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JAEGER-LECOULTRE · SERIES

Master Ultra Thin

マスター・ウルトラスリム

1907年の薄型懐中時計に源を発し、複雑機構を薄いケースへ収めるドレスウォッチの系譜

01 — 概要 / SUMMARY

Master Ultra Thin(マスター・ウルトラスリム)は、Jaeger-LeCoultreが1993年に立ち上げた薄型ドレスウォッチのコレクションである。1907年の薄型懐中時計に由来する薄さへの志向を主題とし、Date、Moon、Réserve de Marcheといった機能の異なる複雑機構を、視認性を損なわない端正な意匠にまとめる。2013年のJubilee、2015年のSqueletteでは当時最薄級の記録に挑み、薄型機構の系譜を腕時計の上で更新してきた。

02 — STORY · 物語

Master Ultra Thin(マスター・ウルトラスリム)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1907年、「ナイフ」と呼ばれた機構

ものごとの始まりは、1903年のひとつの挑戦にさかのぼる。フランス海軍にクロノメーターを納めていた時計師エドモン・ジャガーは、極端に薄い機構を量産できないかとスイスの時計師たちに問いかけた。これに応じたのが、アントワーヌ・ルクルトの孫にあたるヴァレ・ド・ジュウのジャック=ダヴィッド・ルクルトであり、両者の協業は1937年にJaeger-LeCoultreという社名へ結実する。

その成果が、1907年のキャリバー145である。厚さは1.38mmとされ、これを積んだ懐中時計は今も最薄の懐中時計の記録を保つとされる。薄く鋭い縁を持つケースから「クトー」(フランス語で「ナイフ」)と呼ばれた1907年の懐中時計も、この薄型の系譜に連なる。Master Ultra Thinというコレクションは、この一本の機構が残した記憶の上に立っている。

02

1993年、薄さがコレクションの名になる

現代のMasterファミリーは1992年のMaster Controlから始まる。これはケーシング後の時計全体を1000時間にわたり試験する自社検査「1000 Hours Control」を初めて課したモデルであり、ムーブメント単体ではなく完成品で精度を保証する点に特色があった。

その翌年、1993年にMaster Ultra Thinが派生する。Master Controlが精度と信頼性を主題としたのに対し、こちらは20世紀初頭の薄型懐中時計への敬意を出発点とした。薄さという一点に主題を絞ったことが、後年このコレクションを他のドレスウォッチから際立たせる軸になる。

03

ムーン、デイト、リザーブ — 複雑機構の並立

Master Ultra Thinは、単一のリファレンスが世代交代を繰り返すコレクションではない。2010年代前半にかけて、時分・日付・ムーンフェイズ・パワーリザーブ・永久暦といった複数の機構を備えたモデルが出揃い、現在の構成が形づくられた。

中核を担うのは、自動巻の主力機構である。時分と日付を表示するDateにはキャリバー899、ムーンフェイズを加えたMoonにはキャリバー925が用いられる。現行世代のキャリバー899と925は、70時間の動力を蓄える。パワーリザーブ表示を備えたRéserve de Marcheはキャリバー938で、2024年の世代ではシリコン製の脱進機部品と再設計した香箱により70時間に延びた。永久暦のPerpetual Calendarはキャリバー868が動かす。いずれもヴァレ・ド・ジュウの自社工房で設計・組立・装飾まで一貫して仕上げられる。

これらは順に置き換わってきたのではなく、機能の異なる並立する選択肢として併存している。薄型という共通の制約のもとで、どこまで複雑な表示を端正に収められるか——その実験の集合が、このコレクションの姿である。

04

最薄を巡る競争 — JubileeからSqueletteへ

2013年、Jaeger-LeCoultreはアントワーヌ・ルクルトへのオマージュとして創業180年を記念するJubileeコレクションの一本に、Master Ultra Thin Jubileeを加えた。プラチナケースの厚さは4.05mm。最も厚い中央部にムーブメントと風防と裏蓋を収め、周囲を薄く削いだナイフシェイプのケースに、123個の部品からなる厚さ1.85mmの手巻キャリバー849を収め、発表時点で世界最薄の腕時計とされた。

翌2014年のSIHHには、同じ機構を39mmのピンクゴールドに収めたMaster Ultra Thin 1907が続く。厚みを抑えるため、文字盤のインデックスは植字ではなくプリントとされた。

もっとも、薄さの記録は一社の独占を許さない。4.05mmの記録は、2014年に同じリシュモン傘下のPiagetが発表した厚さ3.65mmのAltiplano 900Pに更新される。Piagetはケースバックをムーブメントの地板として兼用していた。これに対しJaeger-LeCoultreは2015年、Master Ultra Thin Squeletteで応えた。文字盤を取り払い、厚さを変えずにキャリバー849を透かし彫りにした849SQを、サファイアの裏蓋を持つ古典的な構造の38mmケースに収めたこのモデルは、ケース厚3.6mm。Piagetの記録をわずか0.05mm下回り、当時最薄の機械式腕時計とされた。基幹となった849は1970年代に登場した機構であり、その古さは薄型化が物理的な限界に近づいていることをも示していた。

05

映画と懐中時計の記憶

2020年、Master Ultra Thinは出発点である「クトー」に立ち返る。映画『キングスマン』シリーズの第三作『キングスマン:ファースト・エージェント』に合わせ、紳士服の通販Mr Porterと組んで、1907年のクトー懐中時計を腕時計へ翻案したMaster Ultra Thin Kingsman Knife(Ref. 3402393)が、100本限定で発表された。

40mm×4.25mmのピンクゴールドケースは当時のJLCで最も薄い時計で、幅広い二段のベゼル、12時位置に置かれた三角形の弓で守られたリュウズを持つ。いわば懐中時計にラグを付けた構成である。心臓部には、1975年のキャリバー839を受け継ぐキャリバー849が再び用いられた。なお同シリーズの時計は作品ごとに担当ブランドが異なるとされる。

06

現在地

現在のMaster Ultra Thinは、記録への挑戦と日常の実用という二つの性格を併せ持つ。手巻のキャリバー849系が薄さの極限を象徴する一方、自動巻の主力機構は順次更新され、Date、Moon、Réserve de Marcheの多くが70時間の動力を蓄えるようになった。

2025年には39mmのDateとMoonに、グレインド・カッパー文字盤の各800本限定版が加わっている。一世紀以上前に始まった薄型機構という主題が、複雑機構と意匠の両面で更新され続けている点に、このコレクションの現在地がある。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Master Ultra Thinの設計は、「薄さ」という単一の制約を中心に据える。複雑な表示を加えるほど機構は厚くなるが、このコレクションはその増分をいかに抑え、ケースの側面をいかに薄く見せるかに一貫して向き合ってきた。刃を思わせるナイフシェイプのケース、サファイアから縁へ向けて削がれた断面は、1907年のクトー懐中時計から受け継いだ造形言語である。

機能設計の核は、薄さと視認性の両立にある。極端に薄いケースは内部の余白を奪い、針と風防の距離はごくわずかになる。それでも文字盤の可読性を犠牲にしないため、ドフィーヌ針は片面をサテン仕上げ、片面を鏡面とし、角度によって光を反射させて輪郭を立たせる。やや長めに伸ばしたバトン型インデックスと、ミニッツトラックのドットも、装飾より先に時刻を読ませるための要素である。極薄の1907では、針がインデックスに触れないよう高さを抑えるため、インデックスを植字ではなくプリントとした。

意匠の継承は、抑制という判断に支えられている。色数を絞り、装飾を足さず、ケース径を肥大させない。サンレイやエッグシェルといった文字盤の質感の差で表情を作り、形そのものは大きく動かさない。この自制があるからこそ、Date、Moon、Réserve de Marche、Perpetual Calendarという機能の異なるモデルが、ひとつのコレクションとして同じ顔を保てている。

同時代の薄型ドレスの系譜と並べると、輪郭がはっきりする。Piaget Altiplanoが文字盤と機構を一体化させて極限の薄さを追うのに対し、Master Ultra Thinは風防・ケース・ムーブメント・裏蓋という古典的な構造を保ったまま薄さに挑む。Patek PhilippeのCalatrava、Vacheron ConstantinのPatrimonyが円のプロポーションを競う中で、このコレクションは薄型機構の自社製造という技術的背景を意匠の根拠としている点に独自性がある。

変えなかったものは、薄型への志向と、読ませることを最優先する文字盤の規律である。変えてきたのは、機構の複雑さと、それを薄いケースへ収める技術の精度である。1993年の発足以来そう遠くない期間でも認識できる「Master Ultra Thinの顔」は、この二つの線引きの上に成り立っている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1907
Cal. 145
1.38mm、薄型機構の原点(懐中時計用)。
1975-現在
Cal. 839 / 849 系
1.85mm手巻、最薄記録機の基幹。
現行
Cal. 899 / 925
自動巻、時分日付とムーンの主力。
現行
Cal. 938 / 868
パワーリザーブと永久暦の複雑機構。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1993

薄型コレクション創設

初代 Master Ultra Thin
1907年の薄型懐中時計に着想、薄型ドレスの起点。
2009-2013

現行コレクションの確立

Moon Date Réserve de Marche
ムーン、デイト等が出揃い現行構成が固まる。
2013

180周年ジュビリー

Master Ultra Thin Jubilee
プラチナ4.05mm、発表時点で世界最薄の腕時計。
2014

薄型1907の量産化

Master Ultra Thin 1907
39mmピンクゴールド4.05mm、ナイフ型ケースを継承。
2015

スケルトンで最薄記録

Master Ultra Thin Squelette
38mm・3.6mm、当時最薄の機械式腕時計。
2020

キングスマン・ナイフ

3402393
40mm×4.25mm、12時リューズの懐中時計型、限定100本。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

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