設計思想
1. 蛇と麦穂を一本に結ぶ
2014年、ブルガリはセルペンティの腕時計に新しいブレスレットの語彙を加えた。それがスピガである。スピガはイタリア語で麦の穂を指し、穂を編んだような文様をブレスレットに刻む。同社の説明では、この文様は1990年代にメゾンの宝飾デザインで初めて用いられたとされる。
麦の穂は古代ギリシャ・ローマで豊穣と繁栄を表し、婚礼とも結びついていたと、ブルガリは発表資料で述べている。再生を象徴する蛇と、実りを象徴する麦穂。性格の異なる二つの記号を一本のジュエリーウォッチに重ねることが、このラインの出発点であった。色彩への愛着や素材の対比といった、同社がセルペンティの特質に挙げる要素も、その延長に置かれている。
2. 4つの初期構成と102129
2014年9月にEuropa Starが紹介した発表資料は、スピガを4つの構成で示している。ケースはスチールか18Kピンクゴールドで、ブレスレットには白または黒のセラミックを組み合わせる。102129はこのうち、スチールとブラックセラミックにダイヤモンドを加え、手首を1巻きする仕様に当たる。
同じ資料には、スチールとホワイトセラミックの仕様、ピンクゴールドに白または黒のセラミックを合わせた仕様も並ぶ。WatchBaseは同じスピガの名で、本機のほかに3本を収録する。スチールとホワイトの102182、ピンクゴールドとブラックの102128、ピンクゴールドとホワイトの102202である。発表資料の記載では、スチールとホワイトセラミックの仕様にダイヤモンドの記述はない。スチールの2仕様のうち、ダイヤモンドを備えるのは本機の側である。金を使わずに宝飾の光を備える点に、102129の位置づけがある。
3. 素材の主従が入れ替わる前の形
スピガの系譜は、その後に素材の組み立てを大きく変えていく。まずセラミックが胴の装飾から時計全体の素材へと広がり、ピンクゴールドを差し色に回す版が現れた。次いで、セラミックを使わず、貴金属のリンクだけで麦穂の文様を描く版が加わった。名前と文様を受け継ぎながら、何で形を作るかは世代ごとに変わっている。
この流れに置くと、102129はスチールのケースを骨格とし、セラミックを胴の装飾として使った最初期の構成を伝える。金属を主、セラミックを従とする配分は、全体をセラミックで作る後の版とは逆である。系譜の起点にある組み合わせとして、本機はスピガが何から始まったかを示す手がかりになる。
意匠分析
102129の造形は、蛇の頭に当たるケースと、麦穂の胴に当たるブレスレットの二つから成る。頭部のケースはステンレススチール製で、公称のケース径は35mmである。手首の丸みに沿うよう、曲面を描いて成形されている。ベゼルにはブリリアントカットのダイヤモンドがセットされ、スチールの面に細かな光の縁取りを与える。
リューズにはピンクのルベライトをカボションで据えるとされる。セラミックケースの102532では、公式の記載上、同じ位置にセラミックのカボションが置かれる。黒と銀、ダイヤモンドの白で組まれた本機にとって、この色石はほぼ唯一の暖色であり、蛇の眼のような一点として働く。
文字盤は黒である。2014年の発表資料はラッカー仕上げとローマ数字の表示を挙げる。WatchBaseもインデックスを複数形式の混在と記録する。装飾の多い外装に対し、文字盤は地色を黒に抑え、時刻の読み取りをローマ数字に託している。秒針は持たず、文字盤の上で常に動き続ける要素がない。宝飾の静けさを保つための選択と読める。
ブレスレットはスチールとブラックセラミックを組み合わせ、ダイヤモンドを連ねる。ブルガリの説明によれば、麦穂の文様はブレスレットを伝い、蛇の頭で頂点を結ぶ。2014年の4構成のうち、2巻きとされたのはピンクゴールドとブラックセラミックの版だけである。本機は手首を1巻きする長さにとどまる。スチールを地とし、黒いセラミックで文様に陰影を与える配分が、胴の表情を決めている。
ムーブメントには、ブルガリ向けに仕立てたクォーツのB033が収まる。時と分だけを示す構成は、機械の存在感を前に出さず、頭部を造形の器として扱う考え方と一致する。色数を抑えた素材に、ダイヤモンドの光と色石の一点を加える。素材の対比を最小限の色で示した構成として、本機は読める。
系譜と歴史
102129を含むセルペンティ・スピガは、2014年に腕時計として登場した。同年9月にはEuropa Starがブルガリの発表資料をもとに4つの構成を紹介している。そのうち、スチールとブラックセラミックにダイヤモンドを組み、1巻きのブレスレットを持つ仕様が本機に当たる。同じ資料はムーブメントをブルガリ向けのクォーツ、キャリバーB033と記す。WatchBaseも、本機の搭載機をB033と記録している。
2016年のバーゼルワールドでは、黒または白のハイテクセラミックを全体に用いたスピガが加わった。ベゼルとブレスレットの取り付け部、蛇の尾にはピンクゴールドを合わせる。本機のようにスチールやピンクゴールドのケースを骨格とする構成に対し、セラミックを主材とする系統がここから始まる。2026年10月時点の公式サイトには、ブラックセラミックのケースを持つ102532がスピガの名で掲載されている。
2021年1月のLVMHウォッチウィークでは、金とダイヤモンドのブレスレットを持つ新しいスピガが発表された。ピンクゴールドの103250と103252、ホワイトゴールドの103251の3本である。
本機の生産終了年と、生産期間中の仕様変更を伝える公式資料は、現時点で確認できていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Serpenti Spiga Watch 102532
- 02 専門メディア Serpenti Spiga by Bulgari
- 03 専門メディア Introducing: ブルガリ セルペンティ スピガ 2021年新作
- 04 専門メディア INTRODUCING: Bulgari slithers into 2021 with a trio of Serpenti Spiga watches
- 05 専門メディア Bulgari 102129 : Serpenti Spiga Stainless Steel Black
- 06 専門メディア Bulgari Serpenti watches
- 07 専門メディア Bulgari debuts new style icons as the Serpenti sheds its skin
- 08 専門メディア Baselworld 2016: THE PERPETUAL REBIRTH OF SERPENTI
- 09 専門メディア The eternal rebirth of Serpenti