設計思想
1. 金属の蛇から、革をまとう蛇へ
セルペンティは、ブルガリのジュエリーウォッチの系譜を担ってきた。その腕時計は長く、トゥボガスに代表される金属のブレスレットと一体で語られてきた。蛇腹状に巻いた金属の帯が手首を包み、その先に時計の頭部が据わる構成である。2017年、ブルガリはこの前提を外した新しいラインを発表した。
ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)の公式サイトにも、このラインの紹介文が載る。WatchBaseとその紹介文は、これを革のストラップを備えた最初のセルペンティと位置づける。102782は、その新ラインに属するステンレススチール版の一本である。
2. 皮を脱ぎ替える蛇という発想
意匠を率いたのは、ブルガリの時計デザインを統括するファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニである。ハーパーズ バザー アラビアの取材に対し、彼は新しい着け方を探るスケッチから構想を始めたと語っている。美しさと機能というセルペンティの二つの要件は、どの案でも守ることを重んじたという。
専門メディアのTime+Tideは、この試みを、トゥボガスの強い存在感から離れて個人化と変身を探るものと評した。発表資料が繰り返した比喩は、皮を脱ぎ替える蛇である。時計の頭部はそのままに、ストラップを替えれば装いが一変する。ストラップは持ち主が自分で付け替えられ、購入時には2本が付属した。追加の色はブティックで選べた。
3. 選ぶ過程を設計に組み込む
新ラインは、時計を選ぶ行為そのものを製品の一部にした。ケースの素材、文字盤、石留め、ストラップの組み合わせは300を超え、専用のアプリで完成形を確かめられた。裏蓋に好みの刻印を入れることもできた。ブルガリは、こうして組む新ラインを自社初の受注生産の時計と位置づけた。
102782は、その組み合わせの出発点にあたる。鋼のケースに黒のラッカー文字盤、黒のカルングという構成は、フィリピンの日刊紙で基本のスタイルとして紹介された。同じ記事は、このラインを若い顧客層へ向けた展開の一つとして報じている。ダイヤモンドも色も足す前の素の状態を示すことが、本機の役割である。
4. ツイストへの継承
翌2018年、ブルガリは同じ路線の新作を「セルペンティ・ツイスト」として発表した。交換の対象は革のストラップから金の細鎖のブレスレットへ及び、時計の頭部を固定して外装を替える考え方が素材の幅を得た。2017年の本機は、その考え方を最も簡素な形で示した最初の世代に属する。
意匠分析
102782の頭部は、27mmの湾曲したステンレススチールケースである。蛇の頭をかたどる輪郭は、トゥボガスのケースを基に比率を改めたものとされる。湾曲したケースは手首の丸みに沿い、二重に巻くストラップへ輪郭をつなぐ。本機のベゼルは石を持たず、金属の縁だけで蛇の頭の形を見せる。同じラインの鋼の102780と102781が、ベゼルにダイヤモンドを並べるのとは対照的である。
文字盤は黒のラッカー仕上げである。同ラインにはマザーオブパールやサンレイ状のギヨシェを用いた仕様もあるが、本機は黒の単色で面を覆う。WatchBaseの記録では、インデックスは混成、針は剣形である。風防と裏蓋も、同じ記録ではサファイアクリスタルとクローズドである。閉じた裏蓋は、持ち主の刻印を入れる面にもなった。
黒と鋼でまとめた外装の中で、唯一の色はリューズにある。カボションカットのピンクのルベライトが据えられ、ブルガリが宝飾の署名として用いてきた手法を小さく受け継ぐ。
ストラップには、毒を持たないミズヘビの一種であるカルングの革が使われる。皮が薄くしなやかで、鱗の大きさはトカゲと一般的なヘビの中間にあたる。入念ななめしを経て天然顔料で染め、ワニスで控えめな艶を与える。発表資料は、蛇の時計に蛇の革を巻くこの選択を、セルペンティの物語の自然な続きと説明した。留め具は簡素なピンバックルで、手首の上で厚みを増やさない。
ムーブメントは時・分のみを表示するB033で、秒針を持たない。動き続ける針を置かないことで、文字盤は宝飾品としての静けさを保つ。小さな頭部に薄いクォーツを収める組み合わせが、細い革のストラップで支えられる軽さを成り立たせている。
系譜と歴史
102782は、2017年3月のバーゼルワールドでブルガリが披露したセルペンティの新ラインに属する。発表資料は「Twist your time」を掲げ、交換式の二重巻きの革ストラップを新機軸とした。ラインはステンレススチールとピンクゴールドのケースを軸に、ダイヤモンドの有無と文字盤の色で構成された。
WatchBaseは同ラインの主要な6本を、いずれも2017年の製品として記録する。内訳はピンクゴールドが3本、ステンレススチールが3本である。本機は鋼の3本のうち、黒の文字盤を持つ一本である。WatchBaseは、英数字の型番SPS27BSLも併記する。
発表資料は、ブティックでの取り扱いを同年5月からと告知していた。一方、4月中旬の報道には、その月から世界のブティックに並ぶとするものもある。展開に合わせ、ブルガリは一部のブティックにタブレット用のアプリ「My Serpenti」を用意した。
2018年3月、バーゼルワールドに先立つ発表で、ブルガリは「セルペンティ・ツイスト」の名で4つの新しい変奏を加えた。新たに加わったのは、手首を4周する革ストラップと、アンティークブロンズの風合いを帯びた金色の2周巻きストラップである。ピンクゴールドの細鎖を束ねたブレスレットも用意された。いずれも交換でき、鎖のブレスレットと革のストラップは互いに付け替えられる。アプリの選択肢にもブレスレットが加わった。
生産終了を告げる公式の発表は確認できず、仕様表にも終了年は記録されていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 BVLGARI, Serpenti | GPHG
- 02 報道 Bulgari Twists Time With New Serpenti Watch Collection
- 03 報道 Bella Hadid for a younger, trendier Bulgari
- 04 専門メディア HANDS-ON: When your hands are tied, consensually – Bulgari Serpenti Skin collection
- 05 専門メディア Bulgari 102782 : Serpenti Skin Stainless Steel / Black
- 06 専門メディア BASELWORLD 2017: The New Serpenti – Twist your time!
- 07 専門メディア Bulgari Serpenti Twist Your Time
- 08 専門メディア Serpenti Twist Your Time