設計思想
1. トノーという選択
Spirit of Big Bangは、2014年にHublotが発表したコレクションである。それまで丸型のケースを基本としてきたBig Bangの設計言語を、樽型 (トノー) のケースへ移し替えた点に最大の特徴がある。Big Bang、King Power、Classic Fusionに続く、ブランドの新たな柱として位置づけられた。
ケースは縦51mm、横45mmの大型トノーである。Hublotが「サンドイッチ構造」と呼ぶ多層ケースを踏襲し、外装の素材の間に樹脂のセンターバンドを挟む。601.CI.7170.LRでは、外装にマイクロブラスト仕上げの黒セラミックを用い、その中間層にブルーの複合樹脂を差している。
2. なぜEl Primeroだったか
このコレクションの心臓は、自社のUnicoではなくHUB4700である。HUB4700は、同じLVMH傘下のZenithが擁するEl Primeroを基とするスケルトン・クロノグラフだ。El Primeroは1969年に登場した自動巻きクロノグラフで、毎時36,000振動 (5Hz) の高振動と、1/10秒計測を象徴とする。
Unicoではなく調達品のEl Primeroが選ばれた理由は、トノーケースの薄い寸法にある。Unicoは厚みがあり、Spiritの細身のケースには収まりきらなかったと伝わる。グループ内のキャリバーを転用することで、薄型と高振動を両立させた格好である。
3. 黒セラミックとブルー、45mm世代の行方
2014年の登場時、Spirit of Big Bangの中心はチタンとキングゴールドであった。ケース全体を黒セラミックで構成する仕様や、ブルーを差した構成は、その後にコレクションが広がる過程で加わっていった。601.CI.7170.LRは、ブルーのアクセントを与えられた黒セラミックの派生であり、チタン製の兄弟Ref 601.NX.7170.LR、キングゴールドの601.OX.7180.LRと色の主題を共有する。
その後、Spirit of Big Bangの主軸は、より小ぶりな42mm世代へと移っている。45mmの黒セラミック・ブルー仕様は現在では生産を終えており、トノー初期の45mm世代を今に伝える一本となっている。
意匠分析
601.CI.7170.LRの個性は、まず外装の素材にある。ケースとベゼルにはマイクロブラスト仕上げの黒セラミックを用いる。光を散らす微細な梨地は、ポリッシュとは異なる落ち着いた黒を生む。ベゼルは固定式で、6本のH型チタンビスで留められる。Big Bangから受け継いだ意匠だが、トノーの曲線に沿って配される点がこのケース形状ならではである。
サンドイッチ構造の中間層には、ブルーの複合樹脂が挟まれる。黒一色になりがちなセラミックケースに、側面から青の帯が走る構成だ。チタン製のリューズとプッシャーにも青のインサートが入り、差し色を立体的に散らしている。
ダイヤルはサファイアクリスタルそのもので、不透明な文字盤を持たない。サファイア越しに、スケルトン化されたHUB4700の構造が透けて見える。針とアプライドのインデックスはブラッシュ仕上げで、夜光を充填する。フランジは青く、白の分秒目盛りを刷る。日付は4時と5時の間にあり、黒地を青の縁で囲む。クロノグラフは9時に小秒、3時に30分、6時に12時間の各カウンターを置き、サブダイヤルの縁も青で統一する。中央のクロノ秒針は、Hロゴをカウンターウェイトとしてあしらう。
心臓のHUB4700は、コラムホイール式の自動巻きクロノグラフである。毎時36,000振動の高振動ゆえ、秒針の運びは滑らかに見える。ローターはHの形に開口され、裏面のサファイアからも観察できる。
ストラップはブルーのアリゲーターをラバーに重ねた構成で、黒セラミックと黒メッキチタンのデプロワイヤントバックルで留める。45mmのトノーは手首での存在感が大きいが、湾曲したケースとサファイアの広い見開きが、視認性と装着感を支えている。
系譜と歴史
601.CI.7170.LRが属するSpirit of Big Bangは、2014年に発表された。樽型ケースを採るこのコレクションは、丸型のBig Bangとは別の系統として加わった。発表当初はチタンとキングゴールドが中心で、いずれも黒セラミックのベゼルを選べた。ケース全体を黒セラミックで構成する仕様は、その後の拡張で加わっている。
本機のようにブルーを差した構成も、コレクションが広がる過程で生まれた。601.CI.7170.LRの正確な追加時期は公開情報からは確定しにくいが、2019年製とされる個体が市場に存在することから、遅くともこの頃までにはカタログに並んでいたとみられる。同じブルーの主題を持つ兄弟Refとして、チタン製の601.NX.7170.LRと、キングゴールド製の601.OX.7180.LRが知られ、本機はそのうち黒セラミックを外装に用いた一本にあたる。全身を黒で統一した601.CI.0173.RXとは、黒セラミック外装を共有する近縁にあたる。
その後、Spirit of Big Bangの主軸は45mmから42mm世代へと移行した。45mmの黒セラミック・ブルー仕様は現在では生産を終えており、トノー初期の45mm世代を今に伝えるRefのひとつとなっている。