う時計に、剥がれうる黒は似合わない。
解決策となったのがセラミックであった。酸化ジルコニウムを焼結したこの素材は、染料ではなく素材そのものが黒い。傷や退色に強く、軽い。オメガはこの素材に、月の裏側という主題を重ねた。1968年12月、アポロ8号の乗組員は人類で初めて月を周回し、地球から決して見えない裏側を肉眼でとらえた。「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」の名は、その情景に由来する。