月へ行く前の話
スピードマスターの名は、現在では月面探査と分かちがたい。だが1957年に登場した初代CK2915は、宇宙とは無縁の場所で構想された。対象は自動車レースのドライバーであり、技術者であり、競技の時間を計る人々だった。
CK2915は、タキメーター目盛りをベゼルに移した最初のクロノグラフとされる。それまで多くの計時表示は文字盤の内側に刻まれていた。外周のベゼルへ移すことで、視認性と計測の速さが増した。手巻のCal.321、左右対称のストレートラグ、ブロードアロー針。これらが初代の言語を形づくった。
スピードマスター'57とは、この地上での出発点を記憶するための系譜である。月へ行く前の、レース用計器としての顔。それを現代の技術で語り直す試みが、このコレクションの核にある。