設計思想
1. Chronomatというシリーズの再起動
Chronomatという名は、Breitlingにとって長い歴史を持つ。1983年、Schneider家経営下のBreitlingがイタリア空軍曲技飛行隊「Frecce Tricolori」向けに開発したクロノグラフを母体とし、翌1984年、創業100周年を機にRef. 81950として一般市場に投入された。スライドルール式ベゼルを伴った旧来型のClassic Chronomatとは別系譜であり、4つのライダータブを備えたベゼル、オニオン型リューズ、Rouleauxブレスレットといった意匠は、その後40年にわたるBreitlingの代表的アイコンとして定着していった。
2020年、CEO Georges Kernのもとで進められた製品ラインの再編により、Chronomatは再び大きな転換点を迎える。男性向けの中核モデルはケース径が44mmから42mmへ縮小され、Rouleauxブレスレットが復活し、デザインは1980年代のオリジナルに近い佇まいへ引き戻された。本Refはこの「2020年再起動」期に登場した、コレクション初の女性専用ラインの一つである。
2. 「女性専用Chronomat」というプロジェクト
Breitlingはこれまで、NavitimerやSuperoceanの主要シリーズで小径モデルを追加することで女性層へ訴求してきたが、Chronomatに関しては男女兼用としての扱いが続いていた。2020年10月から11月にかけてオンラインで行われた発表会で初公開されたChronomat Automatic 36と本Chronomat 32は、Breitling史上初めて、明示的に女性ユーザーを想定して企画されたChronomatのラインアップである。発表に合わせて公開された「Spotlight Squad」キャンペーンには、Charlize Theron、Misty Copeland、Yao Chenが起用され、ブランドの方向性が明確に示された。
技術構成上、この2サイズの女性向けChronomatは別個のキャリバーで設計された。Automatic 36には機械式のキャリバー10が、Chronomat 32には熱補正クォーツのキャリバー77が選ばれている。これにより本Refは、3〜4年に1度の電池交換のみで運用できる利便性と、32mm径・8mm台の薄型ケースに収まる寸法を両立させている。
3. このRefがコレクション内で占める位置
A77310101C1A1は、Chronomat 32の発売時から提供された7種のバリエーションのうち、最もベーシックな構成にあたる。スチールケース、ブルーダイアル、スチールRouleauxという、ジュエリー的装飾を持たない素の構成であり、コレクション全体のエントリーポイントとしての性格を強く持つ。同時期にはホワイトダイアルのA77310101A2A1、ダイヤモンドベゼル版、2トーン、フルレッドゴールド版なども展開されたが、本Refはこの中で「装飾を引いた基本形」を示すモデルである。
意匠分析
ケース径は32mm、厚さ8.54mm、ラグ幅16mm、ラグ間距離は39.4mm。スチール素材ながらヘッドのみで約32g、ブレスレット込みで約85gという仕上がりとなる。32mm径と8mm台の厚みは、女性の手首はもちろん細めの男性の手首にも素直に収まる寸法配分である。
このRefを語る上で最初に押さえるべきは、ベゼルが固定式であるという点である。男性向けのChronomat B01 42などでは、4つのライダータブを備えたベゼルは単方向に回転し、潜水や経過時間計測の実用機能を担う。一方、Chronomat 32のベゼルは、ライダータブこそ4方向に張り出すものの、本体に対しては固定されている。すなわちChronomat 32におけるライダータブは、Frecce Tricolori由来の意匠的アイコンとしてのみ機能する装飾要素であり、ベゼル回転やカウントダウン用途は持たない。
ダイアルはミッドナイトブルー。中央にBreitlingロゴと「Chronomat」「Chronometer」の刻印を備え、6時位置に日付窓が開く。バーインデックスにはSuper-LumiNovaが充填され、針もルミナス処理を受ける。インデックス配置はオーソドックスな12時間表示で、サブダイアル等による視覚的ノイズはない。風防はサイドにわずかなドーム形状を帯びたサファイアで、両面に反射防止コーティングが施される。
ブレスレットは、1984年のオリジナルChronomat Ref. 81950で導入されたRouleauxブレスを32mmサイズへ最適化したもの。中央のバレル状リンクを左右からピロー状のリンクが挟む3列構造で、肌に触れる面が丸く処理される独特の感触をもたらす。バックルは観音開き式のバタフライクラスプを採用し、装着時に金具が手首側に表出しない。
ムーブメントはBreitlingキャリバー77。ETA Thermoline 956.652をベースとした熱補正クォーツであり、Breitlingが「SuperQuartz」と呼ぶ精度規格に準拠する。COSC認定を受け、ブランド公称で年差±15秒以内の精度を持つ。電池寿命は3〜4年、消耗が近づくと秒針が4秒ごとに飛ぶEOL(End of Life)表示を備える。リューズはねじ込み式ではなく2重ガスケットによるシール構造で、これが100m防水との両立を成立させている。
系譜と歴史
A77310101C1A1は、2020年に新生Chronomatコレクションの女性向けライン拡張の一翼として発表された。同年10月から11月にかけて、BreitlingはCEO Georges Kernが主導したオンライン・サミットの枠組みで「Spotlight Squad」と銘打った発表会を開催し、ブランドアンバサダーであるCharlize Theron、Misty Copeland、Yao Chenとともに、初の女性専用クロノマットとなるChronomat Automatic 36と本Chronomat 32を一斉に披露している。
発表時点でのChronomat 32は7種のバリエーションで構成され、ダイアル色はホワイトとミッドナイトブルーの2色を軸に、ステンレススチール、ステンレス×レッドゴールド、フルレッドゴールドの3つの素材構成、加えてダイヤモンドセット・無セットの違いで組み合わせる体系であった。本Refはこの中で、スチールケース・ブルーダイアル・スチールRouleauxという最も装飾の薄い構成を担う立ち上げメンバーである。
その後、Chronomat 32のレンジは段階的に拡張されてきた。2024年には、ミントグリーンダイアルのA77310101L1A1、ピンクダイアルのA77310101K1A1などの新色がカタログに加わり、ダイアル色の選択肢が当初の2色から大きく広がっている。2025年には、ラグビー欧州6カ国対抗戦に合わせた限定シリーズ「Six Nations」が、参加6協会ごとに各75本の極小ロットで投入されたほか、東アラビア数字をインデックスに採用したダイヤモンドセット派生も加わり、地域別・用途別の派生展開が進んだ。
A77310101C1A1自体は、発表以降、目立った仕様変更を経ずに継続生産されており、2026年5月時点でも公式カタログに現行品として掲載される。Chronomatコレクションには28mmのさらに小径ラインも追加されているが、本Refはコレクション内における32mmクォーツ機の基準点としての位置を保ち続けている。