設計思想
1. 復活させたのは、機構ごと書き直すという選択
Speedmaster Moonphaseという系譜は1985年に始まる。このときOmegaは、Lemania系のCal.866を積んだムーンフェイズ付きのSpeedmaster Professionalを限定で送り出し、ドイツ市場向けの別ケース仕様も作られた。以後もCal.866の後継であるCal.1866を用いたProfessional Moonphaseが続いたが、いずれも手巻のLemania系ムーブメントに月相を組み込む形式の延長線上にあった。
2016年、Omegaはこの系譜を一から書き換える道を選ぶ。Baselworldに先立って公開された本Refは、自社製のCal.9904を搭載した最初のSpeedmaster Moonphaseクロノグラフである。Master Chronometer認定と15,000ガウス耐磁という、同社が全ライン展開を進めていた新基準をSpeedmasterに持ち込んだ初期の機種ともされる。
2. Cal.9904の出自と再配置
Cal.9904は、2011年に発表された自動巻クロノグラフCal.9300の発展形である。コラムホイール式クロノグラフ、コーアクシャル・エスケープメント、Si14シリコン製ヒゲゼンマイ、直列2バレル構成、双方向自動巻という基本骨格を9300から受け継ぎつつ、6時位置にムーンフェイズを追加し、9300では6時にあった日付窓を9時位置のサブダイヤルへ移している。毎時28,800振動 (4Hz)、60時間パワーリザーブを確保する。
3. シリーズの顔として置かれた青
2016年のコレクション発表に先立ち、Omegaが披露したのが本Refの青文字盤仕様であった。サンバースト仕上げの青ダイヤルに、青セラミックベゼル、青のアリゲーターストラップを揃えた構成は、その後に加わる仕様の中でシリーズの基準点として置かれてきた。2025年には手巻Cal.9914を積む43mmのSpeedmaster Moonphase Meteoriteが登場したが、これも2016年に本Refが確立した「現代のムーンフェイズ・スピードマスター」の枠組みの上に積み上げられている。
意匠分析
Cal.9904の登場と表裏一体で設計されたのが、6時位置に配されたムーンフェイズ表示である。月はNASAの写真に匹敵するほど精細な白黒の画像で描かれ、拡大すれば宇宙飛行士の足跡まで見えるとOmegaは説明する。目盛には朔望月の日数にあたる「29,5」が記され、毎日動かし続ければ修正は10年に一度で足りるとされる。
ダイヤルは青のサンバースト仕上げで、バトン型インデックスとハンドに夜光を備える。2つのサブダイヤルが左右対称に並び、3時位置は時間と分の積算計を一つにまとめ、9時位置ではスモールセコンドと日付を同じサブダイヤルで示す。日付を指針で表示することで、9300系では6時位置にあった日付窓を文字盤から消し、6時をムーンフェイズに明け渡した。
ベゼルは青セラミックで、Liquidmetalによるタキメーター目盛を組み込み、青い文字盤と色調を揃えている。Liquidmetalは非晶質金属合金で、セラミックとの密着性に優れ、目盛のシャープな印象を長期にわたって保つ素材としてOmegaが採用を進めてきたものである。ケース径は44.25mm、厚さは約16.9mmとされる。ラグの稜線にポリッシュ仕上げを通し、上面と側面のサテン仕上げと切り分けることで、複雑形状を視覚的に整理している。風防とシースルーバックにはサファイアクリスタルを用い、スティールのフォールディングクラスプでストラップを留める。
系譜と歴史
本Refは2016年初め、Baselworldに先立って公開され、同年3月のBaselworld本番でSpeedmaster Moonphase Master Chronometer Chronographとして発表された。本Refはその起点となる青文字盤・青ストラップ仕様として市場に投入されている。
その後、同じ44.25mmケースにブラック文字盤やゴールドを組み合わせた仕様、ブレスレット仕様などが加わり、レザーとブレスレットの両系統が揃う構成となったとされる。
さらにセラミックケースの派生として、Blue Side of the Moonの名を持つ青セラミック仕様なども展開されたとされる。
2025年、Speedmaster Moonphaseの枠組みは新たな展開を見せる。手巻Cal.9914を搭載する43mm径・厚さ13.6mmのSpeedmaster Moonphase Meteoriteが発表され、本Refが体現する自動巻44.25mmラインとは別系統として、より小径かつ手巻志向のサブラインが立ち上がった。本Refについて、発表以来、文字盤・ベゼル・ムーブメントの基本仕様に大きな変更は記録されていない。
出典
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